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第三百五十五話 あっちでもこっちでも

 城の周りには高い壁があるのは勿論、ドーム状に結界が張られている。

 一流の神術士複数名で重ね掛けしたと噂の、空からの攻撃にも耐えられる強固な物だ。

 その対飛龍を想定した防御結界が、街を破壊しながら直進してきた謎の魔力攻撃により、いとも簡単に砕け散った。

 同時に分厚い城壁の一部も吹き飛んでいる事から、どれほど凄まじい力だったかが目に見えて分かる。

 当然、城内は蜂の巣を突付いたようなとんでもない騒ぎとなった。



「あー、城は無事か?チッ、やっぱ弱ぇなこの身体」

 自身の前から一直線に伸びる道の先を見て、カーモスは不満そうな顔をする。

「結界に邪魔された程度で勢い無くしてんじゃねー、よっ、と!」

 望んだ結果が得られないのは我慢がならないようで、その場から第二波を放った。

 今度は遮る物が何も無い為、魔力による攻撃は城の端を貫通し大穴を空ける。

「ハハハハハ!風通しが良くなったな!」

 高笑いを響かせるカーモスの後ろ姿を見ながら信者達は目を輝かせていた。

 仮の依り代でこれなら、本物に乗り移ったらどれだけ強いのかと。

 期待に満ちた彼らの目には、突然の凶行で命を落とした人や、怯えて逃げ惑う人々の姿は映らない。




 こんな騒ぎの中、鈴音達は何をしているのか。

 実は帝都へ向かう途中で魔物の群れに襲われた村を発見し、助けていた。

 街道から離れた村の異変など普通は気付かないが、一行には普通ではない耳と鼻の持ち主が多数居る為、悲鳴と血の匂いに反応し駆け付けたのである。

 魔物の駆除自体は簡単だったが、怪我人の治療に時間を使った。

 重傷者にも有効な上級傷薬の持ち合わせが無かったので、一番速い鈴音がアズルの街まで買いに戻り、その後に皆で手分けして治療に当たったのである。

 村人達からありがたやと神のように拝まれている最中に、カーモスが復活し凶行に及んでいた。

 第二波による攻撃で城に大穴が空いたのは鈴音達が到着する少し前だ。




「あなたがカーモスか?」

 依り代が来るのを今か今かと待っているカーモスに声を掛けたのは、これといった特徴のない青年。

「誰だお前?魔力はまあこの身体よりはありそうだな」

「僕はエザルタート。依り代を用意した者だ」

 信者達が警戒もせず『いつ見ても顔が違う』等と感心しているので、成る程この男が自分を神と崇める者達の親玉かとカーモスは納得する。

「そうか。んで、肝心の依り代はどこだ?聖騎士の方が先に来ちまいそうだぞ?」

「もう着いていてもおかしくない筈なんだけどね、道中で何か問題が起きたのか……」

「別行動かよ頼りねえなオイ。ビビって逃げたんじゃねえかソイツ」

 呆れるカーモスにエザルタートは首を振った。

「逃げる事はないと思う。あなたに会いたいのは本当のようだったから」

「うわ、含みある言い方すんなよ。訳アリかその依り代」

「うーん……何を考えているのか今ひとつ分からない人でね。あなたを手に入れたいのは事実だけど、神に恨みがあるようには見えなかった」

 腕組みをして唸るエザルタートをカーモスは怪訝な顔で見やる。


「神は恨んでねえけど俺が欲しい?それお前らから見りゃヤベェ奴だろ。暴れたいだけの可能性あんぞ?」

「まあそこは偉大な魔剣様に舵取りをして頂いて?神に挑んで頂けたらと」

 エザルタートが薄く笑い、カーモスも意味深長な笑みを浮かべた。

「ははーん、成る程?お前は……そうなのか」

 地下迷宮で自分を守っていた信者達は、人が魔剣を握っても依り代の意識はある程度保たれると信じていたが、この男はそれが誤りである事を知っているらしい。その上で依り代を自分にあてがうつもりか、とカーモスはエザルタートの業の深さを笑う。

