第百四十一話 ド派手にかますでー
攻撃が止んだ隙に塔の上空を押さえようとしていた船を、青白い炎で一掃し更に送り込まれて来た敵も薙ぎ払いつつ、鈴音は西へ向かって前進し始める。
「虎ちゃーん!今の私、かなりヤバい人に見える思うねんけど、これって敵にも見えてるんかなぁ?」
右手の青白い火炎放射を奇跡的に逃れた船がいれば、左手から出した青白い火球で撃墜するという、完璧な掃除っぷりを見せつけながら鈴音は虎吉に話し掛けた。
「見えてへんのやったら、見えるトコまで行きたいから指示してくれへん?人形使て自分の手は汚さんと街ごと人殺したろとか考えとるドアホに、自分がやった事はいつか自分に返ってくるんやで、て教えてやりたいねん」
鈴音の声が響いた塔の内部では、ブランシュと白ローブ達が驚き、虎吉は納得の様子で頷いている。
「ちょっと待っとけよー!……おう、この鈴音の大暴れは向こうさんに見えとるんか?」
虎吉に尋ねられ、我に返った男の一人が首を振った。
「ここまで塔に近いと、こちらの魔力が邪魔をして見えない。最初に障壁へ大穴を空けた時ぐらい離れないと……」
「あー、そういう事かいな。自分らが見えるギリギリの距離で攻撃が効くか試しとったんやな。謎の光に負けはしたけど、少ない数の人形で壁に穴は空けられたから、大量に送り込んだら勝てるやろいうて、この作戦をやる事にしたっちゅう訳か。よし、ほんなら国境がどないなっとるか見してくれ」
指示を受けた映像担当の女が魔法陣を仄かに光らせると、人形軍団と戦う兵士達の姿が映る。
車輪の無い装甲車のような物に乗った兵士達は、虎吉が張った金色の障壁の内側から魔法を撃って安全に攻撃していた。
ただ、彼らの背後に広がる街外れからは煙が上がっており、一度は人形達の攻撃を食らっている事が解る。
「私の防御障壁は破られたんですね……」
辛そうに呟くブランシュをちらりと見てから、虎吉は鈴音へ指示を飛ばした。
「やっぱり塔から近いと向こうさんには見えへんみたいや。もうちょい、初めて船消した辺りまで行ったら見えるようになるねんてよ。ほんで、そのまんま真っ直ぐ進んだら国境に出るで。この国の兵隊が壊された街外れ守りながら人形と戦うとるわ」
「了解。因みに、敵の国にもこういう塔があるん?あるならブッ壊す?壊したら防御の壁作れんようになって、他の国からフルボッコされるやろか。けど先に手ぇ出して来たんあっちやし、身から出た錆な気もするけど、どない?」
何やら急に凶暴性を帯びた鈴音の言にブランシュは瞬きを繰り返し、白ローブの男女達は『壊すってどうやって』と混乱している。
「どうやって壊すねん、言うとるから有るんやろ、塔。けど鈴音、塔に居る奴らはここの奴らと同じで、守れ言われとるから守る、攻めろ言われとるから攻める、っちゅう下っ端やぞ多分。ビビらすんやったら、もっと上のヤツにゴーン行ったらなアカンのと違うか?」
虎吉の指摘を受けて、それもそうかと考え直した鈴音は標的を変更した。
「敵の国は君主制?共和制?城か国会議事堂かどっち狙たらええんかな」
「ほれ、質問に答えんかい」
「え、あ、はい、我が国とは違い君主制です」
白ローブの男が答え、虎吉が伝える。
「ありがとう虎ちゃん。王様とか貴族とかにゴーンやな。城とか宮殿ぽいトコ狙お。ほな、行ってきまーす」
近所へ買い物にでも行くような口調と足取りで前進した鈴音は、敵から見える位置まで出ると立ち止まり、魂の光を全開にした。
「ド派手にかますでー」
悪い笑みと共に宣言すると、右手を空に突き上げ青白い火球を作り出す。
火球はどんどんと膨れ上がり、最終的なその大きさは人形達が作る物の数十倍。
前方を埋める船全て呑み込んで余りある、馬鹿げていると言っていい大きさ。
別にレーザー紛いの火炎放射でもよかったのだが、こうして“溜め”がある方が、敵の心理を揺さぶれそうだと思ったのだ。
