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俺は十年間後悔した  作者: 宮原叶映
3/11

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謎テンションの政流が見れるかもしれません。

 その当時の俺が理解するには、のても難しいことだった。

 

「あやは、まいにち、おれがこうえんに、いきたいって、くりかえす? 」

 

「そうだ」

 

 一つ一つを区切りながら、何度も口に出して理解をしようとした。その度に、政流が肯定した。俺のまだ下手っぴな日本語でも、政流は自分も何か思うことがあるくせに付き合ってくれた。

 

「優太くん。綾さんの中では五歳の優太くんが十二歳の自分に公園に行きたいとずっと言っていて、連れて行こうと思うところで記憶が止まっています」

 

「それをずっと繰り返すんだ。この先ずっと……」

 

「あしたも、あさっても、そのつぎも? 」

 

「はい、ずっとです。でも何かのきっかけで、それは変わるかもしれません」

 

「ほんとう? 」

 

「絶対ってことではないかもしれません。このことはお医者さんが言っていていましたから」

 

 政流は、確かにそんなこと言っていた気がするなと考えていた。

 

「優太くんに公園に連れていけなくてごめんねって、綾さんが言うと思います。それを僕たちがどう返すのかが問題ですね」

 

「はい!満流、俺分かった! 」

 

 座布団がないのに、元気に手を挙げる政流。

 

「はい、政流くん」

 

「綾が今日みたいに、病室を抜け出さないようにしないといけないよな」

 

「確かにそうですね」

 

「綾が起きる前に、俺たちがスタンバイすればいいんじゃないか? 」

 

「でも、それでしたら学校があるときには出来ませんよ」

 

「そうだよな」

 

「後で、先生に相談してみましょう」

 

「はい! 」

 

 俺も政流に習って、手を挙げる。

 

「はい、優太くん」

 

「あやが、いってきたら、ふつうにまさるに、つれてってもらったらっていう」

 

「それいいな! 」

 

「あとは、きゅうにいっぱい、あめがふってきてたって」

 

 俺は、小さな頭で良い言い訳を考えた。

 

「おれも、ちょっとケガしたって」

 

「それは真実だからな」

 

「じゃあ、それらを綾さんに言いいましょう」

 

「うん」

 

 その当時のきょうだい間の口合わせは、綾を除いて孝太だけしなかった。まだ俺よりもチビで、のんびりのマイペースだったから。

 

「そろそろ行くぞ! 」

 

「そうですね 」

 

 満流は急いで、綾の入院に必要な着替えや暇つぶしになるように漫画や自由帳などを鞄に詰めた。

 

「忘れるところでした。たとえ、綾さんの中で昨日が繰り返されるなら、これらをずっと持っていかないといけませんね」

 

 その時の満流の顔を俺は、今でも忘れることができなかった。


「政流くん、家の鍵と自転車の鍵を持ちましたか? 」

 

「ちゃんと持ったぞ」

 

「はい。玄関に行って靴を履きましょう」

  

 そう言う満流に、ここは自分の特等席だと言わんばかりに孝太は抱っこされていた。

 玄関を出て鍵を閉めて、自転車の方へ行こうとすると、近所というよりお隣に住むおばちゃんとおっちゃん夫婦に声をかけられた。

 

「これから出かけるところか、間に合って良かった」 

 

「はい、そうですよ」

 

「綾ちゃんのお見舞いに行くの? 」

 

「そうだぞ!おばちゃん、何で分かるんだ? 」

 

「昨日のことは、ここら辺の奴ら全員知ってるぞ」

 

 おっちゃんは俺がいたから、気を使って事故とは言わなかった。満流は昨日のことがあっと言う間に広まったのを恐怖に感じた。

 

「おっちゃんたちはな、ずっと政流たちがこんなに小さい時からの付き合いだからな。心配してきたんだ」

 

「そうよ。政流ちゃんたちは、私たちの子供当然だからね」

 

「おっちゃんたちに出来る事があれば、遠慮せずに言えよ! 」

 

「おっちゃん、おばちゃん、ありがとう!でも、あとにしてくれ」

 

「「はぁっ?! 」」

 

「すみません。優太くんと孝太くんを綾さんに長く会えるように、保育所を早退して来たので」

 

