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俺は十年間後悔した  作者: 宮原叶映
6/11

迷子の子羊と優しい人たち

迷える子羊は、優しい人たちに出会った。

 今日の綾は学校に行かないと言った。そのため近所のおばちゃんとみさきねぇが、綾の面倒を見に来てくれるはずだった。

 

「あれ?私、寝てたっけ? 」

 

 綾は、リビングのソファーで目を覚ました。目の前にある机には、計算ドリルの問題をやりかけていて、少し離れたところにあるテレビはアニメの再放送がかかっていた。

 それに綾は違和感を覚えた。寝る前にはテレビはついてなくて、政流が満流に教えてもらいながら()()()()計算ドリルの宿題をしていた。目の前にあるのは、明らかに()()()の計算ドリルだった。見覚えのある自分ものなのに、記憶の中でまだこのページまで習ってないはずでおかしいと思った。

 家の中にはテレビの音だけで、綾以外誰もいない。

 

「みんな、どこに行ったの?私をおいて公園に行ったの? 」

  

 


 それから数十分後、おばちゃんが我が家にやってきた。

 

ピンポーン

 

 呼び鈴を鳴らすと、いつも綾が返事をして玄関の鍵を開けて出迎えてくれるのに今日はそれが無く、鍵がしまっていなかった。おばちゃんは、何か嫌な予感がしても冷静さを忘れないように、深呼吸をして家の中に入った。

 

「綾ちゃん、おばちゃんがきたで! 」

 

 おばちゃんが、玄関で声をかけても家の中はシーンとしていた。リビングに向かうとテレビの音が聞こえた。

 

「綾ちゃん、テレビ見てて気が付かなかったの? 」

 

 と、リビングのドア付近で言っても返事が返ってこなかった。ドアを開けるとそこには誰もいなかった。ただアニメの再放送で、一番いいところがかかっているだけだった。

 おばちゃんは、家の中を一部屋ごとに確認して、最後に玄関に戻ると綾の靴がないことに気がついた。やっとこの家に自分以外誰もいないことを確信した。

 

「綾ちゃん! 」

 

 

 一方、綾は公園についていた。

 

「すみません。三歳と六歳と中学生ぐらいの男の子知りませんか? 」

 

 公園に来ている人に、俺たちを見てないかと聞き込みをしている姿を二人の人物が目撃していた。

 

「あれ?綾ちゃん、じゃない? 」

 

「本当やな」

 

「お前は黙って、ついて来い」

 

「ヘーイ」

 

 その二人は、八百屋のおっちゃんとその息子だ。店が休みで、散歩していた。

 

「綾ちゃん。どうしたん、なんかあったんか? 」

 

「おじちゃんと……」

 

 綾が警戒をしながら言うと、おじちゃんは気がついて明るい声で紹介した。


「あぁ、せがれの陸都だ」

 

()()()()()、いつもおじちゃんにお世話になっている綾です」

 

()()()()()、俺は岳の兄の陸都(りくと)。よろしくな! 」

 

 陸都はニカッと笑って手を伸ばし握手を求めると、綾はビクッと怯えた。


「コイツはな、フラフラとしててな。やっと、落ち着いて戻ってきたんだ」

 

「そう……なんだ」

 

「さっきも聞きたんやけど、なんかあったんか? 」


「起きたら、みんなが家にいなくて。優太が公園に行きたがっていたから、もしかしたら、みんなで行ったのかなって。探してたの。でもいなくて、ここにいる人たちは知らないって」

 

「そうか、心配やな。綾ちゃん大丈夫やで、おじちゃんに任せな」

 

「うん」

 

 おじちゃんは、二人から離れてどこかに電話をかけた。

 

「あぁ〜もしもし、ワシや。そうそう、〜んで……」

 


 綾と陸都は、日陰にあるベンチに座っていた。

 

「綾ちゃん、これあげるわ」

 

