表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
205/629

第二百五話 初収入

 風の魔法で速度を上げたシィの打ち込みを、簡単に見切ったラーがさらりと躱す。

 そんな修行風景を眺めつつ、鈴音はシエンに先程得た情報を伝えていた。


「何とも(おぞ)ましき話にござりまするな。魔物の王による攻撃の被害者として他国に印象付ける為、自国民を襲う等という悪逆な行いに及んだのでありましょうか」

 険しい表情を見せるシエンに鈴音は頷く。

「そうやと思います。後は、上手い事行くかどうかの実験も含まれてるんちゃいますか。何かボロが出ても、自分の国ならまだ誤魔化せるから」

「確かに、他国にてのしくじりは即座にこの国の立場を危うくする。それ故の実験にござりまするか。卑劣としか申せませぬ」

 憤りを抑えるように大きな溜息を吐き、シエンは辛そうな表情で続けた。


「卑劣と言えば、孤児院について調査しておる者達からの報告では、シィが入っておった院以外でも同じように金で買われた孤児が大勢おるとの事。買い手は全て宮廷魔導士と見て間違い無いと」

 それを聞いた鈴音の顔も曇る。

「シィ君への仕打ち考えたら、まともな扱い受けてるとは思えませんね。何の為の剣や魔法の訓練なんかが気になります。魔物の王なんかおらへんねんから」

「誠に。買われた孤児らを思えば、今暫く内偵を等と悠長な事を言うておる場合ではござりませぬな。我らは王都の隣町にて海賊船について調べ、その後に孤児院の院長共を連れ創造神神殿の神官として王城へ乗り込む事と致しまする」

 頷いた鈴音は、ラーに剣での防御をさせる事に成功したシィを見ながら提案した。


「それやったら、宮廷魔導士の顔も院長とのお金のやり取りも知ってるシィ君が切り札になりますね。お城に行く日を教えて貰えたら合わせて殴り込みますけど」

「おお!それでは宿に使いを出しましょうぞ。それまでは申し訳ござりませぬが、魔導士めへの復讐はお待ち頂きたく」

「そうですよね。お城側が警戒してまいますもんね。大人しく連絡待っときます」

 了解した鈴音に礼をするシエンは気付いていない。

 殴り込む、この危険極まりない語句が比喩等ではないという事に。

「ほなシィ君が訓練させられてた街には行かんでもええんや。目指すは王都のお城か。次の王様の為にも、防御に影響出ぇへんように考えなアカンなー」

「まあ外の壁やら扉ぐらいやったら直し易いやろ」

「そうやね、なるべく扉やね」

 鈴音と虎吉が何やら不穏な会話をしているが、今後の予定を考え始めていたシエンの耳には届いていなかった。



 夕食後、部屋に戻った鈴音は、シィに昼間シエンと決めた予定について説明する。

「……そういう訳で、宮廷魔導士との対決はお城になりそうやわ」

「うわー、女王様も駄目なのかよ。何か悪い奴ばっかりなんだなこの国。いや、リーアンさんとアイさんはいい人だ。悪い奴なのは偉い奴か」

 物凄く嫌そうな顔をするシィに、鈴音も似たような顔をしながら頷いた。

「ゴロツキだらけの街やて聞いて来たのにみんな親切やしよう働くし、国民は真面目で優しい人柄なんやろね。せやのに何をどない間違(まちご)うたら、孤児を金で()うた上に殺そうとする魔導士やら、魔物を自国の街に突っ込ませる女王やらが出来上がるんやろか。ホンマ謎やわ」

「偉くなるとおかしくなんのかなぁ」

 シィの言葉で鈴音の脳裏に浮かんだのは、偉そうにふんぞり返る議員だったり医者だったり弁護士だったり、所謂先生と呼ばれる人々だった。


「まあ、周りからチヤホヤされて勘違いし易いとは思う。魔導士様魔導士様言うてみんな持ち上げてくれるん体験してるから、よう解るわ」

「でも先生はおかしくなってないし」

「ど庶民やからね、様付けも最近漸くそういうアダ名や思い込む方向に持って行けるようになった位やしね」

 鈴音の所持金額を知っているシィは、不思議そうに瞬きをする。

「金持ちなのに庶民?」

「あー、そうか。今はお金持ちか。うん、でも庶民やねん。大金怖いねん」

「ふーん。じゃあ女王様は、生まれながらの金持ちで偉い人だからおかしいのか」

 それはどうだろう、と鈴音は首を傾げた。


「私が知ってる国の女王陛下は、国民は勿論世界中から慕われる凄いお方やで。それに、お金持ちで偉い人が全員おかしかったら、世界が滅茶苦茶んなるし。ここの前国王と現女王が変なだけや思うよ」

「そっか。ハズレって事か。親もハズレ、国の偉い人もハズレ。あ、でも先生と師匠は大アタリだ。って考えると、母親が逃げたり父親がくたばってあんな孤児院に入ったのも、悪い事でもなかったのか。金で買われたのも森に捨てられたのも運が良かったんだな」

