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第三百九十三話 月の下で語ろう

あけましておめでとうございます(´ω`*)



「いい感じに焼けました!」

「ありがとうございまーす。ほな頂きますね」

「どうぞー」

「早よ」

「恩に着る」

 程よく焦げ目の付いた肉を、プリムスと骸骨を除く皆で頬張る。

 骸骨は不死人(しなずびと)の振りをしている為、プローデが見ている前では飲食を控えるらしい。

 仕方がないと言えば仕方がないのだが、しっかりとした噛みごたえのある肉は旨味たっぷりで、柔らかな牛肉等とはまた違った美味しさがあり、これを食べられないというのは何とも気の毒だ。

 なので鈴音は、自らに割り当てられた肉を串から外して皿に盛り、無限袋に仕舞っておいた。


 虎吉はちゃんと食べられているかな、と地面に置いたお膳に視線を落とせば、鈴音が風で冷ました肉を左前足で押さえ、ワイルドに噛み千切っていた。

「わー、虎ちゃんカッコええなぁ。うちの子らやったらそもそも食べ物として認識せぇへんか、よう噛み千切らへんか、どうにか飲み込めても即マーニャイオン(リバース)やわ」

 生まれてこの方キャットフードしか食べていない家猫に、野性味溢れる肉はハードルが高い。

「向き不向きあるからな、無理さしたらアカンで」

 ペロリと平らげた虎吉はそう言って、肉を押さえていた前足を水気を払うようにピピッと素早く振ってから、せっせと舐め始める。

 肉汁の付いた肉球が美味しいのか、暫くそうして丁寧に舐めていた。鈴音の目尻がドえらい事になっているのは言うまでもない。




 美味しかった、ありがとうと皆でプローデに礼を言い、鈴音は熱湯で串を洗って返却。

 まさかこの場で綺麗になるとは思っていなかったプローデは、目をキラキラさせて感謝した。

 その後は鈴音が最初の見張りを担当するという事で、皆はベッドと椅子へ。

 やはり疲れていたのだろう、直ぐにプローデの寝息が聞こえてきた。

 すると、それを確かめてからムクリと起き上がったプリムスが、揺れる炎を眺める鈴音のもとへやってくる。

 黙って向かい側に座る大賢者を、鈴音は微笑んで見つめた。


「何となく色々察したやろに、プローデさんの前では黙っといてくれてありがとうな」

 膝の上で香箱座りしている虎吉を撫でながら鈴音が言うと、器用に胡座をかいたプリムスは幾度か頷く。

「私がおとぎ話に出て来る不死人(しなずびと)と知っただけで、ああだからね。キミに『女神様に遣わされた人だね?』なんて問い掛ける所を見たら、衝撃のあまり死んでしまうかもしれないし」

