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第二百四十話 大根?美味しいよねえ

 忌々しげな顔をしながらスマートフォンを弄っている悪魔女子と、泣き濡れて氷とたわむるルシファーをそれぞれ見やり、鈴音は自身の目的を思い出して笑う。

「何の勝負かは忘れたけど、結果オーライな感じになってるわ」

「おう、そらよかった」

 頷く虎吉を抱え直して立ち上がると、ルシファーを手で示しつつサタンに尋ねた。

「なあ。ああいう、人類皆殺し系の悪魔て他にも居てる?」

 人界へ呼び出してしまった時点で人類滅亡、もしくは天使神使による総攻撃で国家存亡の危機。そんな事態に陥る悪魔は居るかと問われ、サタンは少し考えてから首を振る。


「俺も含めて、皆殺しにする力はあるけどやる気はねぇって奴ばっかだな。だってつまんねーだろ。ちょっと煽っただけで争いだすオモシロ生物が居なくなっちまったら」

「オモロいんはええ事やけど、悪魔にとってオモロいんはちょっと問題あるよねぇ。まあこの際、皆殺し計画が持ち上がらへんのやったらええとしよ」

 小さく息を吐いた鈴音は、声量を少し上げて続けた。

「ほんで、その手の強い悪魔を呼び出そ思たらやっぱり生贄が要るんかな」

「欲しがる奴も居るっちゃ居るけど、どっちかっつーと大量の魂捧げる方が確率は上がるわな」

 悪魔女子の手が止まっている事を横目で確認しつつ、今初めて知りましたという顔で頷く鈴音。鞍馬天狗から聞いて知っていたとはおくびにも出さない。


「へぇー。大量ってどのくらい?10人?20人?」

「馬っ鹿お前、ゼロが3つ4つ足りてねぇわ」

「うわ、そのレベルかぁ。兵器使わな無理やん」

「まあな。だから安易に生贄に走るんじゃねぇの?」

 良い流れだ、と心の中で拍手しつつ、現実の鈴音は首を傾げる。

「でもその生贄にも好みがあるんやろ?清らかな人の他には何が好まれるん?動物とか?」

「動物系は神だろ。悪魔で動物の血肉だの魂だの捧げられて喜ぶ奴なんかいねぇわ。ナメてんのかっつって怒るぞ多分」

「怒らしたら呼び出そうとした本人が危ないね。契約どころかサクッと殺されそう」

「そりゃそうなるだろうな。気位が高い奴ばっかだしよ。そもそも人と契約してやろうなんて思う奴のが少ねぇし」

 この辺も鞍馬天狗から聞いた通りだ。

 数千数万の魂を捧げても、狙った悪魔が応えてくれるとは限らない。

 鈴音が難しい顔を作って頷いていると、サタンがニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「けど、お前とかあっちのガキ2人なら殆どの奴らが興味持つぞ?やってみるか?」

