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第ニ十九話 タワーへGO

 タワーへ走りながら、鈴音は殲滅用ロボットを探す。

 制圧用より一回り大きいらしいので、直ぐに見つかるかと思いきや、まだ一体も現れない。

「さっき起動した言うてたから、まだこっち来てへんのやろか」

 そう呟いてから気付いた。

「あ、どっちから来るんか聞いてへんわ」

 取り敢えずジャンプして、10階建てくらいのビルの屋上に立つ。

 すると、先程まで相手していた5メートル級の倍近くは有りそうなロボットが、タワー周りに集結しているのがよく見えた。

 まるでタワーを守っているかのようだ。


「おー、あれだよあんな感じのヤツ。僕が初めて来た時に見た巨人」

 隣に来た虹男が指を差して言うが、違和感を覚えた鈴音は首を傾げる。

「これ、起きたばっかりらしいのに、どこで見たん?」

「えーと、どこだろ?でもここじゃないよ?似たような塔いくつか見たから、どれかはわかんないけど」

「似たような塔と巨人。この国の話やったら、さっきの人が教えてくれそうやし、他の国の事かな?他の国もここと一緒で、ロボットが暴れとるんやろか。けどそれやと、他の国のテオスみたいなコンピューターも壊れとるん……?」

 鈴音はじっと虹男を見る。

「なあ、この世界に落ちた玉、テオスに落ちた一個だけ?」

 瞬きをした虹男は暫し考え、頷く。

「僕が感じ取れるのは、あの塔にある一個だけ。他の塔にも入ってみたけど、箱があるだけでモンスターは居なかったよ」

「なるほど……。教会があるて言うてたけど、そこは行ってみた?」

「うん。全然なーんにも感じなかった。この世界の神の力も感じなかったし」

 あっけらかんと言う虹男に対し、教会で神力を感じないとは何事か、と驚いた鈴音は悩む。


 日本では、小さなお社からでも神聖なものを感じ取れるくらい、神々はその力を自身の縄張りに行き渡らせている。

 神力なんて意識した事も無かった頃の鈴音ですら、境内に足を踏み入れた途端、その空気の清浄さを感じ取っていた程だから相当だ。

 その経験があったから、神社には強い神力が満ちているに違いないと思い至り、骸骨の大鎌を探し出せたのだが、どうやら今回この件には当てはまらないらしい。


「この世界と神様の繋がり、どないなってんねやろ。あの玉も、次の法王候補ちごてコンピューターに突撃かましとるし。んー、面倒臭なってったな、推理して何か変わる訳でもないし。テオスぶっ飛ばして終わりにしよか。猫はおらんし動物も無事みたいやし、虎ちゃん撃った事へのお返しさえ出来たらええわけやし」

