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第三百九十五話 軍資金ゲットだぜ

 出る出る、次から次に出る。

 見た目は小さな巾着でしかない無限袋から、小型、中型、大型の魔物に、超大型の変異流血樹まで。

 プローデが魔法の鞄から出した魔物の量でもかなり多い方だが、鈴音のそれは常識を遥かに超えていた。その多くは、見張り中の鈴音を襲撃しようとした無謀な魔物達だ。

「えー、うわー、まだ出るー!?なんだこれー!」

 職員が頭を抱えて目を白黒させる中、宣言通り床にドサッと魔物を山積みにして、鈴音は虎吉を抱え直す。

「はい、これで全部です。今直ぐお金に変えたいんですけど、可能ですか?競りにかけなアカンとかあります?」

 あんぐりと魔物の山を見ていた職員は、一瞬何を言われたか分からないという顔をするも、意味を理解するや冗談のような汗を掻き始めた。


「え、ちょ、あの、全部?全部、いますぐ?即金買い取り希望?です?」

 動揺が激し過ぎて敬語は使えていないし、言っている事もよく分からない。

 やはりこうなったか、と想定済みの鈴音は冷静に返した。

「全部纏めて今直ぐ()うてくれるなら助かりますけど、無理やったら出来る分だけで構いませんよ。残りは後日いう形で」

「それで。是非、それで。今、これ、全部、無理」

「はい、ほなそういう事で」

 涙目のカタコトに鈴音が頷くと、職員は通用口へ走って行き大声で応援を呼んだ。

「たぁすけてくれぇー!」

「いや、人聞きの悪さ!」

 誤解を生みそうな応援要請に鈴音が愕然としながらツッコみ、骸骨が大きく肩を揺らす。

「でも気持ちは分かるかも……。凄すぎですよ鈴音さん」

 緩く首を振るプローデと、そうなのかと感心するディナトが眺める先では、応援に駆け付けた職員達が『何じゃこりゃあ!?』と目を丸くしていた。

 何が起きているのかを泣きそうな職員から説明され、全員が同じような顔になったのは言うまでもない。



 待つ事1時間。

 倉庫のような部屋の隅っこに椅子とテーブルの休憩セットを作り、のんびりとお茶を飲んでいた一行のもとへ、最初に応対してくれた職員が声を掛けにきた。

 休憩セットを片付けてついて行くと、仕分けされ綺麗に並べられた魔物が目に飛び込んでくる。

 流血樹など巨大な物は10人がかりで動かしたようで、職員全員へたり込んで遠い目をしていた。

「警察の押収品が映ったニュース思い出すわ」

 物凄く大変だったろうな、と少々申し訳なく思いつつ、鈴音は立ち止まった職員が出した紙へ視線を落とす。


「えー、こちらが今回お持ち頂いた素材の明細書です。この場で買い取った場合の金額が直ぐに分かる物だけ、横に数字が書いてあります。他は素材の状態も見なければならないし、あー、需要があるか確認しなければならないし、そのー、金額に関しても……」

「あ、はい、大丈夫です。今はこの金額が書いてある分だけ売ります」

 他も査定しろなんて言わないでくれ、と目で訴えている職員に鈴音が頷くと、へたり込んでいる職員達から拍手がおきた。

「で、では黒殻虫32体と15体、首狩虫5体と……」

 明らかにホッとした職員が、鈴音とプローデそれぞれに買い取り額を伝える。

 鈴音は提示された金額を日本円に直さなければ平常心を保てるので、『この額で売ります』と冷静に受け答えした。

 しかし、プローデはこの世界の住人である。独りで細々と活動してきた探検家だ。流石に大金貨を見たことがないとは言わないが、頻繁にお目に掛かるものでもない。

 そんな田舎の純朴な青年が、見たこともない数字を目にするとどうなるか。


「鈴音さん鈴音さん、僕の目がおかしくなってしまいました」

 困り顔を向けられ、鈴音は首を傾げる。

「どないしました?金額おかしいですか?」

「はい、だって、大金貨160枚って書いてます」

 プローデ用の明細書を見た鈴音は、記されている数字を確認し頷いた。

()うてますよ?黒殻虫が1体で大金貨10枚やから、それだけで150枚なるし。ね?」

 鈴音の視線を受け、職員も頷いている。

「あ、合ってる……?じゃあ、大金貨160枚が僕の物?」

 じわりとプローデの顔に汗が滲んだ。

「今日の所は、ですよ?まだ残ってますもん、流血樹とか他のも」

「えっ」

 鈴音に言われプローデが固まる。

 それに気付かず職員が口を開いた。


「すみません、流血樹は今とても需要が高くて、こんな立派なのは幾らになるか、ちょっと直ぐには……。勿論ここで買い取りも出来ますけど、競りにかけた方が確実に高く売れますよ?どうします?」