 魔界扱いの円の中で両腕を広げ妖しげに微笑む魔王。

 悪魔女子のみならず、陽彦や月子も思わず雰囲気に呑まれそうになった。

 だがそこは鈴音である。

「間に合ってます」

 バッサリだ。

 円の中心で猫がニャーと鳴けば簡単に釣れるだろうが、人型をした生物の微笑では話にならない。美形の笑顔なぞ、白猫に見惚れる神々のそれでお腹いっぱいなのだ。


「この、俺の、魔性の微笑みが!効かねぇ……だと。嘘だろ……」

 自信をなくしてしゃがみ込み地面を指で突付くサタンを眺め、虎吉が気の毒そうに呟く。

「そら鈴音やからなあ。(たぶら)かす相手間違(まちご)うてるで」

「これだから神に仕える奴ぁよー。全世界で恐れられてるサタン様だぞこっちはよー」

 管を巻く酔っ払いのような魔王は放っておいて、鈴音は大嶽へと視線を移した。

「ほな課長、そこの3人助けて終了にしましょか」

 “悪霊に取り憑かれた友人”に怯える3人を見守っていた大嶽は顔を上げ、目だけで『大丈夫かな』と問い掛ける。

 悪魔女子はサタンの言葉を信じただろうか、という確認だ。

 それに対し鈴音は曖昧な笑みを浮かべ首を傾げた。

「やれるだけの事はやりました」

 声に出さず口の動きでそう伝え、この後の事を打ち合わせようと皆を集める。



 話し合いの結果、大嶽と鈴音がこの廃墟に出る悪霊の噂を調査しに来て、偶然3人と悪魔女子を発見した事にしようと決まった。

 大嶽と鈴音の不法侵入に関しては、安全対策課の名刺が免罪符となるそうな。

「現場の警官が知らんでも、身分照会掛けたら直ぐ分かって『し、失礼しましたッ』とかなるあれですか?」

「そんなドラマみたいな反応されたらカッコイイけどねえ……大体が『うわ本当に居たのかよ呪われたらどうしよう』みたいな顔されるよねえ」

「忌み嫌われてますやん!」

 溜息を吐く大嶽と、愕然とする鈴音。

 大上きょうだいも初めて知ったらしく、怖がられている事にショックを受け顔を見合わせていた。

「まあ彼らも、神使も居るから怒らせるなよっていう教育は受けてきてるしね?偉そうな対応しちゃった後に正体が分かったら、そりゃあ怖がるよねえ」

 大嶽の皮肉めいた笑みを見て、なるほど怖がるのは権力を笠に着て横柄な態度を取るタイプの警官か、と鈴音も大上きょうだいも納得する。

「それなら思う存分怖がって貰いましょ」

 悪い笑みを浮かべる鈴音に、皆が同じような顔で頷いた。


「よし、それじゃあ夏梅さん、一旦外に出ようか」

「はい。課長と2人でミニコントか、緊張するなぁ」

「いやいやコントじゃないコントじゃないよ?真面目なお芝居だからね?変な所で笑ったりしたら駄目だよ?」

 虎吉を骸骨に預け真顔でボケる鈴音と、本気でハラハラしているらしい大嶽が建物から出て行く。

 隙を見て逃げ出そうと忙しなく視線を動かす悪魔女子だが、黄泉醜女と月子が退路を塞いでいる為、身動きが取れなかった。

 そうこうしている内に、姿隠しのペンダントを外した大嶽と鈴音が戻って来る。


「悪霊の気配は特に感じませんねぇ」

「そうだねえ!何もいないねえ!」

 廃墟1階に轟くオジサンの声。

「嘘でしょ。すっごい棒の人がいるんだけど」

「お遊戯会キタコレ」

 大上きょうだいが呆れ返る程の大根役者は、言うまでもなく大嶽だ。

 ただ、3人の若者にとっては大根でも蕪でも何でもよかった。

「人の声だ!」

「誰か来たんだ!」

「おーい!助けてー!!」

 謎の現象が起きる建物や、悪霊に取り憑かれた友人を刺激してしまうかもしれないが、もう構ってはいられない。我慢の限界だとばかり3人は声を限りに叫ぶ。

「おやっ!?人の声がするぞっ!?」

「ホンマですね、行ってみましょか」

 大嶽と鈴音の足音が近付いてきた。


「ああーっ!あんなところに若者達がっ!」

「え、どないしたん?もしかして肝試し?」

 独りコント状態の大嶽と、全く動じない鈴音。


「ねーさんの表情筋どうなってんの!?」

「絶対に笑ってはいけない廃墟……ッ」

 子供番組のお兄さんお姉さんもビックリな動作を見せる大嶽に、月子と陽彦は笑わないよう必死だ。しかし黄泉醜女が堪え切れず大笑いし始めたので、2人の努力は徒労に終わっている。