 鼻からフンと息を吐いた鈴音は、ギロリとタワーを睨み付ける。

 普段の鈴音ならもう少し考える所だが、猫以外の事は殆ど気にしないという、激怒モードの本領が発揮されてしまったようだ。

 その様子に虹男がわたわたと手を振る。

「ぶっ飛ばすのは僕の一部を回収してから!ね!?モンスターの中にあるからさ、それ引っこ抜いてさ、それからで!!」

 無言でじっと見つめてくる鈴音に、虹男は両頬に手を当てて叫びのポーズだ。

「顔に『ヤダ面倒臭い』って書いてあるよ!?誰かタスケテー!!」


 喚く虹男を無視して、鈴音はビルからビルへ飛び移り、タワーへ近付く。

「そういえば虹男は、私らんトコに空間歪めて出て来たけど、あれでテオスんトコまで行かれへんの?」

 足を止めて尋ねると、虹男は首を振った。

「行けるけど僕専用。キミ達を連れては無理」

「そっか。ほなもう、下から行くのも面倒やし、タワーの上からガリガリーっと……」

「凶暴!!魔獣!?魔獣か何かなの猫って!?」

「……引っ掻いたらタワー全部()うなってまうから、それはアカンな」

 うんうん、と頷いた鈴音は、何か言ったかという視線を虹男に送り、虹男はニッコリ笑って首を振る。

 虎吉が告げ口したらどうしよう、と見やれば鈴音の腕の中で目を閉じていた。

「寝てる。何で!?」

「さっきガッツリ遊んだし、もう飽きたんちゃう?」

「飽きたら寝ちゃうの、この状況で」

 益々謎の生き物だ、という顔をする虹男に鈴音は笑う。

「ま、虎ちゃんは普通の猫ちゃうから」

 そう言って大事そうに抱え直し、ジャンプを繰り返してタワーへ更に接近した。


 15階建てくらいのビルから、まだ殲滅用ロボットには捕捉されていないな、と見下ろした鈴音は、すぐそばのビル屋上に人が居る事に気付く。

「男の人や。あんなトコで何してんねやろ」

 男は、タブレット端末のような物をいくつか並べ、隠れるようにして何らかの作業をしている。

「おーい、そこの人、何してはんのー?」

 鈴音達が居るビルより、少し低い位置にある屋上へ呼び掛けると、キョロキョロと周囲を見回した男は、口を塞ぐような仕草をした。

「静かにせぇいう事やろか」

「行ってみたら判るんじゃない?」

 虹男の言葉に頷いて、男が居る屋上へ飛び降りる。

 3階程の高さを躊躇い無く飛び降り無傷の鈴音と、その後を飛行して来た虹男に、男は唖然としていた。

「何してはるんか知りませんけど、今からここ、ちょっと騒がしなるし、危ないですよ?逃げた方がええ思いますよ?」

 鈴音はロボットを消滅させるのではなく、一部破壊して止めるつもりなので、あまりそばに居ない方が良いと一応忠告はしておく。

「殲滅用ロボットが出てきたんだ、そんな事は理解している。だがそれ所では無い。何としても、テオスと繋がらなければならないからな」

 唖然としていたのはほんの一瞬で、直ぐに冷静さを取り戻した男は、鈴音達を無視して端末に向き直った。虹男が浮いている事も気にならないらしい。


 その様子を見た鈴音は、先程の軍人(オルニス)が言っていた、テオスの復旧を試みているエンジニア達、とやらの存在を思い出す。科学者は割と、自身が興味のある事以外には無頓着だったりするからだ。

「直ります?」

「直すのだ。テオスに侵入さえ出来ればいい。今の所誰一人成功していないが」

 素人には解らない作業をしながら答える男に、まあそうだろうなと鈴音は頷く。

 彼らが相手にしているのは人が作ったコンピューターではなく、人の理屈が通用しない神の一部なのだ。

「隕石を物理的に取り除かん限り、無理やと思いますよ?」

「思う、などという確証の無い話をされてもな」

「あー、ナルホド。確証ある話やと、テオスのせいでロボット暴れて、街が壊れて人の命が危険に晒されてますけど。直す直さんよりまず、止める方法探しません?」

 自らもこの国の民でありながら、国民を守る為にその命を投げだそうとしていた者達を思うと、止める方法など無いと解っていても嫌味のひとつも言いたくなる。

「止める?馬鹿を言うな。出来たとしてもやるわけがないだろう。再起動に3日は掛かるではないか。そんな非効率的な事をするのは、軍を始めとする頭のおかしい連中だけだ。いきなり電源設備を破壊するなど、狂ったとしか思えん。そもそも軍のネットワークは独立している。ロボットの暴走はテオスに無関係だ」

「無関係?テオスがおかしなったタイミングでこの惨状やのに?そもそも電源壊されて、何で動いとるんですかね機械が。自分でご飯作って食べとるん?」

「そうだな、自らエネルギーを作り出すシステムを構築したのかもしれない」

「かもしれない?そんな確証の無い話されてもね。自分に都合良う新しいシステムの構築とか出来るんやったら、軍のネットワークに入ったり、他所の国のコンピューター壊したりも出来てまいますね?」

「物理的に切り離されている物にどうやって」

 鼻で笑う男へ、鈴音も意地の悪い笑みで応える。

「電源からは物理的に切り離されても何らかのエネルギーが作れて、他の物理的距離は克復できない、と。ホンマ都合のよろしいコンピューター様やなぁ。あと、ネットワーク独立しとる言うけど、携帯端末、みんな持ってるんちゃいます?そういう小さい物からどんどん飛んでったら、最終的に他所の国のコンピューターまで辿り着けそうですけどね。マイクロチップにウイルス仕込んどくとか……、あ。それで動物保護区は襲われてへんのかな。鳥なら国境関係あらへんし」

 地球の動物に使われるマイクロチップは、落とすことの無い名札程度の物だが、文明が更に進んでいるこの世界ならばそうとも限らないだろう。

 現に、男の目に若干の動揺が見られた。

「ちなみに、テオスが止まったら病院の電源が落ちるとか、何かしら影響あったりします?」

「なんだ脈絡の無い。あるわけないだろう。あれもまた別のネットワークだ」

「そうですか、そらよかった」

 ニッコリ笑う鈴音を、ブルッと震えた虹男がとても嫌そうに見ている。


「虎ちゃん、とーらちゃん」

「ん?オヤツか?」

 鈴音の呼び掛けに目を覚ました虎吉は、くぁー、と大欠伸をした。

 牙の全てが露わになった大きな口を見て、男が目を見開き後退る。

「な、なんだその化け物は」

 男の発した言葉に虹男が悲鳴を上げる。

「やーめーてー!?これ以上怒らせたらホントに僕の一部も消されちゃうから!!可愛い!!虎吉可愛いよ!!僕は解ってるよ!!ね!?」

 必死のフォローを見せる虹男に、虎吉は胡散臭いものを見る目を向け、鈴音はニコニコと笑っている。

「大丈夫やで虹男。もう遅いから。世の中に猫嫌いな人が居る事も、この世界の人が猫知らん事もわかっとるけども、化け物は無いわー。しかも人の命より効率を取るような奴に言われるとか、無いわー」