「まあ何でもいい、今回は裏工作ナシで派手に暴れるって決めたからな。早く依り代が……」

 トントンと剣で肩を叩きながら喋っていたカーモスがピタリと口を閉じ、夕焼け空を見上げた。

 釣られて上を見たエザルタートの視界を、巨大な影が超高速で横切って行く。

「聖騎士サマのお出ま……」

 カーモスが言い終わる前に、巨大な影を追ってひと回り小さい影が横切った。

「は?何か追われてんぞアイツ」

 唖然とするカーモスの耳へ、高い位置から賑やかな声が届く。


「うわー!何やこれえげつない!私がもっと早よ着いとったら」

「や、仕方無いよあの村も大変だったんだから。ねーさんのせいじゃないでしょ」

「そうやで、全部を1人では出来へんのや」

「そっか……そうやんね……」

 若い女が2人とオッサンが1人、と声のした屋根の上へ目を向けたカーモスは、オッサンが見当たらずキョトンとした。

「ああ、来たね。あの小さい魔獣を抱いてる女性があなたの依り代だよ」

「ん?ああそうか」

 エザルタートに言われ、カーモスはしっかりと鈴音を見る。

 それに気付いたのか鈴音もまたカーモスを見やり、互いの目がきっちりと合った。

「……おったで、魔剣や」

 視線を固定したまま鈴音がそう告げると、骸骨が音も無くその隣に並ぶ。

 途端に何故かカーモスは寒気を覚えた。


「ホントにあれか?魔力がまるで感じらんねえぞ」

 このゾワゾワした感覚はなんだ、と戸惑いつつも表には出さない。

 それゆえエザルタートはカーモスの異変に気付く事無く、ただ聞かれた事に答える。

「力を隠しているんだよ。下手な事を言うと恐ろしい目に遭うから気を付けて」

「おいおい、この俺が恐ろしいとか思う訳ねえだろ」

 何を馬鹿なと笑いながら鈴音へ視線を戻したカーモスは次の瞬間、ニタリ、としか表現出来ない笑みを向けられ総毛立った。

 剣を握る手がカタカタと震える。

 固まってしまったカーモスへ、悪い笑みを浮かべたままの鈴音が声を掛けた。

「初めまして、依り代です。さあ、最高の相性を誇る私と仲良うしましょ?」

 剣を投げて寄越せとでも言わんばかりに出された右手を見て、カーモスは後退る。

 そこで漸くエザルタートも、天災とまで呼ばれる魔剣の様子がおかしい事に気付いた。


「カーモス?どうした?」

 別に鈴音や骸骨が何かした訳でもないのに、彼女らを見上げたまま徐々に後退して行くカーモス。

 明らかに怯えている。

「カーモス?」

「うるせえな!アレは何だ?初めましてっつったな、ああ初めてで間違い無えよ。この男の記憶にも無え。なのに何だこれは!」

 止まらない冷や汗と震え。逃げろと訴える本能。

「……あれー?何か変な反応してるで」

 怪訝な顔をした鈴音が顎へ手をやり、骸骨は首を傾げている。

「鈴音さん、カーモスと過去に何か?」

 エザルタートの問い掛けに鈴音は笑って手を振った。

「ないない。あったらその時点で手に入れてますやん」

「ですよね。カーモスも初めましてだって言ってるし」

 控えている信者も含め何とも微妙な空気になった所で、上空をまた巨大な影が2つ通過する。


「んん?シ……聖騎士?が、追われてる。何でや」

「追うとるんは赤いトカゲやな」

「ああ!途中から乗せてくれたドラゴンかぁ」

 鈴音の視線が外れた事で、カーモスは幾らか冷静さを取り戻した。

「おい、今のうちに逃……移動すっぞ。信者集めろ。良さげなのに乗り移る」

「え?」

 何を言い出したんだと驚くエザルタートをカーモスが睨む。

「アレは駄目だ、どう見ても相性が悪い。だから別のにするっつってんだよ、さっさとしろ!」

 コソコソと言いたい事だけ言って素早く建物の陰へ移動したカーモスを、唖然とした表情のエザルタートと信者達が追って行った。



「記憶無い筈やのに、流石は天災級やね」

「せやな。野生の勘か」

 勿論カーモスの動きも会話も把握している鈴音は、虎吉を撫で骸骨と顔を見合わせ笑う。

 そこへ茨木童子がそっと近付いた。

(あね)さん、ペドラの姿が無いんすよ。それこそ野生の勘で気になるんで、見てってええっすか」

「あ、ホンマやね。でも見るいうても広いで帝都」

「大体の見当いうか、ここに()らんのやったら後は知らん、いう場所があるんで」

「そう?ほな頼むわ。ただ、何かあっても街はこれ以上壊さんように」

 悔しそうに城まで続く破壊の跡を睨む鈴音へ、茨木童子は大人しく頷く。

 それを見ていた月子が手を挙げた。

「私、ついてく」

「おお、そら助かるわ。茨木がうっかりやり過ぎんように見といたってくれる?」

「うん、任して!」

 元気に返事した月子は『行こ』と茨木童子を促す。

「行ってくるっす」

