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俺は十年間後悔した  作者: 宮原叶映
4/11

協力者

綾の俺たちの一番の協力者は―

 綾が入院して退院するまで、病院に協力してもらいながらなんとかその日その日を乗り越えた。

 

「優、公園に連れていけなくてごめんね」

 

 毎日この言葉に、俺は立ち向かった。入院期間は、病院以外にも近所に住むおっちゃん、おばちゃん、みさきねえ親子に、八百屋の(たけ)にいたちも協力して俺たちを支えてくれた。俺たちが学校や保育所に行っている間に、交代で見舞いに来てくれた。

 

「今日ね、(たけ)ちゃんが見舞いに来てくれたの。私が怪我をして、入院したって聞いてびっくりしたって」

 

「そうですよ。僕たちもびっくりしてるんですから」

 

「だよね。それとね、岳ちゃんが良いのが入ったって、ぶどうくれたの。みんなで食べよう」

 

「綾、ぶどう好きだから良かったな! 」

 

「うん! 」

 

 また次の日になって、何度も見舞いに来てくれてる人たちが、綾にはこの日初めて来てくれたと変換される。みんな、残らないものを考えて、見舞いの品を持って来てくれる。残りそうなものは、俺たちが持って帰えるので綾の記憶に影響は無かった。

 

「今日、学校の先生が来てくれたの」

 

「そうなんだ」

 

「入院している間、勉強が遅れるから出来るだけ教えにくるって。今日、教えてもらったところをすぐにテストするの。先生が帰ったら復習しようと思ったのに」

 

 綾の学校の先生も協力者の一人だ。綾の記憶がリセットされるから、教えたところをすぐにテストして成績をつけれるようにした。

 

 綾の笑顔を見ると、俺の胸が苦しくなった。みんなが綾のために協力してくれるって、助かるし嬉しいのに俺はそれが嫌だった。惨めにも思えた。

 綾にとったら、その日どんなに楽しいことも、嬉しいことも、悲しいことも、辛かったことも、全部明日になればリセットされるんだ。

 その当時の俺はガキで、分からないこともあったけど。大人たちには分からないことが分かっている。ガキな俺は、自分以外のことを考えれなかった。俺と別のことで綾に対して後悔して苦しむ人がいるなんて、想像つかなかった。

 綾はたくさんの人に協力をしてもらっているなんて、知らないでその日を生きていた。言い方を悪くすれば、全員がグルで綾を騙している。

 それは、綾がまだ入院している間はまだ楽だった。綾の記憶の中では、休日で家事をして、俺が公園に連れて行けとせがむのはこの家での日常を過ごしている。そして怪我をして入院しているから、学校に行かないと成立している。

 

 現実では違う。必ず明日が来る。休日もあれば平日で学校に通わないと行けなくなる。しかし、綾が学校に通うのにはそれなりのリスクがある。今はなんとか工夫をしながらの個別授業で、その日の勉強は追いついて来ている。

 綾の記憶の状態では、クラスメイト共に授業を受けて習ったところが、次の日になればリセットされる。その中にいると、自然と焦りが生まれる。

 授業中に綾が答えられるように何かしらすると綾のことを理解出来ない人に、「何、お前だけ特別扱いされてんだ」と言われいじめになるかもしれない。

 まだ子供の俺たちだけじゃ、どうすればいいのか分からない。病院や学校に相談し、協力してもらうしかない。出した答えは、俺がきっかけで記憶喪失になったことは言わずにそれ以外のことを伝える。

 

「綾さんは、次の日になれば記憶がリセットされて、前日の出来事をすべて忘れるんです」

 

「満ちゃん、嘘でしよ? 」

 

「本当です。綾さんは起きたときに不思議に思ったことはありませんか? 」

 

「ある」

 

 綾の瞳から、涙が流れた。

 

「これを見てください」

 

 満流が綾に渡したのは、ファイルに閉じられた日記だ。綾は、震える手で一枚一枚ページをめくる。どの日記にも、綾の筆跡で書かれていた。

 それは入院生活をしているときから、医者の指示で一枚の紙書いたのをファイリングしたもの。日記の日付けは全て同じ日で、冒頭は『怪我をして入院することになった。優太との約束破っちゃった』だった。そのことに、綾は驚き泣いた。

 その日記帳を見て、満流が言ってることが嘘でないことを無理矢理にでも理解をしているようだった。

 

「迷惑をかけてごめんね。私は大丈夫だから」

 

 と、毎日同じことを言っている綾の表情を忘れられない。

 

 

 綾は学校を日によって、元気に行ったり怖がって休んだりする。学校に行く前に、家で教室に向かわずに職員室に寄るように伝える。そう伝えた通りに綾はして、教員と一緒に別室で入院時のように授業をしないと学業を補えないからだ。給食や休み時間は、教室に行くかどうかは綾が決めることになった。

 学校に行きたくない日は、近所のおばちゃんたちに、協力してもらう。綾が家事をするのを手伝ったり、おばちゃんたちの家で綾を預かってもらったたりすることになった。


「おばちゃん、来てもらってごめんね」


「いいのいいの。家にいてもね、暇なのよ。こうやってね、若いこと話すとボケ防止になるんだから」


「おばちゃんは、若いよ? 」


「そう? 」


「うん、そうだよ」


「ありがとうね」


 綾とおばちゃんの相性はいいので、俺たちが帰ってくるのを二人は仲良く待っている。みさきねえは仕事が休みだったら、綾の勉強をみてくれている


 

 綾の日記には、このように綴られていることが多かった。

 

『優太の約束破っちゃった。公園に行けなくなった。悪いことしたな』

 

『学校や家族、おばちゃんたちに助けてもらっている。本当に感謝!!でも、迷惑をかけていると思う。何で忘れるんだろう? 』 

 

『友達と会うのが恐いな』

 

『記憶を忘れるのは誰のせいでもない。私なら、大丈夫』

 

 綾は、自分から言わないだけで苦しみ、なんとか立ち向かおうとしていた。俺は何も悪くない綾が苦しんでいるのが辛かった。むしろ悪いのは、あの時手を離し道路に飛び出した俺だ。それを助けてくれた綾に、神は酷いことをする。いや神ではなく、運命がしているのだと俺は思った。

 俺は、一番の協力者はその日の綾だと思う。彼女の協力なしでは、その日を進むことは出来ないのだろう。

読んでいただきありがとうございます。

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