「競りはいつ開かれるんですか?」

「ちょうど明日が競りの日なので、明日の昼までには換金出来ますよ。流血樹の他も鉱山の魔物ばかりだし、争奪戦になるでしょうね」

 グッと拳を握る職員を眺め、鈴音は顎に手をやる。

「その方が色んな人に喜ばれるかな?ほな私のんは競りにかけて下さい」

「分かりました。手数料は頂く事になりますが」

「はい、お願いします」

 話が纏まり、鈴音と職員が『そっちはどうする?』とプローデに目で問い掛けた。

「競りに出すと高く……?争奪戦……?ううーん」

 何やら考え込んだプローデだが、風呂でのぼせた人のように顔を赤くしてしゃがみ込んでしまう。

 どうやら、大金貨160枚で混乱している所へ、更に大金が手に入りそうな話をされた結果、処理能力の限界を大幅に超えてしまったらしい。


「ありゃー、大丈夫ですか?でもお金はあって困るもんでもないし、稼げる時に稼いどきましょ。彼の分も競りにかけて下さい」

 顔を覗いて、命に別条はないと判断した鈴音が依頼し、職員もそれがいいと同意する。

「では纏めて明日の競りに出しますね。昼頃にまたここの受付に来て頂ければ、売上をお渡ししますので」

「分かりました、お願いしますね」

「はい。それでは今日買い取った分の代金を」

 職員がそう言うと、別の職員が革袋を2つトレイに載せてやってきた。

 円に換算しなければ平気だとはいえ、金貨そのものを見ればやはり鈴音も動揺する。

「お確かめ下さい。その後こちらに署名を」

「あ、はい、どうもー」

 ズッシリと重い袋を受け取り、こちらは大金貨350枚を数えなければならない。

 プローデの分は骸骨が受け取り、顔の前で手を振って意識を呼び戻そうとしている。

 それを見ていたプリムスが隣にしゃがんだ。

「あまり長居しても迷惑だろうし、プローデ君の分は我々で数えよう。枚数は分かっているのだから、問題はないさ」

 それもそうかと骸骨が頷き、プリムスと手分けして160枚を数える。


手伝(てつど)うたろか、ほれ」

「ぎゃー、可愛い!可愛いけどお金で遊ばない!」

 鈴音が10枚ずつの山を作る横で、虎吉が左前足をチョイチョイと動かし大金貨をおはじき代わりに。

 そんな様子を微笑ましく見守るディナトだが、皆がしゃがんでいるのに自分だけ立っているのもおかしいと思ったか、鈴音の真似をして金貨を数え始めた。

「うわ畏れ多い。すみませんディナト様」

 神の手を借りる事に恐縮しまくりの鈴音へ、ディナトは笑って首を振る。

「付き合って貰っているのはこちらだ。これくらいはしなければ」

「ありがとうございます」

 大きな手で金貨を崩さず積む器用さに感心しつつ、鈴音は再度頭を下げた。


 途中、我に返ったプローデが大金貨の山を見てまた意識を飛ばしかけ、骸骨とプリムスが必死に呼び戻したり、鈴音は虎吉が山へそろーっと前足を伸ばすのを止めたりと、賑やかに数の確認を終えて一行は立ち上がる。