 会釈した茨木童子が走り出し、方向から目的地は城だと分かった。

「ま、ツキが一緒やし大丈夫やろ」

 ふたりを見送った鈴音は、大丈夫ではなさそうな上空へ視線を戻す。


 ドッグファイトさながらの空中戦を繰り広げている2体の飛龍を目で追い、不思議そうに首を傾げた。

「喧嘩か思たけど、どうも変やね?」

「せやな」

「どこらへんが?」

 短い会話で分かり合う鈴音と虎吉へ、陽彦が説明を求める。

 皆の方へ顔を向けて鈴音は申し訳なさそうに笑った。

「ごめんごめん。いや、縄張り争い的な戦いやったら、あんなヌルい事ない思うねん。とっくに口から光線吐いて怪獣大バトルみたいになってる思うんよ」

「あー、確かに後ろからドラゴンブレス吐かれたら避けるの無理ゲーだ」

「まあパルナにはシンハさんが乗ってるから、聖剣で弾くぐらいはしそうやけど。せやからいうて諦めるんも変やし。シンハさんも攻撃しよ思たら出来るのにせぇへんやん?」

「赤いドラゴンは数撃ちゃ当たる方式取らないの変だし、シンハさんは聖剣で光を飛ばせるのにやらないのは変だって事か」

 鈴音と陽彦の会話で骸骨や虹男、黒花にも上空の追いかけっこのおかしさが伝わる。


「もしや、求愛行動では?」

 サラッと凄い事を言ったのは黒花だ。

「白いのはオスやろ?聖騎士が“彼”て呼んどったし。ほな赤いのがメスで、メスが求愛行動しとるんか?」

 猫はオスからメスへ求愛するので、ピンと来ないらしく虎吉は首を傾げている。

「鳥なんかで偶に聞くね、メスからオスにアピールするパターン。確かに言われてみたらそんな気もしてったなぁ。攻撃せぇへんのもそれなら分かるし」

 納得したらしい鈴音からの情報で皆も成る程と頷き、あれはプロポーズなのかと空を見た。

「……でも怖いよあれだと」

 言葉通りの表情をした虹男の呟きに鈴音はハッとする。

「それでなんかな?最初に空で()うた時、八つ当たり気味に喧嘩売ってったん、プロポーズ失敗した後やったんかな?」

「そうかもしれませんね」

 黒花の同意を得た鈴音が陽彦と虹男を見やると、ふたり共とても困った顔をしていた。


「あんなの俺なら逃げる、全力で」

「僕も。龍の求愛行動だとあれが合ってるのかな?僕はあんな追い掛けられたらヤダけどなー」

「けど遠慮しとったら他の奴に取られてまうで」

 常にギラギラした女子に追われまくりの陽彦と、基本的に穏やかな性格の虹男の意見は一致している。

 虎吉のは追う側の意見だが、これも事実なので無視は出来ない。

「んー、選ばれるかどうかはともかく、アピールはせなアカン。けどやり過ぎると逃げられる。あの赤いのんは今まさにパルナに逃げられとる最中なんやろか……?」

 鳥の中には自分の動きを完璧にコピーしたオスを夫に選ぶという種が居たりするので、そのタイプの求愛行動の可能性は無いかと鈴音は少し観察してみる。

 結果、動きのコピーではなくひたすら追い掛けているだけだと分かった。

 そもそも後ろを飛ばれてはコピー出来ているかどうか確かめようもないだろう、と鈴音は自らにツッコんで半笑いだ。


「よし、赤いのんを止めたろ。シンハさんもパルナも、『結婚してー!!』言うてるだけの女の子を攻撃出来ひんしなー、いうて困ってる思うし」

「ぜひ」

「頑張ってね鈴音」

 陽彦と虹男がキリッとした顔で熱い応援をくれた。

 笑った鈴音は右手人差し指を空へ向ける。

 イメージだけで魔法は使えるが、今回は超高速で動き回る2体へ絶対に当てず尚且つ間を引き裂くという高難度のミッションの為、念には念を入れた。

「よっしゃ行けお邪魔ドラゴン!」

「え、ダサ」

 残念な掛け声に陽彦が愕然とする中、鈴音が指差す方へ長い長い炎の竜が真っ直ぐ飛んで行く。

 突如目の前に現れたオレンジ色の炎に驚いて赤い飛龍が急旋回し、白い飛龍パルナとの距離が開いた。

「よっしゃ成功。後は赤いのんの説得やなぁ」

「聞く耳もたねー気がするけど?」

「持たす」

「あー……うん」

 遠い目で頷く陽彦と拍手する虹男へ不敵な笑みを見せた鈴音は、骸骨と黒花へ視線を移す。


「ちょっと彼女とお話してくるんで、虹男をお願いします。信者集めろ言うてたからまだ大丈夫や思うけど、もし魔剣がいらん事しそうやったら止めて下さい」

 親指で上空を指しつつの鈴音に骸骨が頷き、黒花は尻尾を振って応えた。

「お任せ下さい」

「ありがとうございます。ほな行ってきますね」

 皆に手を振った鈴音は赤い飛龍に狙いを定め屋根を蹴る。

 空を見つめる陽彦達の耳に、『ギャォーッ!?』という飛龍の悲鳴のようなものが届き、そりゃビックリするだろうねえと皆で頷き合った。

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