「あ、あの、すみません、その、肝試しです」

「何か急にガッと穴が空いて下に落ちたんですけど、何か急にガーッと上がって戻ったっていうか」

「悪霊が……そっちに……」

 人の姿に安心したのか、口々に喋り出す3人。

「あー、はいはい、一遍に言われても分からへん分からへん。取り敢えず、肝試しに来て怖い目に遭うた、でええんかな?」

 対応し切れず目をぱちくりとさせている大嶽に代わり鈴音が尋ねると、3人は大きく幾度も頷いた。

 そこへ、悪魔女子の声が割り込む。

「何やってんの?白々しい。何もかも見て知ってるクセに」

「あー……、彼女もお友達?」

 困り顔を作った鈴音の問い掛けに、少女が頷く。

「悪霊に取り憑かれたみたいなんです。今みたいに変なことばっかり言うし、何か怖いし。いつもはあんな喋り方じゃないんです」

「そうなんや」

「私が好きな人が出来たって言ったら応援してくれたり、その人の家をちょっとだけ見に行きたいって言った時もついてきてくれたり、すごい優しかったのに」

 そう話す少女の表情が複雑なのは、悪魔女子がなりすましを疑いもしなかったという事実があるからだろう。あれも悪霊のせいと思い込みたいが出来ない、といった様子だ。


「ありゃー、それは辛いねぇ。でも私らにはどうする事も出来ひんから、おうちの人に頑張って貰うしかないかなぁ」

「そっか、そうですよね……」

「はあ!?ウチの親が何を頑張んの?」

 小馬鹿にした顔で笑う悪魔女子を見て、少女は身を縮め眉を下げる。

「ちょ、何ちゅう顔しよるんよ、友達が怯えてるやん。こら親御さんは大変ですよ、ねえ?」

 話を振られた大嶽は、きょとんとしてからハッと目を見開いて頷いた。

「そうだねえ!反抗期の娘なんてどうしていいかオジサン分からないねえ!」

 違う。と言いたい所をグッと堪えて鈴音は演技を続行する。

「まあ……こういう親なら大丈夫やろけど、思い込み激しいタイプの親やとそうはいかんよね。心霊スポット行ってから態度がおかしなった、となるとまずは病院で心と身体の健康をチェックして貰うでしょ?ほんで健康です、て太鼓判押されたとしても信用出来んと今度はお寺や神社へお祓いに連れて行く。それでも治らへんかったら、謎の祈祷師に縋る」