 両親は死んだと言っていたが、実際はシィをろくでなしの父親の元に残し母親は逃げたようだ。死んだと言ったのは、自分を捨てて居なくなった者など死んだも同然という事なのだろう。

 何というか、あの森で生き残ったのは確かに強運だが、それまでが不幸過ぎて、運が良いのか悪いのか鈴音には分からなくなった。


「そもそもホンマに運がええ人は死に掛けへんし」

 鈴音の呟きを聞いたシィは、せっかく上手い事自分を騙していたのに、と残念そうな顔をする。

「あ、ゴメンゴメン。いや、でも、やっぱり運悪いよ。全部シィ君本人には何の落ち度も無い事やのに、自力ではどないも出来ひんとかあんまりやん。子供やから力も無いお金も無い、まだ1人で生きて行ける状態ちゃうかったやろ?」

「……うん」

「気の毒過ぎて泣きそうになるわ。けど私が思うに、そんな不運なシィ君は多分あの森で死んでん」

「え」

 生きてるよね、とばかりパタパタと顔やら身体やらを触って確かめるシィ。

 悪ガキの笑みを浮かべた鈴音は気にせず続ける。

「生き残ったんは運のええシィ君や。せやから魔法は得意になったし、自分にピッタリの剣も見つかったし、その剣を上手に使う方法も達人に教えて貰えた。もし剣が抜かれへん状況に陥っても、虎ちゃん直伝の体術がある。そんな力を活かして魔物狩って生きて行くも良し、大神官様の口添えで神官として神に仕えるも良し、一気に進める道が増えたよね」


 体術の師匠は神の分身、魔法の先生は神の眷属、剣の師範は筆頭神官、後ろ盾は大神官。

 どれだけの運があれば揃うのか分からない顔触れだ。

 大人になったいつの日か、『今更だけどとんでもねぇな!?』と呆れるシィを想像して鈴音はこっそり笑う。


「言われてみれば、ホント急に恵まれてるカンジだ。魔物狩りやりたいけど、神官もいいな。食いっぱぐれる心配ねぇし」

「でも上司があれやけどな。ま、この先は自分が選んだ道を好きに行ったらええやん。ただ、選んだんは自分やから、酷い目に()うても誰のせいにも出来ひんけどね」

 微笑む鈴音と目を細める虎吉を見て、シィは真剣な表情で頷く。

「もっといっぱい頑張って、まともな大人になるよ。子供があんな風になりたいなって思うような」

「うんうん、弱い立場にある人の気持ちが解るシィ君ならなれるわ。ただ、辛いな疲れたな思た時は休憩も必要やからね。頑張り過ぎは自分だけやなく周りも不幸にするから」

「ん、わかった」

 素直にアドバイスを受け取るシィに『ええ子やなぁ』と感心していると、部屋の扉が控えめにノックされた。


「はい、どうぞ」

「鈴音さん、お客さんです。買取り所の職員さんがいらしてますよ」

 扉の隙間からひょこっと顔を覗かせたアイの声で、巨大船食いと大量の魔物の買取り金額に関する話がまだだったと思い出す。

「分かりました、直ぐ行きます」

「はい、そうお伝えしますね」

 笑顔のアイに『お願いします』と会釈した鈴音は、虎吉を抱えて立ち上がった。

「ほなちょっと、お金持ちになる話ししに行こか」

「え?……あ、そっか俺も魔物倒したんだった」

 あの澱のような石に引き寄せられた魔物は数が数だったので、全部纏めて査定して貰い、魔物狩りの人々とシィで山分けする事になっているのだ。

「うわー、幾らになったんだろ」

 初の買取りにソワソワと落ち着きを無くしたシィを連れ、鈴音は部屋を出た。



 階段を下りて食堂に入ると、馴染みの買取り所職員と他に2名の職員が来ている。

「お待たせしました」

 鈴音が笑顔を見せると、職員達は立ち上がって顎を引いた。

「夜分にすみません。査定に時間を取られまして」

「構いませんよ、まだ早い時間ですし」

 穏やかなやり取りをする鈴音の後ろで、シィの目は職員の手にある草臥(くたび)れた革袋に釘付けだ。

 綺麗な袋を大事そうに抱えていたらゴロツキや強盗に狙われるので、敢えて使い古した袋に金を入れて『汗にまみれた作業着が入っていますよ』みたいな顔をして持って来たに違い無い。