「お、おちついて?」

「うん、落ち着いて全力でぶっ飛ばすわ。テオスどの階にあるん?」

 にこやかに見えて、目が一切笑っていない鈴音に、抵抗するだけ無駄だと悟った虹男はタワーを指差した。

「上の方。塔を三つに分けたら、その一番上の部分。でもてっぺんじゃなかったよ」

「りょうかーい。上の方の、最上階以外のどっかにあるんやね」

「ロボットは?放っておくの?」

「いま話聞いた感じやと、テオス止めたら止まる思うねん。テオスをどないかするいうんは最終手段みたいやから、テオスに電気送ってた設備壊す前に、軍はまず自分とこのコンピューターだかネットワークだかを壊してるやろし。それでもロボットが動いてるんは、テオスいうか、虹男の神力のせいやと思うわ」


 鈴音の推測を聞いた虹男は、驚いた顔で瞬きをしてから、ぐるりと荒廃した街並みを見回し、しょんぼりと肩を落とした。

「なんか、ゴメンね?」

 その様子にキョトンとした鈴音は、今度は口元だけではない本当の笑顔を見せる。

「私に言われても。謝る相手はこの世界の人らと神様ちゃう?……あー、でもどうやろ、神様は案外なんとも思わへんかもね」

「え、ホント?すっごい怒られるかと思ったけど。みんな怒ってたし」

 みんな、とは白猫の縄張りに集結した神々の事だろう。

「うん、あの神様方はご自分が作らはった世界を愛してるんやと思う。けど、ここの神様はー……?教会でも神力が感じられへんて、変やん?」

「そっか、そういえば妻も、人が僕を殺そうとしてからも、神殿には神力あげてたなあ。今はどうか知らないけど」

「へえー、どない思てるやろね虹男の世界の人。ま、それは後で確かめるとして、今は取り敢えずテオスぶっ飛ばしてあの玉回収するわ」

 そういうわけやから、と微笑まれた虎吉は頷く。

「よっしゃ、親玉やるんやな。どんなヤツやろ」

「わかったー……って、え!?回収するって言った!?」

 虹男が確認する前に、鈴音はタワー上階へ向けて跳んでいた。

「わあ!!待ってー!!」

 回収という言葉がよほど嬉しかったのか、急いで後を追う虹男は無邪気に笑っている。

 ビルに残った男だけが、何が起きているのか理解出来ずただタワーを見つめていた。



 突き出した右拳でミサイルよろしく壁に大穴を空け、鈴音はタワー内部へ入った。直ぐに虹男も到着する。

 警報が鳴り響いたりするかと思いきや、特に何事も起こらず、会議室のような室内には壁の穴を通る風の音だけが響いた。

「もうちょい上かな?」

「うん」

 部屋を横切り、ロックが掛かった扉を力技で開け、広々とした通路へ出た鈴音は階段を探す。

「広ッ。ショッピングモールみたい」

「広いけど、人の声はせえへんな」

 虎吉が耳とヒゲを動かして確認した。

 探索を始めた鈴音に、虹男は首を傾げる。

「あれ?天井突き破って上行かないの?」

「んー、壁に穴空けといて言うんもなんやけど、必要以上には壊したくないんよねー。作り直すん大変や思うし。階段で行くわ」

 復興の苦労に関しては授業は勿論、親を筆頭に大人達からしっかりと聞かされて育っている。

「そっか。わかった、階段ね」

 頷いた虹男は素直に階段を探し始めた。

 二手に別れ、フロアの真ん中辺りにあるエレベーターを通過して、多くの扉を横目に歩いた鈴音は、大きさはあるが随分ひっそりとした印象の階段を漸く発見する。

「こんな辺鄙な場所にあって大丈夫なん?地震とか火事とか無いんかなこの世界。虹男、あったよー」

 すぐさま飛んで来た虹男と共に上階へと向かった。

「こんな端っこからでも、玉がある階に来たらわかる?」

「うん、分かるよ。まだ上の方」

「流石に持ち主やな。俺にはこんな離れとったら判らんわ」

 感心する虎吉へ得意気に胸を張り、虹男はすいすいと上へ行く。

「あ、この上にあるよー」

 その声を頼りに、全段飛ばして踊り場から踊り場へ移動し、鈴音もテオスが在る一つ下の階へ到着した。

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いしますヾ(・ω・*)ノ

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