 確かに受け取ったと受領証にサインして、明日の昼にまた来る約束をし職員達と別れた。

 受付の前を通ると、坊主頭の職員が愉快そうに笑う。

「何だかとんでもない騒ぎになっていたね?」

「ちょーっと持ち込んだ量が多かったみたいですねー」

 人差し指と親指で狭い隙間を作り、ちょっと、の部分を強調すると坊主頭は大笑いした。

「そうかそうか。競りにかけるのかい?」

「ええ。明日の昼にまた来ます」

「了解、高く売れるといいな」

「フフフ、多分どえらい値段なる思いますよ。ほな」

 坊主頭に手を振って別れ、一行は卸売組合を後にする。



「さて次は……」

「メシ」

「あ、そうやね朝ごはん食べな。飲食店どっち?」

 虎吉のリクエストに応えるべく鈴音が振り向いて尋ねると、プリムスは迷わず通りの向こうの路地を指した。

「そこを抜けると早い」

「おー、抜け道まで知ってるんや、流石。助かるわー」

「無駄に旅はしていないのだよ、フフン」

 食事が出来ない不死人(しなずびと)を飲食店に付き合わせる申し訳なさから、鈴音はよいしょよいしょとプリムスを持ち上げる。

 分かっていても気持ち良いのか、プリムスも胸を張ってご機嫌さんだ。

「何があるか楽しみやね」

「夜が肉だったので、魚があるといいですね」

 そんな会話をしながら皆で仲良く路地を抜けた。



 飲食店街では魔獣も入れる店を探してテラス席に着き、それぞれが気になる料理を注文。

 今度は白猫の分も忘れずに買い求め、虎吉と同じ肉料理を大皿いっぱいに盛って貰った。

 プローデの前では不死人の振りをしている骸骨が後で食べられるよう、チーズのフライも頼んである。

 鈴音は白猫への土産の参考にすべく、トゥーンという魚をソースに使った四角いパスタのような料理を頼んだ。

「あ、マグロや。オリーブオイルで炒めたマグロっぽい」

 運ばれてきた料理を味わいつつ、1匹で白猫も満足するような大きい魚がいると、女神ノッテが言っていた事を思い出す。

「美味しいし、この魚がええかなお土産は。なあなあ、魚買うならコスタの街の方がええの?」

 問われたプリムスは当然だと頷いた。

「そりゃあ種類も豊富だしね。鮮度は魔法の鞄のお陰でどの街だろうと問題ないけど、どうせ買うならとれたてがいいじゃないか」

「何となく分かる。あと、デッカい魚は切り分けて売られてそうやから、まるごと買うなら港な気もする」

 そうなると、プローデの村で鹿肉を買った後、コスタの街に戻るというコースになるなと鈴音は脳内に予定表を作る。

「この街ではまず、研磨職人探しか」

 呟いてパスタを口に運んだ所で、隣の席の会話が耳に入った。


「何かとんでもない剣を打った鍛冶屋が居るんだろ?この街」

「おぉ、あのフェッロ親方が、誰も持ち上げられない剣、とかいうのを作っちまったってな。この数週間その話題で持ち切りよ」

「持ち上げられないって、親方はどうやって打ってたんだよ」

「作ってる最中は普通だったらしいぞ?出来上がった途端、急に物凄い重さになって床に刺さったとか」

「そっから上がらないって事か」

「らしい。最初は近所の力自慢、次は警備隊、そっから話が広がって国軍の力自慢、ついには隣国の騎士だか戦士だか、国の英雄みたいなのまで引っこ抜きに来てるんだと。このまま行きゃ、別の大陸にまで伝わるのも時間の問題だな」

「因みに抜けたら何かいい事あるのか?」

「女神様の剣士、みたいな肩書きが手に入るってよ。なんせフェッロ親方が女神様の夢を見た後に、こんな事になったって話だからな」

「そりゃまた凄いな。女神様が気に入った奴がその剣の持ち主になれるのか」

「試しに行ってみるか?」

「馬鹿言え、剣士でもないブサイクはお呼びじゃないだろ。って誰がブサイクだ!」

「わはははは」


 最後までしっかり会話を聞いた鈴音は、何とも微妙な表情で首を傾げている。

「偶然……にしては出来過ぎ?」

 職人の街なのだから伝説の鍛冶師が居てもおかしくないし、魔力のある世界なのだから丹精込めて打った剣が特別な力を持っても、まあ、おかしくはない。

 ただ、フィアンマの原石を手に入れれば、次に訪れるのはこのアルティエーレ。

 うっかり道に迷って神と出会った、特殊な身体能力を持つ青年が確実に来る街だ。

 本来は予定に無かったかもしれないのに、鈴音と合流した事により大賢者も来る事になった。

「どう考えてもこれ、プローデさんに剣抜かしたいんやんなぁ……。プリムスは剣なんか使わへんし。けどそれやったらプローデさんにお告げなりして、直接あげたらええのに」

 何故こんなまどろっこしい事をするのだろう、と考えて、女神様の剣士という肩書きに思い至る。

「そうか、直接あげたら見る人も限られてくるやろし、本人がなんぼ女神様に貰た剣や言うても信憑性に欠けるいうか……ヤバい奴や思われるか」

 だから有名鍛冶師に打たせ、超常現象を起こし、国まで巻き込んで伝説を作ろうとしているのだ。


「ほなやっぱりプローデさんの能力は、ノッテ様が与えた特別なもんって事?んー、でもここ最近まで特に何の接触もしてへんの何で?急に伝説の剣で女神様の剣士とか、何かあったんやろか。魔王でも生まれる?」

 鈴音の推理を神界で聞いていたノッテは『うぅ、違うのよ、そんなおおごとじゃないの……どうしましょう』と恥ずかしげな顔で額を押さえている。

 どうやら大した理由ではないようだが、鈴音にその声は聞こえない。

「ま、ええわ。とにかくその鍛冶屋さんに、プローデさん連れてったら分かるやろ」

 うんうんと頷いて、パスタ風料理を平らげる。

 肉を食べ終え膝に乗ってきた虎吉に口元を嗅がれつつ、鈴音はディナトとプローデが食べ終えるのを待った。

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