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第ニ十二話 大鎌はどこに?

 店の外へ出た鈴音は、大鎌をどこからどの方向へ飛ばしたのかを骸骨に尋ねる。

 すると骸骨が鈴音の先を飛び、先程お互いが出会った場所まで導いた。

「ここでフルスイングしたんかー……骸骨さんの鎌は人に当たっても問題無いんですか?」

 スマートフォンで誤魔化しながら小声で話す鈴音に、骸骨は小首を傾げるという曖昧な反応を示す。

「当たらんにこした事はない、て感じですかね。通行人おらんで良かったー。ほな、こっからどっちへ向けて飛ばしました?山なりに飛んだんか真っ直ぐか、とかも知りたいですね。もし真っ直ぐ飛んでったんやったら、かなり遠くまで捜索範囲広げなアカンなぁ……」

 唸る鈴音に、骸骨が不思議な絵を描いた石板を見せて来た。

 骸骨と鈴音を囲むように円が描いてあり、そこからはみ出ている二人の絵にはバツ印が付けてある。

「んー?なになに、この円から出たら駄目、いう事ですか?」

 コクリと頷いた骸骨は石板をローブの中へ仕舞い、人差し指で空中に円を描いた。

 描かれた円は青白く発光して浮かび上がり、直径1.5メートル程に広がって鈴音と骸骨を内側に収めると、薄い膜のような物を円筒状に伸ばす。

「おお、弟がやっとったゲームのセーブポイントがこんなんやった。現実やとこんな感じなんかぁ」

 楽しげな鈴音に、今一度、円の外には出るなという絵を見せてから、骸骨は緩やかに神力を高めて行く。

 空洞になっている両目部分に青白い光が灯ると、円の外の景色が妙な動きを見せ始めた。


「え?あれ?……なにこれ、巻き戻し?」

 通行人が車が鳥が、皆一様に高速で逆行して行く。

 そうこうしている内に、黒いローブに身を包み、刃から柄まで白金のように輝く大鎌を持った骸骨と、悪臭漂う川のような色をした火の玉らしき物体が目の前に現れた。

「あっちにも骸骨さん!やっぱり巻き戻ったんや、へぇー!……っと、はしゃいどる場合ちゃうかった。うん、現状ちゃんと低い位置で構えてますね、大鎌」

 鈴音の言う通り、この時点での骸骨は冷静に見える。

 しかし、火の玉がユラユラと挑発するような動きを見せた途端、いきなりスラッガーに変身してしまった。


 刃が頭上に来るように柄を両手で持ち、斜に構え、これでもかという程のフルスイング。流れるような動きに無駄は一切無い。


 あまりに速い一連の動作に、全く何も出来ず火の玉は消し飛び、勢い余って回転してしまった骸骨の手からすっぽ抜けた大鎌は、綺麗な放物線を描いて彼方へと消えた。

「おぉっとこれは見事な場外ホームラーン!ただし飛んだのはバットの方だーーー!!」

 鎌の行方を目で追いながらの鈴音の実況。

 意味は解らないが、からかわれているのは解ったらしく、恥ずかしげに頬を押さえた骸骨が目の光を消し光る円も消す。

 すると何事も無かったかのように、周囲の動きが通常通りに戻った。


「今のはタイムスリップ的なやつですか?」

 過去に移動したのか、と問う鈴音に骸骨は首を振り、再び取り出した石板へ、目の付いた建物や木や道を描く。

 そして己の頭を指先でトントンと叩いた。

「目ぇのある建物?何か見てる……頭……んー?」

 鈴音が眉根を寄せると、更に絵を追加。

「建物が夢見とる?いや、違う。思い出……思い出す……記憶か!建物とか木とか道路、周りのモンの記憶!」

 どや、と顔を上げる鈴音に、骸骨は拍手で正解だと告げた。

「その場所が持ってる記憶を、見せてもうたいう事ですか?」

 その通り、と大きく頷かれて鈴音は只々感心する。

「便利やなー。事件や事故が一瞬で解決するやん。人にもあったらええのに」

 羨ましがる鈴音へ骸骨は頭を掻くような仕草で応え、更に、上目遣いで見るような様子を見せた。勿論目は無いのだが。

「あ、はいはい、大事な鎌の行方ですよね。ちょっとお待ちを」

 言いながら、耳に当てていたスマートフォンを顔の前で持ち、地図アプリを立ち上げる。

「えーと、現在地がココ。ほんで、鎌が飛んでったのがコッチ。この方向にあるのはー……」

 興味津々で覗き込む骸骨の前で地図を動かし、ある事に気付いた。

「骸骨さん、空飛んで探しはったんですよね?鎌から信号か何かが出てるんですか?」