「謎の祈祷師は大体が偽物だから、お金が勿体ないよ?」

 素に戻った大嶽の声に鈴音は頷く。


「彼女も同じように言うでしょうね。自分はおかしくない、お金の無駄だ騙されてる、て。でもそう言えば言うほど、まだ取り憑かれてるんやて親は思う」

「悪循環だねえ。実際そんな話はよく聞くけど」

「気付いた時には借金地獄。祈祷師の言いなりにお金(はろ)て物()うて娘縛り付けて……」

「ちょっと!!アンタらがウチの親の何を知ってるわけ!?」

 目を剥く悪魔女子に鈴音は困り顔を向けた。

「アナタは親の全部を知ってるん?親がアナタの心ん中を知らんのと同じように、アナタの知らん親も()るんちゃうの?特に我が子の事となると豹変する親は多いで?」

 ド正論をぶつけられて反論出来ない悪魔女子を見ながら鈴音は溜息を吐く。

「せやから、変な祈祷師んとこ行く前に早い段階で悪霊が離れるように祈っとくわ」

 鈴音が出したヒントに目を見開いた悪魔女子は、小さく幾度か頷いて引き攣った笑みを浮かべた。

「べ、別に神も仏も怖くないし」

 大根な誰かさんと違い、動揺しまくる悪霊の雰囲気を上手に出す悪魔女子。


 それを見ていた月子が驚く。

「あれ、助けてやるんだ?平気で人を殺そうとするヤバい奴なのに?」

「アイツじゃなくて、友達の為じゃねーの?誰かになりすましで嫌がらせされてる上に、友達があんな奴だったとかなったら無理じゃん」

 表情を曇らせた陽彦の意見を聞いて、月子は成る程と頷いた。

「学校で凄い噂になりそうだもんね。昨日から行方不明だった訳でしょ?そんな時に友達だと思ってたコまで敵だったら確かに無理だわ」

「ん?行方不明?あ。そういやもう噂になってた。朝なんか聞いたそんな話。彼氏とお泊りとか言われてたわ」

「うわー、男友達2人と廃墟に居たとかバレたら最悪じゃん」

「あの悪魔ヲタがバラす?多分あの女子に嫉妬してんでしょ?」

「んー、陥れるには最高のネタだけど、自分も巻き込まれるよね?流石にそれやられたら黙ってないっしょあっちも」

「そっか。女の戦いコワイ」

「そのへん鈴ねーさんはどう考えてんだろ?」

 首を傾げる月子の視界では、鈴音が少女や男2人を慰め、大嶽が電話を掛けていた。



 建物の外へ出て待つこと暫し。

 救急車と共にパトカーもやって来て、廃墟ホテルは騒然となった。

 彼ら4人の中には未成年者が居り、内1人には捜索願いまで出ている。軽い気持ちで行った廃墟への不法侵入が、下手をすれば未成年者略取罪だ。警察官の表情も自然と厳しいものになる。


 救急隊員と警察官が入り乱れる現場を眺めつつ、鈴音はスマートフォンを弄っていた。

「略取誘拐罪は……親告罪になんのかな?あの女の子の親が何も言わんかったら大丈夫なんか。まあ穏便に済まそうとするやろな。自分の子にも落ち度はある訳やし」

 ふんふんと頷く鈴音の横に、姿を隠したままの月子が立つ。

「ねえ、鈴ねーさんは悪魔オタクの子が友達陥れようとすると思う?」

 鈴音は電話を受ける振りをしながら答える。

「せぇへんのちゃう?怪我した友達ほっぽって学校行ってたとかバレる方がヤバいし。ただ、なりすまししとる子はここぞとばかり色んな噂バラまくやろね」

「あー。なりすまし犯、なんであの子を狙うんだろ?あの男の人達のどっちかが好きだったとか?」

「さあ?見た感じあの子は人気モンっぽいから、それが気に入らんだけかもよ?ツキもそんな訳分からん嫉妬ようされるんちゃう?」

「あー……、うん、偶にあるかな」

 苦笑する月子に鈴音は小さく息を吐く。

「しんどかったらちゃんと言うねんで?」

「うん、ありがとう」

「よし。ほなこれにて一件落着。この後どないなっても私らには関係ナシ!出来る事はやりました!私らが追わなアカンのは謎の澱であって、悪魔オタクの動向やない!」

 胸を張る鈴音に月子は笑う。


「そだね、オトモダチ関係がどうなるとか、私達はカウンセラーじゃないし」

「その通り。もし悪魔オタクが生贄云々で人殺しになっても、そこはもう警察のお仕事やから」

「う……ん。そうだよね、割り切らないとね」

「おー、割り切れ割り切れ、生贄なんか捧げたってあんな傲慢な魂の持ち主んトコに来る悪魔なんざいねぇから、殺し損に殺され損だけど気にすんな!フハハハハ!」

 いきなり隣で高笑いされ、驚いた月子が鈴音に飛びつく。

「まだ()ったんか!どんだけ暇やねん!」

 月子を背後に庇いながら鈴音は呆れ返った。

「別に何もしてねんだから問題ねぇべ」

 悪びれもせず言うサタンに苛立った鈴音は空を指す。

「大問題起きとるがな」

 天使で埋め尽くされた空を見上げ、サタンは頭を掻いた。

「あー、ありゃ確かにウゼェな。よし」

 そう言うが早いか、フッと姿を消す。

「ん?帰った?」

 鈴音と月子が顔を見合わせる中、サタンが消えた事を確認した天使達は、次々と空の彼方へ飛び去って行った。



何と、レビューを書いて下さった方がヽ(´▽`)ノ

リアルにΣ(゜Д゜)!?こんな顔になって通知を3度見ぐらいしました 笑

本文は10回以上読んでドゥフフとなりました

本当にありがとうございます

この喜びを胸に、今後とも猫神教の布教に努めて参ります キリッ

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