 陸都は、綾に冷たいペットボトルに入ったカルピスを渡した。

 

「えっ、でも悪いですよ」

 

「初対面で、飲み物渡されたらビビるか。ごめんな」

 

 陸都は、やらかしたと笑いながら頭をかいた。

 

「綾ちゃん、これ好きやろ。遠慮せずに飲みな」

 

「何で、私がこれを好きなの知ってるんですか? 」

 

「あっ……。それはな、親父に聞いたんよ。さっき、コンビニで何本か飲みもの買っててな。綾ちゃん見つけて、暑いからおそそわけしようかって思って親父に教えてもらったんや」

 

「そうなんですね 」

 

 綾がさっきから陸都に対して敬語なのは、彼の頭が金髪で見た目もチャラチャラしてるので怖がっていたからだ。

 

「綾ちゃん、俺のこと怖いん? 」

 

「えっと……」

 

「ハハッ、正直でええんよ」

 

 綾は、コクっと頷いた。

 

「そうやろう。俺かて、こんな見た目なのがいきなり来て、好きな飲みもん渡して来たらビビる」

 

「ごめんなさい」

 

「謝らんでええで」

 

 陸都は、ヘラっと笑った。見た目と違い、中身は優しい性格なのかもしれない。

 

「暑いけん。遠慮せんと飲み」

 

「はい」

 

 綾は、気持ちよくもらった飲み物を飲んだ。それをニコニコしながら、陸都は眺めいた。綾にとっては初めてなことなのに、この姿を彼にとって変わらない光景だった。

 

「綾ちゃん。みんながおらんくてびっくりしたな。でも大丈夫やで。俺の親父が電話して探してくれてん」

 

「うん」

 


 陸都は不安そうにしている綾を励まし、八百屋のおじちゃんが戻ってくるのを待った。少ししてからおじちゃんは電話が終わったのか、綾たちの方にやって来た。

 

「綾ちゃん、政流たちは無事や。良かったな」

 

「うん! 」


「陸都、こっち来い」

  

「はーいよ」

 

「綾ちゃん、ちょっとそこで待ってな」

 

「うん」

 

 二人は、ベンチに座る綾をチラッと見ながら小声で話をした。

 

「誰にかけたん? 」 

 

「綾ちゃんたちの隣のおばはんや。その人が、面倒を見るはずやったんが、タイミングがズレてな。その間に、綾ちゃんが寝てしもうて、起きてここまで来たみたいなんや」

 

「なるほどな。政流たちには、連絡したんか? 」

 

「さしたわ。そのおばはんが、パニックになりかけとったけど。なんとかなった」

 

「これから、どうすん? 」

 

「こっから近いけん。綾ちゃんを家に送る」

 

「分かった。親父は先に帰っとって。俺が、綾ちゃん送って面倒をみてやる」

 

「それは大丈夫なんか?お前は、()()()やろ」

 

「それは今更や。どうせ、おばちゃんとみさきが来るやろ。大丈夫やって」


「お前は一度決めたら、テコでも動かん。うまいこと言ってき」

 

「了解」

 

 二人は作戦会議を終えると、綾の元に戻った。

 

「親父は用事できたから帰らなあかんのや。綾ちゃん、俺が家に送ってるけん。政流たちが帰ってくるまでおるわ」

 

「綾ちゃん、ごめんな」

 

「ううん。大丈夫……」

 

 綾は、まだ少し陸都を警戒していた。不安そうにする彼女に彼は大丈夫と頭を撫でた。

 

「ちょっと、遠回りして帰ろ。俺、久しぶりにこっちに戻ってきたけん。この辺、ぶらぶらしたいんや」

 

 綾は、元々知り合いの八百屋のおじちゃんが家に帰ったので、どう会話をしようと悩んだ。

 

「綾ちゃん、大丈夫や。俺は何もせん。ただな、綾ちゃんと少しずつでもええからおしゃべりしたいんや」

 