 確かに、死にはせずともショックで倒れた上に記憶を失いそうだ、と鈴音は遠い目をした。

「事実、女神様の関係者という事でいいのかね?」

 顔を上げてこちらを見たプリムスに、鈴音はしっかりと頷く。

「女神様の使いではないねんけどね。私の主は別の御方。この虎ちゃんの本体である、猫神様にお仕えしてんねん」

「……待て。この世界には女神様以外の神も存在するのかね?ねこ神?ねこは神だった?ディナト殿が言っていた、奥方憧れの美しい女神は?もしや、ねこ!?」

 額を押さえたプリムスの混乱は尤もなので、力の神と火の神の夫婦喧嘩云々は省いて説明すべく、鈴音が口を開きかけると。

「すまん、猫の神は確かに美しい女神だが、私が言った美しい女神はまた別の女神なのだ」

 プローデが寝ている事を確認しながら、ディナトも起きてきた。


「別!?女神様は1人じゃなかった!?美しさ乱立!」

 更に混乱したプリムスを眺めつつ、唯一神の世界だから神を数える単位が無いんだな、と思った直後に鈴音は首を傾げる。

「ノッテ様の旦那様はこの世界の神やないんかな」

 虹男とサファイアの例もあるので一概には言えないが、少なくともプリムスは男神の存在を知らないようだ。

 これはもうノッテに聞く方が早いなと頷き、隣に来たディナトへ魔力で椅子を作り勧めた。ありがとうと微笑んで、ディナトが腰を下ろす。

「あんたも椅子いる?」

「いや結構。それより話を聞かせて欲しい」

 プリムスが首を振ってそう言えば、ディナトは鈴音を見て頷いた。

「私の愚かな行動も含め、全部説明してやってくれないか。その、私では言葉が足りないだろうから」

 夫婦喧嘩について話せるのは大変助かるので、『ありがたや』とディナトを拝んでから鈴音はプリムスに向き直る。

「かなり荒唐無稽な話やで。大賢者て呼ばれる頭でしっかりついて来てよ?」

「努力しよう」

 居住まいを正すプリムスに微笑んだ鈴音は、自分が異世界人であり、ディナトもまた異世界の神であるという所から説明を始めた。




 数分後。

「…………あー…………」

 胡座をかいて腹の前辺りで手を組み、俯き加減で悩むプリムスの姿を眺め、即身仏みたいだなあと思いながら鈴音は気長に待つ。

 何しろ、異世界に神界に大勢の神々に、とそれだけで情報過多な所に加え、目の前に居るのは力の神と猫神の分身と神使、なんて言われたのだ。いくら大賢者でも、即座に理解出来る訳がない。

「こら復活まで暫くかかるかな?その間に骸骨さん、お肉食べとく?」

 無限袋からプローデが焼いてくれた肉を出して尋ねると、肘掛け付き椅子に収まっていた骸骨が嬉しそうに鈴音の横へ飛んで来る。

 鈴音と同じ目線まで降下して皿を受け取ると、ひと口サイズの肉を摘んで喉の奥へ放った。

 ビシッ、と親指を立てて大満足だと頷く。

「うん、分かる分かる、美味しいよね。骸骨さん的にはお酒があれば尚ヨシ、かな?」

 笑う鈴音と幾度か頷く骸骨を、顔を上げたプリムスが唖然呆然の様子で見つめていた。


「骸骨……もしや、不死人(しなずびと)ではない?」

 聞こえた小さな声による問い掛けで、そういえばと鈴音は思い出す。

「ホンマや、骸骨さんの説明忘れてるわ。ゴメンな、骸骨さんは異世界の冥界の住人で、罪人の魂に罰を与える神様の使いやねん。人界に留まろうとしたり逃げたりする魂を捕まえて、冥界に連れて行くんがお仕事」

 それを聞いたプリムスが、慌てて立ち上がろうとして失敗し、倒れないよう腕を振ってバランスを取った。

「狩ーらーれーるーーー!!」

 そう情けない声で叫ばれてやっと、鈴音も骸骨も彼が何故焦っているのか気付く。

「何でやねん、他所の世界の魂は関係あらへんがな。この世界の創造神様が人界に留まる事を許可してんのに、他所から来た神使が勝手に連れてったら大問題やん。それにやで、何で異世界来てまで働かなアカンねんな」