 骸骨は頷き、大鎌から出る神力を感じ取れるのだと絵で伝える。

「その大鎌から出る神力、そない強いもんでは無いんちゃいます?」

 頷く骸骨。

 その回答で、鈴音には何となく判ったようだ。

「多分ここにあるんちゃうかな、いう場所が絞れました」

 一瞬動きを止めた骸骨は、『えええ!?』とでも言いそうな勢いで鈴音に詰め寄る。直ぐに失礼だと気付いたのか、急いで距離を取りソワソワと次の言葉を待った。

 別に失礼とも思っていない鈴音は、笑いながら続ける。

「神社。由緒ある神社がこの線上にあるんです。ちなみに神社いうんは、神様の……家みたいなもんですね」

 成る程とばかり頷いてから、小首を傾げる骸骨に、悪戯っ子の笑みで鈴音も頷く。

「そこもたぶん上から探したよ?て思うでしょ?まあ一緒に行きましょ、そしたら解りますから」

 愉快そうに歩き出す鈴音の後へ、半信半疑の骸骨も続いた。


 10分少々歩き、立派な神社に辿り着く。

 その堂々とした表門の前で鈴音は一礼し、中へと入って行った。骸骨も真似して頭を下げ、後に続く。

 敷地内へ入った瞬間、何かを感じ取った骸骨が額に手をやった。『あちゃー、そういう事か』といった風だ。

「ふふー、解りました?凄い神力でしょ?ここに落ちたら、弱めの神力は掻き消される思いません?」

 コソコソと喋る鈴音へ幾度も頷き、骸骨は肩を落とす。気付かなかった自身にがっかりしているらしい。

「まあまあ。この神力がズドンと空まで伸びとったら分かったやろけど、境内に収まってる感じやし、そら気付きませんて。とにかく、神様にご挨拶して、落とし物探さして下さい、てお願いしましょ」

 鳥居の前でもお辞儀し、手水舎で魂を清めてから社殿に向かう。


 社殿前で立ち止まった鈴音は、骸骨の分も賽銭を用意した。

「自分はどこに住んでいる誰で、今日は何をしに来たのか、心ん中で神様にお伝えして下さいね」

 頷いた骸骨は鈴音の拝礼の動きを真似、手を合わせながら言われた通り全てを神に告げる。

 苛々して大鎌を振り回した件も誤魔化さずに伝えた。

 すると、骸骨を不思議な感覚が包む。

 顔を上げ、その感覚を石板に描きつつ、既に社殿前の広場まで下がっていた鈴音の元へ急いだ。

「何や慌ててはるなぁ……どないしました?」

 きょとんとしている鈴音へ、石板を見せる。

「ん?神様に……叱られたんかなこれは。その後、肩をポンポン。激励かな?あ、今ここで起きた事!?成る程、それは良かったですね」

 骸骨は首を傾げながら石板を出す。

「なんで頑張れって言って下さったか?ああ、ここの神様は人やった頃、物凄い忠臣やったて事で有名な方なんですよ。せやから、骸骨さんが遠い異世界から来て、ご自分の神様と世界の為に働いてる事に、感心しはったんちゃいます?今後とも主にしっかりお仕えしなさいよ、て仰ったんかなぁ思いますけど」

 それを聞いた骸骨は感動したように石板を抱き締め、社殿へ向けて何度も頭を下げた。

「ふふー。でも、大事な武器を失くしたのはアカン、て叱られたんですね?」

 ギク、と肩を上げた骸骨は恨めしそうに振り向く。

「あはは、すんません。けど、捜索の許可は下さったみたいやし、探しましょか。私は見える範囲しか行かれへんので、それ以外を骸骨さんが探して下さい。ただ、立ち入り禁止の場所は特に神聖な場所なんで、くれぐれも失礼のないようにお願いしますね」

 頷き合ってから別行動へと切り替え、それぞれが大鎌を探し始めた。


 三十分程経過し、鈴音が表門の直ぐそばにある、越後の縮緬問屋の御隠居いや、とある御老公の像あたりを探していると、白金に輝く大鎌を携えた骸骨が飛んで来た。

 表情など無い筈なのに、ウキウキとしているように見えるから不思議である。

「良かった、見つかったんですね」

 微笑む鈴音へ骸骨は大鎌を掲げて見せた。霊感のある者が居たら腰を抜かしそうな絵面だが、当の本人達は実に幸せそうだ。

「どっこも壊れてないですか?」

 気遣いに大きく頷いて、鎌を手にクルクルと回る骸骨。

 石板を取り出し、このあたりにあった、と社殿横の森を示す。

「おー、そうですか。お参りしてる時、すぐそばにあったんですねぇ」

 骸骨が示した場所は、ここに祀られる神が人だった頃、決意を胸に果てた地だ。けれど、それを教えて骸骨の喜びに水を差す必要もあるまい、そう考えた鈴音は満面の笑みを向ける。