謎の光による現実離れした滅茶苦茶な攻撃など、相手をパニックに陥れるには最高の演出だろう。
「もうええかな?はい、サヨウナラー」
馬鹿げたサイズの火球を見やり綺麗に微笑んだ鈴音が、伸ばしていた腕を素早く前へ振る。
魂の光によって増幅された神の力による投球は、突っ立ったままただ腕を振っただけで火球に音速を与えた。
大きさだけでなく速さまで馬鹿げているそれを避ける事も敵わず、人形を満載した船団は灰すら残さず消滅。
勢い余って国土の上空を遥か西まで突っ切り、緩衝地帯の中程まで飛んで漸く消えた。
「お掃除完了。……いや、まだやったわ。でっかい生ゴミ残ってたやん。放っといたらまた虫が湧いてくるから、焼却処分しとかなアカンな」
真っ直ぐ前を向き、にこりともせず誰かへ聞かせるように言い切ると、金色の障壁を蹴って鈴音は西へ跳ぶ。
これも恐慌状態を作り出す演出である。
走ればすぐの所を、跳ぶ事で僅かな猶予を作った。『あれは何だ』『今からあの化け物が来るのか』と映像を見ていた者達は考えるだろう。けれど具体策は何一つ思い浮かばず現場は混乱する。その程度の猶予だ。
「ん?あれが国境かな。うわー、こっちもウジャウジャ居るわ」
地上部隊の人形は火球に呑まれなかった為、障壁にゾンビ宜しく群がってこの国の兵士達の魔法を食らっている。しかし塔の力で強化された魔法とは違うからか、兵士達の魔法では一体倒すのにも随分と時間が掛かっているようだった。
「火の玉ポイっと……はマズいか。後ろ森やなあれ。ほんならー……」
呟いた鈴音が手を下へ向けると、障壁に群がる人形達が見る見る氷に覆われて行く。
全ての人形を閉じ込めた所で障壁から飛び降り、鈴音は氷を殴りつけた。
途端に氷全体が光り、爆ぜるように霧散する。
「はい、一網打尽。いや捕まえてないからちょっと意味がちゃうか」
いきなり敵が全滅した事に驚いた兵士達が装甲車から顔を出しているが、説明は塔の白ローブ達に任せる事にして鈴音は緩衝地帯の森へ走り去った。
森の出口に差し掛かると、平原の向こうに街並みが見える。
遠くに塔らしき物もあるので、ここがブランシュ達の手を煩わせている敵国だろう。
「んー、まさか走っとる内に西から東へ方向転換してました、なんて事は無い思うけど、コレっちゅう確証が欲しいなぁ」
間違えて別の国を攻撃したらとんでもない事になる。目印代わりにあの人形でも出て来てくれないか、と鈴音が唸っていると、声が聞こえたかのように塔方面から人形を乗せた船が飛んで来た。
国境を守るように100艘ばかりが浮いている。
「この国は壁で守らへんのか……。あ、その分の魔法を全部人形と船に注ぎ込んでるんかな?きっとそうや。そうやなかったら、あの数はおかしいもんなー」
うんうん、と自説に納得した鈴音は、森の出口から跳躍し船に乗った。
何が起きたのか敵が理解する前に船を蹴り飛ばし、霧散する前の一瞬を使って隣の船へと跳び移る。
10艘程消滅させると流石に敵も気付いたようで、謎の光を囲もうと船を動かし始めた。
勿論、そんな事をしても何の意味も無い。
結局、1分と持たず100艘の船と人形達は全て消え去った。
「さて。取り敢えずお約束の雷かまして度肝抜いといて、その間に城探そかな」
国境に降り立った鈴音は街を眺め、遥か遠くに霞む塔へ狙いを定める。
「塔からここまでを半径にして、丸っと囲んだ空にビカッとやっといたらええか」
国の大きさが分からないので大雑把に範囲を決め、ストーカー天狗を観念させる為に見せたものと同じく、網のように空を埋め尽くす雷をイメージした。
「それでは、張り切ってどうぞ!」
鈴音が笑いながらパチンと指を鳴らすと、轟音と共に数え切れない稲妻が空を切り裂く。
晴れた昼の空とはいえその迫力は凄まじく、国中で悲鳴が上がった。
その隙に魂の光を消し街へ走った鈴音は、大運動会中の猫宜しく道を駆け抜け建物を跳び、視界に入った豪華な宮殿を目指してまっしぐら。