「うん」  

 

「今みたいに、うんって言うてくれるだけもええ。相槌うつだけでもええんよ」

 

「うん」

 

 二人は公園から出て、陸都の言った通りに遠回りして俺たちの家に向かった。陸都は、事故のことを聞いていたからその道を使わないようにして、さり気なく車道側を歩いた。

 

「綾ちゃん、今何年生や? 」

 

「小六」

 

「小六か、来年中学生になるんやな」

 

「うん」

 

「今より勉強難しいくなるで」

 

「うん、政ちゃんたちの宿題難しいそうやった」

 

「満流に、勉強教えてもらい。あの子は、賢いからな」

 

「陸都さん」

 

「俺の名前呼んでくれたん!ありがとう!じゃなくて、どうしたん? 」

 

「何で、満ちゃんのこと知ってるの? 」

 

「あっ、それはな。親父からよう話し聞いたけんな 」

 

 綾は不思議に思ったけど、聞かなかった。

 

「陸都さんは、旅をしてたんでのですか? 」

 

「旅? 」

 

「フラフラしてたって、おじちゃん言ってたから」

 

「そういうことか。まぁ、旅って言ったら旅や。北海道から沖縄まで職を転々としとったからな」

 

「すごい! 」

 

「そうか? 」

 

 陸都は、嬉しそうに頭をかいた。

 

「自分のしたいことって、なんやろと考えてな。いろんなことやってもまだ分からん」

 

「どんな職業してたのですか? 」

 

「パン屋、ピザ屋、居酒屋、宅配業、雑貨屋、文房具屋、コンビニのアルバイトとかかな。まだあった気がするんやけど。今、覚えているんはそれぐらいかな」

 

 陸都は指を下りながら、今までやった職業を数えた。


「たくさんしてるんですね」

 

「まぁな。俺は、長男やから店継がなあかん。でも、なんかそれが嫌で農業高校卒業して家飛び出して、社会勉強して踏ん切りがついたら戻って来ようって思っててな」

 

「戻ってきたってことは、何か見つけたの? 」

 

「見つけたよ。俺が生まれたこの地でな、店やるんや。仕事や学校で疲れた人の癒やしの場ってものを作りたくてな。各地を転々として、バイト募集してない昔ながらの喫茶店に惹かれて働かせてくださいって頼んだんや」

 

「思いっきりがすごいですね」

 

「そうやろう。そこのオーナーさんが優しくてな。じゃあ、明日から来てくださいって言ってくれたんよ」

 

「いい人だったんですね」

 

「そうやで。ちょうどその時は、気持ち的に大変やったみたいやな」

 

「それって、どういうこと? 」

 

「オーナーのお孫さんが亡くなって、どんよりしててな。俺はそのお孫さんと同い年やった。俺を代わりにしようとかじゃなくてな。なんにも知らん人間がおってくれたほうが変に気を使わんですむんやからな」

 

「うん」

 

 陸都は、その当時のことを思い出したのか遠くの方を見ていた。

 

「でも、楽しかったし。たくさん勉強もなって良かったで」

 

「うん」

 

 二人は、黙って微妙な上りと下りのアスファルトの坂になっている住宅街を歩いた。

 

「綾ちゃん、そこの金髪引くから離れて! 」


 突然、女性の声が響いた。

 

「えっ? 」 

 

「おう、みさき。久しぶりやな」

 

 二人は、お互いの顔を見なくても声で誰なのか分かったようだ。

 

「その声、陸都? 」

 

「そうや」


「引く」

 

「なんでや! 」

 

 振り向いた陸都の目に飛び込んだのは、少し離れたところから猛スピードを出して自転車で突っ込んでくるみさきねえだった。

 

「みさき、危ねえだろ」

 

「ふん! 」

 

 みさきは陸都のに当たる寸前で自転車を止めて、鼻で笑った。

 

