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第二百十話 大神官様ご到着

 鈴音の質問に女性店員は首を傾げる。

「知らない?魔物の王。何か魔物を使って悪い事するんだって。人の住んでる街を襲わせたりとか」

「えー、めっちゃ怖いやん。どっか襲われたん?」

「分かんない。ガアンで船食いが出たらしいけど、直ぐやっつけられたみたいだから違うだろうし。あそこの漁師強いって有名だもんね」

 流石王都の酒場だけあって、遠く離れた港町の話まで届いているようだ。

 強い漁師達だと王都で評判になっているよと、組合長やリーアンに教えてやりたい。いや、アイに教えた方が喜ぶだろうか。

 そんな事を考え顔がにやけそうになるのを堪えつつ、鈴音は再度確認する。


「ほなまだ、特にどこが襲われたとかではないんやね。他の国は大丈夫なんかなぁ。私なんか遠い島出身やから心配なるわー」

「どうなんだろう。外国の人かなり来るけど、そういえば聞かないな。魔物に街が襲われたりしたら、絶対誰かに喋るもんね」

「そら喋るよねぇ。どこそこの街がどえらい事になっとるでー!て、あっという間に広まる思う」

「だよね。って事は、何にも起きてないのかも。あれ?じゃあ魔物の王って何もしてないの?てか、何もしてないのに何で魔物の王かどうか分かるの?」

 矛盾に気付いたらしい店員が悩む様子を眺め、一般人には怪談と同レベルの噂話かと鈴音は納得した。

 王都から出ない人々にとっては、正に対岸の火事なのだろう。あの高く頑丈な城壁に守られていれば、魔物に対する危機感が薄くても仕方がない。

 鈴音としてもさっさと宮廷魔導士と女王を片付けて、このままただの噂話で終わらせてやりたいと思う。


 葡萄酒で喉を潤すと、まだ悩んでいる店員に微笑んで助け舟を出してやった。

「誰かが強そうな魔物見て『魔物の王様みたいやったわ!』て言うたら、人から人へ伝わる内にいつの間にか『魔物の王を見た奴がおるらしいで』に変わったんちゃう?」

「ああ!そっか!噂ってそういうトコあるよね!でももし王に見える位強そうな魔物が居たなら、それはそれで怖いかも。城壁壊すような大きい魔物だったらどーしよー」

 大して怖がっていない店員の様子に、『この人が次の噂の出どころになりそう』と思いつつ鈴音は笑う。

「女王様が何とかしてくれるって。強い警備隊やら軍やらに命令して、あっという間にやっつけてくれるよ」

「それもそっか。王都なんだし、いくら王族や貴族が庶民の暮らしに興味が無いっていっても、魔物から街を守る位はするよね」

「うん、それが普通や思うけど、その言い方やと何や王都やなかったら守って貰われへんみたいに聞こえるで?」

 王都なんだし、という言葉に引っ掛かりを覚えた鈴音が尋ねると、店員は肩をすくめて頷いた。


「実はそうなんだよねー。70年位前かな?隣の国と戦争してた頃に、街を見捨てて逃げた王族や貴族が居たんだって」

「うわ、それは信用無くすなぁ。その街は隣の国のもんになったん?」

「ううん。ウェイダー辺境伯が駆け付けて助けたり、取り返したりしたんだって。ほら、さっき言ったガアンもそうだよ。戦争が終わった後に領地を治めに来た貴族を、漁師達が追い返した事で有名。ここは辺境伯の領地だ!って」

 海の男達の顔を思い浮かべ、当時の様子があっさり想像出来てしまった鈴音は楽しげに笑う。

「辺境伯様、困ったやろなー。そんなつもりで助けたんちゃうねんけどなぁ、て」

「うん。ガアンを真似して、助けて貰った街がみんな『辺境伯が領主様になってくれなきゃヤダ!』って言い出したみたいだしね。王族も貴族も無理に自分の領地にしたら『逃げたクセに』ってずっと言われるから、渋々認めたんじゃないか、って子供の頃に曾祖父(ひいじい)ちゃんから聞いた」

「へぇー。もう代替わりしてるやろけど、今でも人気なん?辺境伯様」

「うん。税も高くないし魔物が出ても直ぐやっつけてくれるし、庶民に読み書き教えてくれる場所作ったり安い治療院作ったり、あとなんだっけ?商人さん達が色々教えてくれるんだけど、多過ぎて忘れちゃった。とにかく、凄く人気あるみたいだよ」