「しっかりガッツリお礼言うときましょ。ね?探さして下さって、本当に本当にありがとうございました」

 深々とお辞儀する鈴音に倣い、骸骨も頭を下げた。

「ほな、綱木さんにも報告しに戻りましょか。心配してはるやろし」

 軽やかに頷く骸骨の変わりっぷりに笑いながら、神社を後にし骨董屋へと足を向ける。


「ただいま戻りましたー!」

 鈴音の声に入口へ視線をやった綱木は、大鎌を持った骸骨の姿を見て、菩薩のような笑みを浮かべた。

「死神感ハンパ無い事になっとる。けどそれは言うたらアカンのや、堪えろ俺」

 小さく小さく呟いて、大きく息を吐く。

「はい、おかえり。見つかったんやね?良かったなぁ」

 その声に頷いた骸骨が、大鎌を手に踊るようにユラユラ揺れる。

「おっと、一応そのへん売り物やから気ぃつけて……て、実体化せん限り問題無いんかな?」

 綱木に頷きつつ、骨董品からは距離を取る骸骨。

「お気遣い感謝します。ほな、大鎌も見つかったし、また逃げた魂を探しに?」

 問い掛けに幾度か頷き、石板を取り出して絵を描き始めた。

「え、まだ地球に何体か居るんや!?それやっつけてから、次また別の世界へ旅立つんかー」

「まだまだ忙しいんやね、大変やなぁ」

 鈴音と顔を見合わせた綱木は、実はコッソリ気になっていた、ある事を尋ねる。

「それにしても、神の使いが働いてる場所に落ちる隕石て、どんなんですか?建物の屋根や壁が崩れるて、我々の常識からしたら結構な大きさやと思うんですけど……」

「あー、そっか。小さい隕石が家貫通した、とかビックリ映像で観ましたけど、屋根から床まで穴空いてただけでしたそういえば」

 これ位か、いやこれ位だ、と手で大きさを示し合う二人に、骸骨はさらさらと絵を描いて見せた。大きさはこのくらい、と指で丸を作る。

「うん?真ん丸?ゴルフボールぐらいの大きさか?いやこれホンマに隕石ですか?」

 首を傾げる綱木の横で、鈴音が何やら嫌そうな表情になって行く。

「大きさがちゃうし、まさかやんな?ちゃうちゃう、考え過ぎや」

 ブツブツ呟く鈴音をよそに、骸骨は更に絵を追加。


 隕石というより、ツルリとした玉で、とてもキラキラと綺麗で、強めの力を感じる物、らしい。


「うわあ。……いや、私にあたった玉は弱めの神力やったし、もうちょいデカいし、うん、違う。あの玉の仲間ではない……と思いたいけどどうかなー、これは素直に相談した方がええ、て本能が告げるんは何でやろかー」

 呟きではなく大きめの独り言を口走る鈴音に、『えぇー……今度は何ぃー?』な顔を向ける綱木。

「あー、骸骨さん、もうちょいお時間ありますか?ちょっと、確認したい事があるんやけど……」

 歯切れの悪い鈴音に小首を傾げつつも、骸骨は頷いた。

「すんません、なるべく早よ済むよう努力します。えー、虎ちゃーん」

 鈴音が呼び掛けると、入口のそばに通路が開き、虎吉がトコトコと出て来る。

「オヤツか!?」

 期待に満ちた目で見上げられた鈴音は申し訳無さそうに首を振り、綱木は目を合わさないよう心掛け、骸骨は両手を組んで合わせ祈るようなポーズで小刻みに揺れていた。喜んでいるようだ。

「オヤツどころか仕事の話もまだやねんけど」

「遅ッ!どういう事やねん!」

「うん、この骸骨さんの落とし物探しててん。それは見つかってんけど、骸骨さんの話聞いてたら、気になる事が出てってな?」

 虎吉が骸骨を見上げれば、石板いっぱいに縞模様の猫の絵を描いていた。元々の猫好きなのか、初めて見て気に入ったのかは分からないが、とにかく好意を寄せられている事だけは理解出来た。

「おう、このええ骸骨の何が気になんねん」

 綱木は『ええ骸骨て』とツッコミたいのを全力で我慢する。

「骸骨さんが気になるんちごて、骸骨さんの職場に落ちた隕石が気になんねん。今ここには無いみたいやねんけど……特徴聞けば聞く程、どうもあの玉っぽい」

「うわー、あのけったいな玉、どこにでも出よるな!」

「まだ決まったわけちゃうけど、もしそうやったら手掛かりも増えるし、骸骨さんに事情話して向こうの神様とも連携したりとか、色々あるかな思て」

 鈴音の話に頷いた虎吉は、出てきた時と同じ場所に、出て来た時より大きい通路を開けた。

「ほな、猫神さんに言うて、あの玉持って来たらええ。鈴音が頼んだら嫌とは言わんやろ」

「ホンマ?ほな頼んでみる。あの、骸骨さん、見て欲しい物を取って来るんで、もうちょっと待っとって下さい」

 鈴音のお願いに骸骨は頷き、綱木は冷や汗を流しながら通路を見ている。

 綱木がまた何かに驚いているようだが、それは後で聞けばいいだろう、と瞬時に判断した鈴音は、通路を通って白猫の元へ向かった。

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