塀を跳び越え庭を走り、宮殿の壁にへばり付くと耳を澄ませた。
宮殿内の人々も大層驚き恐怖しているようだが、やはり位の高い人物に仕えているだけあって街中程のパニックではない。
「んんー?王様どこ?この中に居るんかな?もしかしてこれ、別の貴族の家かな?」
主を心配するような声が聞こえて来ないぞ、と首を傾げた時、漸く『陛下は?』という声が聞こえた。
「お、やっぱり王様の家やった。けど、あんまり心配されてへんなぁ?もしかして人望無いんやろか」
声や人の気配から国王が居そうな場所に当たりを付け、足音を立てずに素早く移動する。
敷地のど真ん中、空を除けば外敵の侵入経路はほぼ無いだろう建物部分に辿り着くと、中から偉そうな声が聞こえてきた。
「あの忌々しい女の新たな魔法か?何だあの意思を持って動く光は!雷もあれの仕業か!」
「確かに異常な魔力は感じ取れましたが、あの女魔法使いの物とは多少違っておりますし、雷を操れる魔法など聞いた事も……」
どうやら国王とその部下の会話らしい。
あの女だとか女魔法使いだとか言われているのはブランシュだろう。
「あれ?元気やな?取り敢えずもう一発かましとこ」
鈴音が神力を解放し再び雷で空を埋め尽くした瞬間、室内から火球が飛んで来た。
「おっと?」
反射的に避けながら目の前の壁に空いた穴へ視線をやると、高そうな身なりの40代前半の男が、こちらへ向け手を突き出しているのが見える。
「油虫めが!!」
そう吠えながら連続して火球を撃って来た。
「アブラムシ……て、黒い弾丸まさかのG!?ええぇー、それは嫌やわー。そこは普通、鼠が居るな、とか言うとこやんか。ほんで、鼠ちゃいます猫です、までがお約束違うん。もしかしてこの世界、鼠おらへんのかなぁ」
顎に手をやり首を傾げ、独り言を呟きながら全ての火球を避ける鈴音。ふと我に返って背後を見ると、庭及び別の棟が火事だ。
「うわ、消火出来る人居るん?」
そんな風に目を丸くして余所見していても、飛んで来る攻撃は猫の耳で音を聞き分けきっちり躱した。
「何だこの女は!化け物か!」
悲鳴のような声を上げた高そうな身なりの男が火球を撃ち、シンプルな黒ローブ姿の男が黙々と風の刃を飛ばして来る。
「火ぃと風……、そうか、人形と船に力を与えとるんはアンタらやな?使用人が王様を心配せぇへんのは、この国で一二を争う強さやからか、成る程成る程。つまり、アンタらを絶望させたら全部丸く収まるいう事やんね」
横に大きく跳んで集中砲火状態から逃れ、鈴音は悪い笑みを浮かべた。
それが気に障ったらしく、高そうな身なりの恐らく国王と思われる男は、鈴音を丸ごと焼き尽くせる大きさの火球を作り出す。
「油虫が口を利くな!!虫酸が走る!!」
「陛下!その大きさは危険です!部屋が吹き飛びます!!」
やはり国王だった男は部下の制止も聞かず、鈴音目掛けて大きさも威力も増した火球を放った。
先程までと違い、その場から動かない鈴音に火球は直撃。
当然国王は勝利を確信し、部下は大き過ぎる力で吹き飛ぶ部屋の衝撃から身を守る為に構える。
しかし2秒経ち3秒経っても部屋は吹き飛ばない。その代わりに火球がどんどん縮んで行く。
縮む炎の中から姿を現した鈴音は、まるで今思い出した、と言わんばかりの顔を作って言った。
「ごめぇーん、言い忘れててんけど、火ぃ効かへんねん、私」
右手の中に、国王が放った火球を凝縮して見せつけながら、それはそれは楽しげに笑う。
その笑顔が国王をパニックに陥れた。
「あの火球を食らって何故生きている?火傷ひとつ無いのか?何だ、何だ何だ何だこの女!!」
喚き散らした国王は、今更距離を取って近衛兵を盾にする。
「何なんやろねぇー?何や解らんけどヤバい奴やいうんは解るよね?そんな危険人物にアホほど攻撃してしもた事も、解るよねぇー?」
目を爛々とさせながら笑い、左手に小型の雷球を拵えた鈴音は国王の後ろを狙って放り投げ、玉座を破壊した。