 木製コップ片手に成る程と頷く鈴音。


「それは女王からしてみたら目の上の瘤やなぁ」

「ん?目の……?」

「ああ、何でもない。おもろい話聞かしてくれてありがとう。ええ土産話が出来たわ。ごちそうさま」

 葡萄酒を飲み干しコップを返すと、店員はどう致しましてと笑う。

「また来てねー」

「はーい、またねー」

 笑顔の店員に手を振って店を後にし、鈴音は

表情を引き締めた。

「何であの港町が狙われたんか謎やったけど、領主様が邪魔やったんか」

 魔物の王の話より、こちらの方が収穫だったかもしれない。

 大型船も停泊出来るような港は国にとって重要な物流拠点だというのに、何故自作自演の攻撃目標にされたのか鈴音には不思議だったのだ。

 どうやら、圧倒的な人望がある領主が治める地で、かつて王侯貴族に赤っ恥を掻かせた漁師達の子孫が暮らす街だから、どうせ狙うならここでという事になったと見てよさそうだ。

「自業自得のクセに、そんな理由で重要拠点潰されたら国民はたまったもんやないで。いや他の街でもアカンけども」

 自分勝手で人を人とも思わぬ所業に腹を立てつつ、鈴音は宿へと戻った。



 宿で虎吉とシィに酒場で得た情報を話すと、揃って見事なスナギツネ顔になる。

「頭悪い奴しかおらへんのか?」

「城ごと吹っ飛ばしていい気がしてきた」

 国の事を考えて我慢している鈴音ですら一瞬そんな気になったので、自身が殺され掛けたシィは放っておいたら本当にやりかねない。

「気持ちは解るけど、私らの獲物は宮廷魔導士な。あと女王と魔物呼び寄せる石作った奴もやりたいけど、その辺はシエン様次第な」

 どうにか宥めて、明後日の本番に今日の疲れが残るといけないからと早々に休ませた。

 実際とても疲れていたシィは『おやすみ』と言った数秒後に寝息を立てるという早業を披露。

「あー、ここまで頑張って起きててくれたんか。悪い事したなぁ。明日は食べ歩きでもしてゆっくりさしたろ」

「おう!肉食お肉!」

「ええね。その前に鍋とお皿買いたいねん。ほら、猫神様にも差し上げな」

「よし、デカい鍋と皿()うてから肉やな」

 明日の方針を決めた所で、虎吉を腹の上に乗せたまま鈴音も目を閉じた。



 翌朝。

 おかわり自由のパンに卵にソーセージにサラダという宿の朝食を取りながら、今日は食べ歩きだと告げると、シィは諸手を挙げて喜んだ。

 食後、腹ごなしに魔物を狩りたいというので、壁を跳び越えて近くの森へ入る。

 シィもすっかり慣れたもので、飛んで火に入るなんとやら状態な魔物を3体程サクサクと狩った。

 買取り所へ持ち込むと、イバラのような魔物2体は合わせて銀貨5枚だったが、蛭のような魔物は需要が高いらしく銀貨20枚になった。

 ウエストバッグに仕舞ってホクホク顔のシィを連れ、鈴音は宿で聞いておいた道具屋で両手鍋と大皿を購入。

 ポケットから出した巾着袋の口が広がり鍋と皿を呑み込む様を、シィが信じられない物を見る目で凝視していた。

 島に伝わる秘密の道具だと誤魔化し、口止めしたのは言うまでもない。


「さあ食べ歩きや。宿のおっちゃん情報によると、飲み屋街の手前に市場があって、そこに屋台やら持ち帰りもありの店やらがあるらしいねん」

 時刻は午前10時頃。

 朝食を終えてからまだ3時間半程しか経っていないのに、全員もう食べる気満々である。

「肉!魚もええけど、本場の港町より美味いのは無さそうやしなあ」

「そっか、師匠の言う通りだ。じゃあ俺も肉!」

「よーし、ほんなら肉系の何かを目指して出発!」

 オー、と拳を突き上げ、元気に歩いて市場へ向かう。

「あ、でも先生、宿の昼メシも気になる」

 シィの言葉に鈴音の目がキラリと光った。

「確かに。あんまりお腹いっぱいにはならんように気ぃつけよか」

「そうする」

「せやな」

 昼食は昼食で取るつもりらしく、重大事項の確認かのように真顔で頷き合う、奇跡の完全消化吸収持ち2名と直ぐに腹ペコ育ち盛り。

 いざ尋常に勝負とばかり、目を輝かせて市場へ乗り込んだ。



「おっちゃん、この肉の串26本追加で」

「にじゅ、マジか、ありがとよ!焼くから待っててくれ」

「あああ早よ冷めへんやろかまだ熱々や」

「俺、風出そうか?この位かな?」

「おお、ええぞ弟子!」

 肉屋が店先で串焼きを出していたので、一本ずつ買って味見した結果、白猫にも買って行くべき品だと判明。白猫用20本、自分達用6本の追加と相成った。

 まだ味を知らない虎吉が、鈴音の手にある串にシィの風を当てて貰って冷めるのを待っている。