 おっちゃんたちは、ある意味ブレない政流の性格を知ってるので、なるほどと理解をしてくれた。

 

「政流、悪いことしたな」

 

「分かってくれた? 」

 

「分かったよ」

 

「うん、じゃあ! 」

 

 政流の中では話が終わったという認識になって、俺を抱きあげて自転車の荷台の椅子に座らせる。

 

「優太、行くぞ! 」

 

「えっ? 」

 

 ガキの俺でも分かった。政流は、バカな宇宙人だということを。

 

「政流くん、ちょっと待ってください! 」

 

 満流が呼び止めた時には、すでに政流は全速力で自転車を漕いで行った。

 

「満流ちゃん、ごめんなさいね」

 

「大丈夫ですよ」

  

「政流を追いかけてやんな」

 

「はい、そうします」

 

 満流は、孝太を自転車の荷台の椅子に座らせる。

 

「満流ちゃん、病院から帰ったら家に来なさい」

 

「そうだな。その時に詳しく話してくれ」

 

「分かりました。でも、遅くなるかもしれませんよ」

 

「大丈夫よ! 」

 

「ありがとうございます」

 

 満流は二人にお礼を言うと、政流の後を追いかけた。

 

「政流くん、どこまで行ったのでしょうか」

 

 俺を乗せた政流の姿を、満流は見つけれなかった。すぐ近くにいると思っていたからだ。

 

 一方、政流と俺はコンビニいた。綾に何か差し入れしようと思って立ち寄った。しかし、政流がもつ現金で、買えるどうか分からなくなって困っていると、行きつけの八百屋の息子にあった。

 

(たけ)にい、ありがとう!これで、綾の好きなのいっぱい買えたよ」

 

「それぐらい、礼言わなくてええよ」


「そっか。でも、何かしてくれたらありがとうって言わないといけないぞ」

 

「そうだな。政流はいい子だ」

 

「そうだぞ」

 

 ニカッと笑う政流は、とても嬉しそうだった。


「まさる!みつるさがしてる! 」

 

「政流、また満流を置いて行ったのか? 」

 

「うん!! 」

 

「なぜ、そんなに元気に返事するんだよ」

 

 岳にいは、ハァ〜とため息をついた。きっと、満流を哀れんでいるのだろう。ちょうどその時、満流たちがやってきた。

 

「政流くん、ここにいたんですか? 」

 

「そうだぞ」

 

「岳さん、ありがとうございます」

 

「大したことしてないからな」

 

「政流くん、その袋は何ですか? 」

 

「綾に、おみやげ! 」

 

 袋の中には、四個のお菓子と二枚のクリアファイルが入っていた。それは、綾が好きなアニメがコンビニとコラボしている限定のグッズだった。政流がゲットしたグッズのキャラは全て綾が好きなものである。

 

「きっと、綾さんは喜んでくたさると思いますよ」

 

「そうだろう! 」

 

 政流はニカッと笑う。満流と岳にいは、政流が機嫌がいいのなら、これ以上言うことはないと判断した。

 

「満流、綾ちゃんは大丈夫なん? 」

 

「一応、大丈夫です」

 

「一応ね……。よし、言えるときでええから、兄貴の俺のところに来い。ついでに、野菜買ってくれ」

 

「岳にい、本音が出た! 」

 

「そうだ。最近暑すぎるから野菜がいい感じ育てってなくてな。野菜の値段が上がったから、こっちとしても買ってくれたら助かるんだよ」

 

「そうなんですね。でも、岳にいさんの所はスーパーよりも安いから助かってますよ」

 

「そう言ってくれると嬉しいわ。じゃあ、今度来たときにまけてやるよ!あっ、なんかお前らが好きそうなのあった気がする。ちょっと、待ってろよ。」


 岳にいが、かばんからゴソゴソと何かを取りだし、振り向くと俺たちは既にいなくなっていた。政流が空気を読まずに、静かに自転車を漕ぎ出したので、満流は慌てて後を追いかけたからだ。 


「後で覚えてろよ! 」

 

 その声は、俺たちに届かずに横を通った人をビビらしていた。

 

 

「政流くん、また勝手に行かないでください」

 

「ごめんなさい」

 

 病院の駐輪場に着くやいなや、政流は満流に怒られていた。二人は双子だから、ほぼ同じ顔に怒られる姿は何だか笑えくる。

 