「お前は変わんねぇな」 

 

「陸都こそ、金髪以外は変わってないね」

 

「みさきちゃん」

 

「綾ちゃん、こんにちは」

 

「こんにちは」

 

「どうして、金髪とこんなところにいるの? 」

 

「おい、金髪はないだろ」

 

 みさきねえは、ワザと無視をする。

 

「それはかくかくしかじかで」

 

 綾は今までのことを話した。

 

「なるほど。理解した。まぁ、陸都のお父さんが用事できたならしょうがないね。私が、送っててあげるわ」

 

「はぁ?勝手に決めんな」

 

「だって、傍から見たら女子児童をチャラい金髪が付回して見える」

 

「俺は、フェミニストじゃないからな」

 

「はいはい」

 

「みさきちゃんと陸都さんって仲良しだね」

 

「「仲良しなわけない」」

 

「息ぴったりだね」

 

「「そんなわけないから」」

 

「そう?」

 

「「マネすんな」」

 

「プッ、フフフ」

 

「アハハ」

 

 綾が笑ったことで、二人も何だかおかしくなって笑った。

 

「まぁ、とりあえず綾ちゃん家に行こうぜ」

 

「そうやね」

 

「うん」

 

 また、三人は歩き出した。太陽の光で照りつく道路を。

 

「二人って昔からの知り合いやったの? 」

 

「幼馴染って、言ったらええんか? 」

 

「聞くな」

 

「照れるな」

 

「ちょっ、車輪を俺の足にゼロ距離で近づけてくるのやめろ。マジ恐いし、シャレにならないことになるから。分かったって、ごめんって」

 

 みさきねえは、表情を見せないように下を向いたかと思えば、陸都に狙いを定めて攻撃体制に入った。しかし彼の反応がお気に召したようで、作戦を中止した。

 

「まあ、俺はここら辺の子たちの兄貴的存在やったからな。で、みさきが姉貴的存在で、困っている子や悪さする子を助けたり懲らしめたりしたな」

 

 陸都は懐かしそうに笑った。

 

「みさきちゃん、そうなの? 」

 

「まぁ、だいたい合ってるわ」

 

「みさきはショタコンやから。今でも、チビらに優しいんじゃん? 」

 

「黙れ、ロリコン」

 

「ロリ……フェミニストじゃないからな」

 

「なぜ、言い直した? 」

 

「なんとなくだから、二重でひこうとするな! 」

 

「まぁ、いいじゃん」

 

「アホか、いいことねえ! 」

  

 綾は置いてけぼりになり、二人は漫才をしているかのようだった。

 

「綾ちゃん、家帰ったら勉強見てあげるね」

 

「うん。ありがとう」

 

 綾は、前からみさきに勉強を見てもらっていたので、記憶と何の違和感もない。

 

「俺もみてやるよ。これでも俺は頭いいだぞ」

 

「偉そうにするな」

 

「なんでだよ」

 

「別に」

 

 言い合ってる二人は、とても楽しそうだ。陸都のズボンのポッケが振動した。そこからスマホを取り出して、ディスプレイに表示された文字を見てため息をついた。

 

「あっ、ちょっとさっき言ってくれ。電話だ」

 

「分かった。綾ちゃん、あたしと行こう」

 

「うん」

 

 綾たちを先に行かして、陸都は道の端によって電話に出た。

 

「もしもし、岳どうした? 」

 

「兄ちゃん、今どころら辺にいるん? 」

 

「ちっこい橋を渡る前の数メートル前のとこのなんとかなんとか集会所の軒下」

 

「めっちゃ細かいようでいい加減な感じで教えてくれてありがとう」

 

「いえいえ、じゃあ切るな」

 

「待って。本題まだ言ってないから」

 

「ハハッ、そうだったな。で、何? 」

 

「綾ちゃん家の近所……隣のおばちゃんが、今どの辺って(うち)に電話かけて来てな。あまりにも遅いから心配してて」

 