 自分の稼ぎもあの中にあるかと思うと、期待と緊張でシィの手は知らぬ間にきつく握られていた。


「おーいシィ君、早よ座り?」

 いつの間にやら席に着いていた鈴音に促され、我に返ったシィは慌てて椅子に腰を下ろす。

 その様子を微笑んで見守ってから、職員は古い革袋の中から真新しい革袋を取り出しテーブルに置いた。

 沢山の金属が入った重い音が、静かな食堂に響く。

「はい、こちらが、怪しい石に釣られて現れた魔物の買取り代金です」

 ずい、と袋をシィの方へ動かしてから、職員は紙を取り出した。

「細かい査定額はこちらの通りで、締めて金貨5枚になりました。それを魔物狩りの皆さんとシィさんの10名で割りますと、お1人銀貨50枚のお支払いとなります」

 金額を聞いたシィの目が驚きに見開かれる。

「銀貨50枚!凄い!」

 嬉しそうなシィに微笑みながら鈴音は頷く。


 確かに、易々と魔物を倒していたシィからすれば、日給5万円は笑いが止まらない額だろう。

 反対に、全力で戦ってクタクタになった魔物狩り達からすれば、あれだけ頑張ってこれだけかと言いたい額かもしれない。


「初めての収入?」

「うん!」

 鈴音の問い掛けに笑顔で頷いたシィだったが、そこではたと思い出す。自分は借金塗れだと。

「あの、これ。服代とか、宿代とかの分」

 浮かれている場合ではなかったと神妙な顔をして、銀貨の詰まった袋を差し出した。

「え?」

 きょとんとした鈴音は袋とシィを見比べ、愉快そうに笑い出す。

「いやいや、これはシィ君が持っとき?言うたやろ、出世払いやって。返すんは、女の子にキャーキャー言われる大英雄になってからでええから」

 そう言われたシィの目がキラリと光る。


「女の子にキャーキャー」

「うんうん。めっちゃ強なったシィ君が、私みたいにサクッと稼げるようになった頃、キッチリ取り立てに行くし」

「取り立てって何か怖い」

「ふふん。おう大英雄はん、ようお稼ぎでぇ。あん時の大金貨覚えてまっかぁー。もうそろそろ宜しいやろ。今ここでキッチリ耳揃えて返しとくなはれ」

 椅子の背に腕を掛けてふんぞり返り、悪徳金融の取り立て屋丸出しの演技をする鈴音。

「こわ!!花街で遊んでる場合じゃなかった。ちゃんと貯金しよ」

「嘘やん!既に心は花街に飛んでんの!?早ない!?先生はキミの行く末が心配や!!」

「うはははは!鈴音が負けた、こら珍しい」

 師弟によるミニコントに虎吉も職員達も楽しげに笑う。


「愉快なお弟子さんですね。大物の予感がします」

「ええ、色んな意味で」

「ふふふ。あー、それで、魔導士様にお渡しする船食いの買取り額なんですが。本部の者達とも意見を交わした結果……」

 笑顔から一転、表情を引き締めた職員は声を潜め、周囲を警戒しつつ紙を出した。

「巨大船食い2体で、大金貨15枚です」

 更に声量を落として紙に書かれた金額を指差す職員。

 数字を見てうっかり日本円に換算しかけた鈴音は、ハッと気付いて正気を保つ為の呪文を唱える。

「金メダル金メダル金メダル。金メダルが15枚貰えるだけ。……よし」

 大きく頷いた鈴音を見やり、職員は革袋を取り出してテーブルに置いた。

 そっと引き寄せて中を確認した鈴音は、確かにありましたと再び頷く。

 慌てて自分が貰った袋の中身を確認し、シィも同じように頷く。

「では受領証にご署名をお願いします」

 出されたペンとインク壺を使って書類にサインし、控えを受け取って取り引きは終了した。


 鈴音もシィもそれぞれ革袋を手に、肩の荷が下りた様子の職員達を見送る。

「いやー、この短期間でこれ程の額を動かす日が来るとは思いませんでした」

「あはは、本部の方々もビックリでしょうね」

「ええ、そりゃあもう。でも珍しい魔物は大歓迎なので、ガアンに滞在中は是非またお持ち下さい。本日は誠にありがとうございました。それでは失礼します、おやすみなさい」

 おやすみなさいと鈴音もシィも返して、職員達の足音が遠ざかってから部屋へと戻った。



「ふー、せっかく使(つこ)た大金貨がまた増えた。全部ラーさんに渡して寄付しよかな」

 遠い目になっている鈴音とは反対に、シィは革袋を開いては中を確認し、嬉しそうに笑っている。

「シィ君、腰につける形の財布買おか。その袋落として無くしたら悲しいやろ」

 その状況を想像したのか、青褪めたシィが物凄い勢いで頷いた。

「買って、落とさないヤツ!」

「でもスリとかに狙われ易なるかもしらん」

「返り討ちにする!敵の気配なら分かるから俺」

 それもそうかと納得した鈴音は、シエン達から連絡が来たら直ぐ旅立てるよう、シィの装備を整える事にする。

「財布やら水筒やら()うて、殴り込みの日ぃ待ちながら魔法と体術の練習しよか」

「わかった」

 拳を握るシィに微笑み、後何日ここに滞在出来るか分からないが、宮廷魔導士程度なら一撃で倒せる位には鍛えてみせようと決意を新たにする鈴音。

 虎吉も同じ考えのようで、互いに悪い笑みを浮かべ頷き合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