 鈴音が呆れたように溜息を吐き、その通りだとばかり骸骨も大きく頷いた。


「え、ああ、そう……本当かね?」

 ピタリと動きを止めたプリムスの疑り深い発言に、イラッとしたらしい骸骨が皿を鈴音に預けて伸び上がり、ローブから大鎌を取り出す。

「ギャー!狩るではなく!刈るだった!ギャー!」

「うるさいなー、プローデさんが起きるやろ」

 ジタバタしていたプリムスだったが、鈴音に叱られ意外にも素直に大人しくなった。

 骸骨も大鎌を仕舞い姿勢を低くして、再び肉を口へ放り込み始める。

「私と骸骨さんはディナト様の付き添いで来ただけやし、猫神様へのお土産が手に入ったらそれでええねん」

 そう言ってからハッと鈴音は目を見開いた。

「あっ!」

「んなな何かね!?」

「猫神様の分のお肉確保すんの忘れた」

 骸骨もパカッと口を開いて皿を見やるが後の祭り。

「これはあれや、プローデさんに何の肉やったんか聞いて、塊でゲットしよ」

 鈴音の提案に骸骨は幾度も頷く。

 神使ふたりから漂うやっちまった感に、プリムスは首を傾げた。


「そんなに深刻な事なのかね?」

「そらもう一大事よ。いっつも虎ちゃんばっかり美味しいもん食べて!て叱られてんねんこっちは。虎ちゃんが食べたもんは猫神様にも献上せなアカンねん」

 表情には鬼気迫る勢いがあるものの、鈴音の手は我関せずと目を閉じている虎吉を撫でているので、今ひとつ深刻さが伝わらない。

「もし献上出来ないとどうなる?」

「猫神様に嫌われるかもしれへん……」

 この世の終わりといった顔をする鈴音と、項垂れる骸骨。

「命を取られないなら問題ないのでは?」

 事の重大性が理解出来ないプリムスは、不用意なひと言を発したせいで神使ふたりから睨まれる羽目になった。

「猫神様に嫌われるなんて死んだも同然や!無理!私はどっかの創造神様みたいな鋼の精神力は持ち合わせてへんねん」

 白猫に嫌われたもののどうにか信頼を回復した男神を思い浮かべ、鈴音も骸骨も『真似出来ない』と首を振る。


「そ、そうかね。もし嫌われたらどうなる?」

 何でも知りたいプリムスは、ついついそんな事を聞いてしまった。ヤケ食い、ヤケ酒、その辺りを想像したのかもしれない。

 だが鈴音は、彼女の上司が『魔神?』等と言ってしまう存在である。

「猫神様に嫌われたりしたら、勢い余って世界の半分ぐらい滅ぼしてまうかもしらんわ」

 少し前までは近畿地方を吹っ飛ばせる程度だった力も今や、世界を相手に出来るまでになった。主にどこかの創造神が、沢山の力を分け与えたせいで。

「イーーーヤーーー!!危険!危険生物!帰って!?今すぐお帰りあそばして!?やっとここまで回復したのに、滅ぼされてたまるかーーー!!」

 頭を抱えて叫ぶプリムスへ、シーッと口の前に人差し指を立てて静かにするよう促す。

 慌ててプローデの方を見たプリムスは、幸せそうに眠っている様子にホッと胸を撫で下ろした。


「全く、キミが恐ろしい事を言うから」

「えー?しゃあないやん、猫神様に嫌われるいうんはそういう事やねんから。ほんで、やっとここまで回復したて言うたけど、この世界が滅んだんいつの話?何があったん?」

 そこには興味があったのか、静かに見守っていたディナトも身を乗り出す。

「あー、そうか、知らなくて当然か、この世界の住人でないのなら」

 困ったように頭骨を掻いたプリムスは、まるで深呼吸でもするかのように肋骨を動かし、大きく頷いてからゆっくりと語り始めた。

「150年程前に、ここの地下で見たような兵器を使った戦争があってね。私がそれを止める事が出来なかったばかりに、世界は滅んだのさ」



 この世界もかつては、車も飛行機もある発展した文明を持っていた。

 ただ、魔力による身体強化がある為、兵器開発はあまり進んでいなかったようだ。

 何しろ昔は警備隊の隊長クラスがゴロゴロ居たそうで、目にも留まらぬ速さで動く彼らに対応出来る物など、誰も思い付かなかったのである。

 だったら彼らを飛び越えて、敵国の首都を直接叩けばいいのでは、と魔法使いを飛行機に乗せて空から攻撃する方法も各国で試されたが、強化した兵士が引く弓の射程外からでは魔法が届かなかった。