「あぁ、遠回りしてるんや。なるべく、あそこを通らしくたくてな。まぁ、行きのときは綾ちゃんは通ったかもだけどな」

 

「そうだね」

 

「あっ、みさきもいるから」

 

「何度ひかれたの? 」

 

「何度ひかれたかな。なぁ、ひかれた前提ってやめろ」

 

「ひかれてないの?名物だったじゃん」

 

「ヒデぇ」

 

 昔から、陸都とみさきは年が近いからなのか性格がある意味似ているからなのか、ただみさきが面白ろがっているのか、彼女が彼をひく真似をするっというのがよく目撃されていた。そして、一種のこの辺の名物になっていたのである。

 

「そろそろ、電話切るぞ。みさきたちと離れて追いつくのが大変になる距離になってきたからな」

 

「はーい」

 

 電話を切ると、陸都は二人の元へと気配を消しながらかけていった。

 

 

 

「ん? 」

 

「みさきちゃん、立ち止まってどうしたの?」

 

「いや、なんか気配を感じてな」

 

「おっ、わっちょっと、バックはないって」

 

「誰が言った、金髪野郎? 」

 

「乙女なんだだから、口調直せ。嫁の貰い手なくな……ごめん、ごめんってか後ろ見ずに、的確に攻撃してこようとすんな。逆にすごいわ」

 

 みさきねえは、本当に後ろを見ずに陸都を自転車を自在にバックして攻撃しようとした。そして、振り返りギロッと陸都を睨む。

 その顔は、「余計なことを言うな。次言ったらどうなるか分かってんだろうな? 」と言っている。顔というよりは、その鋭い二つの目が言っているのだ。

 

「怯えてんの?褒めてんの?どっちや? 」

 

「素直な感想」

  

 

「二人ともどうしたの? 」

 

 少し彼らより前に行っていた綾は、異変に気がついて振り返って聞いた。

 

「「なんもないで」」

 

「そうなの? 」

 

「「そうそう」」

 

「ふーん」

 

 綾は興味がなくなったのか、また前を向いて歩き出した。二人は慌てて彼女に追いつこうと急ぎ足になった。


「あっ、家着いたから自転車置いてくるわ。ちょっと、待ってて」

 

「おう! 」

 

 

 みさきねえは、自分の家に自転車を置きに行った。家の外で彼女を待っていると、おばちゃんを連れてみさきねえが戻ってきた。

 

「おばちゃんだ!こんにちは」

 

「綾ちゃん、こんにちは」

 

「おばさん、久しぶりやな」

 

「あら陸都ちゃん、久しぶりね。元気にしとった? 」

 

「うん、元気やで」

 

「こっちに、戻ったんやろ? 」

 

「そうそう、ここら辺で店やろかって思ってんや」

 

「すごいわね。出来たら通ってあげるね」

 

「何屋にするって言ってねぇのに、気が早いわ」

 

「あら!そうねぇ」

 

「二人とも、暑いから綾ちゃんの家に早く行きたんだが」

 

「あっ、ごめんごめん」

 

 二人は、みさきねえにキレられると恐れ急いで家に入った。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

「うん、やっぱりみんないないね」

 

「そうだな。みんな、出かけてんだよ」

 

「そうなの? 」

 

「みんな、用事があっていないの」

 

「そうなの? 」

 

「みんな、綾ちゃんが気持ちよく寝てたから黙って行っちゃったの」

 

「そうなの? 」

 

「おばちゃんね。満流ちゃんたちに、頼まれたのよ。用事が出来て家を出ないといけないけど。綾ちゃんが寝てて、起こす可愛そうだから家に来て見てて欲しいって」

 

「そうなの? 」

 

「そうそう。ここに来て、綾ちゃんおるかなって思ってたら、おらんくてびっくりしたんよ。心配したんよ」

 

「みんな、私を心配してくれたの? 」

 