「なぁおっちゃん、この辺でオススメの屋台なり店なりある?これは食べといた方がええでーみたいな感じの」

 鈴音の問い掛けに、せっせと串を焼きながら店主は答えた。

「この先に、挽肉を平たくのし焼きにしてパンに挟んで食わせる屋台があるんだけど、あれは美味かったな。真似しようかと思った位だ」

 言われた料理を想像してみると、鈴音の頭に浮かぶのはハンバーガーだ。

「ええねぇ。後で行ってみるわ、ありがとう」

 数分後、焼けた串を全て大皿に盛って貰い、店の脇で冷ましがてら自分達の分を美味しく食べる。スパイシーな肉にご機嫌な虎吉は、白猫も気に入ると太鼓判を押してくれた。


 肉を食べ切ると、人目が無いのを確認してから巾着袋に皿ごと串を仕舞い、今度は肉屋オススメのハンバーガー屋台を探す。

 程無く見つかったそこで4人前を頼んで待っていると、にわかに市場の入口辺りの人々がざわめき、それがこちらへも徐々に伝わって来た。

「なんだろ?ざわざわしてる」

「ホンマやね。ちょっと待って」

 首を傾げるシィに微笑み、鈴音と虎吉が耳を澄ます。すると。

「……ぅえ?大神官言うてへん?」

「言うとる。大神官様がいらした、とか聞こえる」

 猫の耳で聞いた人々の声は、大神官御一行の到着を告げていた。

 小声でそう教えてやると、シィは目をぱちくりとさせる。

「え。明日だよね?予定だと」

「その筈やねんけど。何かあったんやろか」

「また魔物呼ぶ石でも見つかったか?」

 コソコソ話している間に、ハンバーガーが出来上がった。

「ありがとう。よし、食べながら見に行こ」

 葉っぱに包まれたバーガーを受け取り、白猫の分を巾着袋に入れた鈴音の案に虎吉もシィも頷く。

 鈴音の右手は鈴音用のバーガーで塞がってしまうので、シィが両手に持って片方を虎吉が齧るスタイルで移動した。


 市場の入口から大通りにかけて既に人だかりが出来ていたので、鈴音は屋根の上へ行く事を選択。

 シィも2階建ての屋根なら風の魔法を使う事なく上がれて、出来た本人が最も驚いていた。城壁を跳ぶ際は上ばかり見ていた為、自分がどこまで跳んだか把握していなかったそうな。

 ちょっと自信がついたらしいシィの様子に目を細めつつ、鈴音はシエン達を探した。

「えーと、派手な集団派手な集団」

 屋根の上を歩きながら大通りを目で辿ると、人混みを綺麗に割って進む白い一行を発見。

「うわホンマに()った」


 旗を持った先導役に続いて澄まし顔で歩むのは、紛れも無く大神官シエンだ。

 その後ろには筆頭神官ラーも居る。

 白地に金糸の刺繍が施されたマントを翻し進む行列は、大変立派で偉そうで、あのふざけた爺さんは偽物だったのではと疑ってしまう程だ。


「これ、このまま城まで行くんかな。それとも一旦神殿に行くんやろか」

「神殿やろ。俺らに連絡も無しに乗り込まんやろし、一応城の方にも今から行くて言わなアカンのちゃうか?」

「それもそうか。ほな神殿までついて行こ」

「わかった」

 頷き合い、ハンバーガーを齧りながらのんびりと屋根の上を歩いて集団の後を追った。


 庶民が暮らす地域と富豪や貴族が暮らす地域の境目辺りにある神殿へ、大神官御一行はゾロゾロと入って行く。

 普段は身分の隔て無く誰でも入れる神殿も、この時ばかりは一時立入禁止となった。

 神殿の広い敷地を眺めつつ、鈴音は頭を掻く。

「んー、どないしよ。正面からやと目立つし、裏口に回ってみよか」

「おう、そっから俺が入って話してったるわ」

 虎吉の提案に鈴音もシィも『その手があったか』という顔になった。

「神殿なら危ない事もないやろし、虎ちゃんにお願いするわ」

「師匠かっこいい」

 潜入捜査っぽいのが男子的にはカッコいいらしい。シィに尊敬の眼差しを向けられ虎吉は得意気に胸を張る。

「師匠がカッコ悪いと弟子が可哀相やからな」

 キリ、とイケニャンフェイスを決める虎吉に目尻を下げながら、屋根から降りた鈴音は壁伝いに裏へ回った。


 神殿すらまともに見えない裏手に人は殆ど居らず、数少ない通行人が過ぎた所を狙って虎吉を潜入させる。

「ほなお願いしまーす」

「いってらっしゃい」

 見送る鈴音とシィに尻尾で返事して、虎吉は壁を跳び越え敷地内へ入った。



今年も読んで下さってありがとうございました。

ブックマーク等とてもとても励みになりました。

来年も引き続き可愛がって頂けたら幸いです。


三が日は、どこかで更新出来るかな……な感じです。すみません。

酔うと寝てしまうんです。毒無効が欲しい(・ω・`)

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