 そしてこの実験が、魔法使いの立場を微妙なものにしてしまう。


 元々、味方を巻き込まないよう乱戦になると魔法の使用を控えていた魔法使い達は、兵士達から怠け者だと思われていた。

 そこへきて射程が弓に負けるとなると、怠け者どころか只の役立たずではないかと馬鹿にされるようになったのだ。

『戦場では役に立たないから、魔物退治を専門にするといい』

 当時は対魔物戦を、素人にも出来る簡単な作業だと下に見る傾向にあり、兵士達は魔法使いをそこへ追いやって嘲笑った。


 さてそうなると、何も知らない癖に生意気な、筋肉以外取り柄のない馬鹿共め、と魔法使い達も怒りを溜める。

 当然、兵士達に気遣う必要などない、ドカンとやってしまおう、という過激派も出てきた。

 そんな中、飛行機の開発に一役買ったとある大魔法使いが、以前から温めていた案を披露する。

 曰く、魔力を結晶化する方法があり、それを使えば射程も威力も桁違いの攻撃が可能になるとの事。

 それはどう考えても人類の手に余る危険な代物では、という冷静な意見は無視され、馬鹿にした連中を叩きのめしたい魔法使い達が国を超えて団結した。

 その結果出来上がったのが、魔法使い達による新たな国家と、砲弾及び誘導弾である。


 先に完成した砲弾は、大魔法使いが提案し技術者が設計した戦車で戦場に撃ち込まれ、世界を恐怖のどん底に叩き落とした。

 戦車には防御結界が重ね掛けされており、剣や弓など軽々と弾き飛ばして兵士達を絶望させ、魔法使い達を喜ばせるというオマケ付きだ。

 その数年後には誘導弾が完成し、魔法使いの国など認めない、と声高に叫んでいた遠く離れた大国が、敵の姿を見る事なく焦土と化す。

 その後は、弓の射程外を飛ぶ航空機による市街地への爆撃も行われるようになり、戦争というより一方的な殺戮へと変わった。


 当然、やられっ放しで終わってたまるか、という生き残りも多数存在し、彼らは不発弾を調べるなどして情報を集めると、地下に籠もって黙々と作業に勤しんだ。

 そうして、一体何が原因でこの戦争が始まったのか、誰もが分からなくなってきた頃。

 敵対国家の生き残り達が掻き集めた、魔力という名の恨みを乗せて、一発の長距離誘導弾が極秘で建設された発射場から打ち上げられた。


 こういった事態を想定し、魔法使い側も迎撃システムを構築してはいたが、何せ敵が撃ってくるのがどういった物なのかは想像でしかない。

 こちらの誘導弾を当てて遥か上空で爆破するつもりが、速度を読み誤り失敗。

 多少の被害が出る恐れはあるものの、防御結界で防げるだろうという予測も、残念ながら外れた。

 結果、魔法使いの国の首都を名乗る街へ、巨大誘導弾が吸い込まれるように落ちて行く。

 この日、世界に生きる魔法使いの9割が、一瞬にして女神のもとへ旅立った。



「……という話の殆どを弟子達から聞いたよ。当時の私は図書館に籠もっていたからね」

「ふーん。今聞いた限りやと、あんたには何の責任もあらへんと思うねんけど」

 鈴音の感想に骸骨とディナトも頷く。

 だがプリムスは首を振った。

「飛行機の開発に尽力した大魔法使いモルテからは、先に空飛ぶ船の構想を聞いていたのだよ。あの段階で止めるべきだった」

「そうかなぁ。問題が先送りになるだけや思うなぁ」

「もっと言えば魔動車(自動車)が出来た時に、あれが世の中に広がるのを防ぐべきだった」

 聞く耳持たないプリムスに、鈴音は骸骨とディナトと顔を見合わせ肩をすくめる。


「取り敢えず今の話で滅んだんは、魔法使いの国に敵対した国々と、9割ぐらいの魔法使いだけやんね?」

「そう。この後に、今度は魔法使いを滅ぼした者達が争い始めたのさ。元々は別の国の人々だしね、共通の敵が居なくなればそんなものだろう。喧嘩別れし各地に散らばり、誘導弾の開発競争からの撃ち合い勃発だよ」