「「「そうやで」」」

 

「分かった! 」

 

 綾はみんなの言葉に納得したようで、これ以上何も聞かなかった。

 

「綾ちゃん、冷蔵庫から飲み物出していい?あたし、のどが渇いてな」

 

「うん、いいよ。冷蔵庫の中に何があるっけ? 」

 

 みさきねえは、冷蔵庫の中を開けて中身を確認した。

 

「水と麦茶とカルピスとサイダーとリンゴ酢とぶどうジュースと牛乳とオレンジジュースと……」

 

「みさき、ストップ。いくら家の人が聞いたからって、冷蔵庫の中身を言うな」


「まぁ、いいじゃん。減るもんじゃないし」

 

「いや、飲みもんなら飲んだら減るだろ」

 

「そっか」

 

「俺は、リンゴ酢」 


「ちゃっかり、自分の言ってるじゃん」

 

「綾ちゃん、いい? 」

 

「うん。それ私が作ったよ」

 

「そうなん? 」

 

「そうだよ。みさきちゃん、飲んだことあるよね? 」

 

「あるわ。おしかったよ」

 

「陸都ちゃん、リンゴ酢好きよね」

 

「うん。あれはうまいに決まってる。俺も自家製してるから飲み比べてぇのよ」

 

「なるほどね」

 

 陸都はリンゴ酢、みさきねえはぶどうジュース、おばちゃんは麦茶を飲むことになった。

 

「綾ちゃん、美味しいよ」

 

「本当? 」

 

「本当に本当」

 

「綾ちゃん、みんなが帰ってくるまでおるからね」

 

「うん、ありがとう」

 

 三人は俺たちが帰ってくるまで、綾の勉強をみてあげたりテレビを見ておしゃべりをしたりと時間を過ごした。

 

 

「ただいま! 」

 

「おかえり! 」

 

 綾は、俺たちを玄関で迎えてくれた。

 

「綾さん、寝ているときに黙って行ってしまってすみません」

 

「大丈夫だよ。大事な用事だったんでしょ。それに、おばちゃんが来てくれるはずだったのに、私が勝手な行動をしてしまったのが悪いもん」

 

「まぁ、これはお互い様ってことにしような」

 

 満流が答えれずにいると、ひょこっと綾の後ろから現れた陸都が話を終わらした。

 

「そうだ。俺たちは、手洗いうがいをしにいこう」

 

「はい」

 

 俺たちは、手洗いをしに洗面所に向かった。

 

「満流、今日のことは気にするな」

 

「ありがとう、政流くん」

 

「そうだぞ、満流」

 

「あっ、陸都兄さん」

 

「陸都にい、ありがとう」

 

「俺はなんもしてない。ただ、おしゃべりとリンゴ酢をもらっただけ」

 

「それ、美味しいよな。綾が作ったんだぞ」

 

「聞いた聞いた」

 

「陸都兄さん、ちょっと耳をこちらに傾けてくれませんか? 」

 

「いいよ」

 

 陸都は、政流たちよりも背が高い。彼は、満流が耳打ちをしやすいようにかかんでやる。

 

「綾さんのために嘘をつかせてすみません。もう何度も会っているのに」

 

「満流、気にするな。俺たちは、大丈夫や」

 

「でも」

 

「お前はこのことで謝るの禁止」

 

「分かりましたって、えっ、ちょっと頭撫でないでください」

 

 陸都は、いつやらの政流のように満流の頭をワシャと撫でた。

 

「綾ちゃんが、今日みたいになる時もこれからあると思うけど。その時も俺たちは今日と同じことをするから安心しな」

 

「分かりました」

 

 陸都の予言どおりに、綾が俺たちを求め公園に行くことが何度もあった。その度に、彼らは救ってくれた。感謝してもしきれない。

迷える子羊は優しい人たちに出会って幸せです。

読んでいただきありがとうございます。

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