「まさる、みつる、いこうよ! 」

 

「そうだな。行くぞー! 」

 

「政流くんは、声のボリュームを気を付けてくださいね」

 

「はーい! 」

 

 政流は相変わらずの謎テンションでも、満流の言うことはわりと聞く。

 

「優太くん、大丈夫ですからね」

 

「うん」

 

 不安そうにしている俺に気がついて、満流は励ましてくれた。

 孝太は、のんきにべったりと満流に引っ付いている。俺は、それに少し腹がたったけど、何も嫌がらせをしなかった。だって怒られるのは嫌やで、これでも俺は孝太のお兄ちゃんなんだから。

 

 俺たちは、病院の廊下を静かに歩いて綾の病室に行った。

 

「綾、ただいま! 」

 

「おかえり! 」

 

 綾はニコニコと俺たちを迎えてくれた。

 

「綾、これおみやげだ」

 

 政流は、綾の目線になっておみやげを突き出す。

 

「ありがとう! 」

 

 政流は思い立ったらすぐに行動する男で、家族が好きなものを見つけたらすぐに買ってしまう。大量買いをしそうになっても、今持っているお金で足りるかが分からない時が多く、満流や知り合いと店員を巻き込んで計算をして買っている。

 

「あっ!これ私の好きなキャラだ!政ちゃん覚えてたの? 」

 

「そうだぞ!俺の記憶力なめるなよ! 」

 

「その記憶力を勉強で発揮して欲しいのですが」

 

「そう言うなって! 」

 

 政流はバシバシと満流の背中を叩く。

 

「痛いです」

 

「ごめんな」

 

「いいですよ」」

 

「お菓子は、みんなで食べようね。優から選んでいいよ」

 

「なんで? 」

 

「私が公園に連れて行くって約束したのに、ケガして行けなくなっちゃったから。そのお詫びだよ」

  

「いいの? 」

 

 「そんなことしなくていい! 」って本当は言いたかった。でも、グッと堪えた。言ってしまったら、綾が失くなった記憶を気にするかもしれないから。

 

「優、いいよ」

 

 俺はチラッと、政流と満流を見ると頷いた。

 

「ありがとう!おれ、これにする! 」

 

「そのお菓子好きだよね」

 

「うん。だって、おいしいもん」

 

 俺が綾に酷いことをしたのに、彼女の記憶にはそれが無いのに、笑っている。ガキの俺でもズキッと心を痛めた。 

 

「あーちゃ! 」

 

「ん?? 」

 

 突然、普段喋らない孝太が綾を呼んだ。

 

(こう)、どうしたの? 」

 

「あーちゃ!! 」

 

 孝太は大好きな満流に抱っこされているのに、手を広げて綾を求めた。

 

「孝、おいで! 」

  

 綾は、とても嬉しそうだった。満流は、孝太を綾の方に近づけた。

 

「よしよし!孝太、いい子」

 

 俺にするみたいに、綾は孝太の頭を撫でる。俺は、何だかそれに対してムッとした。

 

「あや!おれにも! 」

 

「分かったよ。優太、おいで」

 

 綾は、よしよしと前と変わらずに頭を撫でてくれだ。本当はしてもらう資格がないのに、それでも俺は綾に頭を撫でられるのが好きだった。 

 

 病院には、綾の面会時間が終わるまでずっといた。綾とは、また明日と言って別れた。綾と同じ明日が送れないのに。

 



 すっかり暗くなった道をみんなで自転車に乗って帰った。家に着いてから、またすぐに家を出た。近所のおばちゃんとおっちゃんと約束したことがあったから。

 

ピンポーン 

 

「おばちゃん!俺たちが、来たぞ! 」

 

「はーい! 」

 

 家の奥からおばちゃんの声が聞こえた。すぐに家の扉がガラガラと開いた。


「こんばんは! 」

  

「いらっしゃい!待ってたわよ」

 

「すみません、遅くなってしまって」

 

「おう!政流たち来たんか! 」

 

 既に顔を真っ赤にしたおっちゃんも出迎えてくれた。

 

「おっちゃん、酒飲んだのか? 」

 

「おうよ!飲まねぇと出来ねぇ話の一つや二つあるだろう」

 