 鈴音や骸骨は、まあそんなものだろうなと思うが、ディナトはとても驚いているようだ。

「せっかく脅威が消えたのに、また自分達で作り出すのか?一体何がしたいのだ……」

「ええ、御尤もです。でも人って割と、どの世界でもそういう傾向にあるんですよね」

 火を囲んでいるメンバーの中では唯一の人である鈴音が遠い目をし、元は人だったプリムスが興味深そうに顔を向ける。

「キミの世界でもそうなのかね?」

「うん。世界のどこ探しても戦争してません!いう時期は多分ない。原始時代とかは知らんけどさ」

「そうか……、世界は違えど人は似るのだね」

「創った神様からしても不思議やろなぁ。ええとこだけ似たらええのに、て思てはるよきっと」

 創造神ではないがディナトが思い切り頷いているので、やはり神も意図していない不思議現象なのだろう。


「ま、異世界共通で人がちょいちょいアホなんは置いといて。この世界は全面戦争に突入してしもた、いう事やんね?」

 問い掛けた鈴音にプリムスは頷く。

「その通りだよ。だからもう、強制的に止めるしかないと思ってね。図書館から出て、弟子達に手伝って貰いながら各地を旅したのさ」

「生き残った人々の記憶を奪う為に?」

「そう。魔力は結晶化なんかさせてはいけない。どうやらその作業に使われたらしい遠心分離機に繋がりそうな、生活を便利にする道具は全てなかった事にしなければ」

 車と言えば馬車だし、洗濯は盥と洗濯板で、掃除は箒と雑巾。

「ただ、何か起きた際に直ぐ連絡が取れる方がいいから伝声器と、衛生面を考えて上下水道と水洗の手洗いに関する記憶は残した。兵器には繋がらないだろうし」

 馬車などの車軸の回転から何か思い付く人は思い付いてしまうのでは、と考えたものの、その度にプリムスが出向いて記憶を消してきたんだろうなと鈴音は要らぬ心配をやめた。


「ほな生き残った人らは、歯抜けになった記憶に首傾げながら、それでも家建てて魔物と(たたこ)うて必死で生活再建したんや」

「そういう事。それを数世代に渡って続けた結果、ここまで回復したんだよ。だから滅ぼさないでおくれ」

「滅ぼさへんよ。んー、ほんならあれは?その戦争の遺物を集めてんのはどこの誰?何か作ろうとしてんのかな?」

 虎吉を撫でつつの鈴音が顎に手をやると、プリムスが物凄く嫌そうな空気を醸す。

「どの時代にも湧くのだよ、世界が滅ぶ程の文明を再現出来たら人生の勝者になれる、と勘違いする阿呆がね。今回はとある王国の国王さ。ま、そのうち消しに行くよ」

「怖ッ」

 鈴音が怯える振りをすると、きょとんとした様子をみせたプリムスが直ぐに理解しジタバタした。

「記憶を!消す!そっちの消す違う!酷い酷い!」

「あはは、ごめんごめん」

 すっかり調子が戻ったらしいと笑い、鈴音は再度告げておく。

「なあ、やっぱりあんたのせいやないからさ、あんまり全部背負い込む必要はない思うよ。世界の行く末をたった独りに背負わせる程、女神様は意地悪ちゃうからね」

「……そうだね、覚えておくよ」

 あまり響いてはいないようだが、いつか分かってくれたらいいなと思い、後は時間に任せる事にした。


「ほんなら見張りは私がしとくんで休んで下さい」

「すまないな、頼んだ」

 ディナトと骸骨が素直にベッドと椅子に向かう。

「あんたも、座ってるより寝転がった方が楽やろ?」

「確かにそうだが、いいのかね?暇だろうに」

「虎ちゃん()るし、魔物も結構来てるから暇潰しには事欠かんねん」

 言ったそばから、小型のプテラノドンのような魔物が凍りついて中腹に落ちて行く。

「あれは本来、落とすのに苦労する魔物なのに。指先ひとつ動かさないなんて、神の使いはとんでもないね」

 納得した様子で頷き、立ち上がってベッドへ向かうプリムス。

「えーと、お互い眠らないけれど、おやすみ?」

「あはは、そうやね、おやすみ」

 笑って手を振った鈴音は、全員が寝床に収まったのを確認して炎へ視線を移しつつ、また静かに魔物を凍らせた。

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