「あんた、何言ってんのよ。あんたが飲む必要ないでしょ」

 

「政流たちが飲めねぇから、おっちゃんが飲んでんだ」

 

「あんたは、ただお酒が好きで飲んででしょ」 

 

「おばちゃん、今日のご飯は何だ! 」

 

 政流は二人の会話を丸無視して、晩ごはんが何かを聞く。

 

「政流ちゃんは、お肉好きでしょ? 」

 

「好きだ!ってことは、すき焼き? 」

 

「ブッブー、違うわよ。政流ちゃんが、好きなお肉料理を言ってみたら答えがすぐに出るよ」

 

 政流はブツブツと自分の好きな肉料理を言いながら考えた。

 

「生姜焼き! 」

 

「正解! 」

 

「政流くん、何で分かったんですか? 」

 

「勘!匂いと音! 」

 

 確かに、部屋の奥から料理をしている音が聞こえた。

 

「政流ちゃんは、鼻と耳がいいのねぇ」   

 

「すごいだろ! 」

 

 部屋の奥から料理の音が消えて、こっちに向かってくる足音が聞こえた。

 

「もう、お母さんたちいつまで玄関にいるの? 」

 

「みさきねぇだ!こんばんは! 」

 

「政流、こんばんは」

 

 冷静に政流を対応する彼女は、この家のおっちゃんたちの一人娘のみさきだ。茶髪の髪をポニーテールで括っていて目つきが鋭いみさきは、聞いたところによると昔ヤンチャしていたらしい。

 

「あら! 」

 

「ハァ〜、出来たて食べたいんだったら早く来て」

 

「はいはい」

 

「あっ、政流たちは手洗いうがいしてからリビングにおいで」

 

「「「はーい! 」」」

 

 みさきねぇは、返事を聞くと歩いて行った。俺たちは言われた通りに手洗いうがいしてからリビングに行った。

 

「うまそう!! 」

 

「政流、うまそうじゃなくてうまいんだ」

 

 みさきねぇは、箸を政流に向ける。

 

「みさき姉さん、箸を人に向けてはだめですよ」

 

「ハッハ、そうだな」

 

 みさきねぇは、姉貴肌で昔から俺たちきょうだいを助けてくれている。

 

「はい、みんな手を合わせたな」

 

 みさきは、みんなを見て確認する。

 

「「「「「「いただきます」」」」」

 

 みさきねぇとおばちゃんが作ってくれた晩ごはんは、豚肉と玉ねぎの生姜焼きと味噌汁、キュウリとツナマヨサラダと白ご飯。

 

「みさき姉さん、美味しいです」

 

「そうか! 」

 

「みさき、今日は機嫌が良いな」 

 

「えっ、そうか? 」

 

「政流たちが久しぶりに来てくれたからか」

 

「そ、そうなことねぇし」

 

 みさきねぇは、分かりやすいぐらいに動揺し顔を真っ赤にしている。彼女にとって、俺たちに対して血のつながりのない近所に住む男の子なのに、ブラコンを発症した。

 

「みさきねぇ、俺たちが来て嬉しくないのか? 」

 

 政流は、眉を下げシュンとする。


「何で、そうなるんだよ。嬉しくなんかないぞ」

 

「それはどういうことですか? 」

 

「満流!お前、本当は分かってるだろ」

 

 満流は、ワザと分からないと首を傾げる。

 

「お前らが来て、嬉しいに決まってるだろ!! 」

 

 みさきねぇは顔を真っ赤にして言うと、勢いよく白ご飯を食べた。

 

「そんなにかきこむと、喉詰めるぞ」

 

「ゴホッ、ゲホッ」

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

 おっちゃんはみさきねぇに水を渡し、おばちゃんは背中をさすってやる。少してから、落ち着いたようだ。

 

 

 しばらくして、俺と孝太がお腹いっぱいになって寝ている頃のこと。

 

「綾ちゃん、命は大丈夫ってことか? 」

 

「はい、事故の後遺症で記憶喪失になりました」

 

「毎日、事故前のことを繰り返すんだって」

 

 政流は少しずつ綾のことを理解していってるため、少し他人事のように言った。

 

「例えばどうな感じに? 」

 

 それはと、詳しく綾の記憶喪失について話していったのだった。

 


 おっちゃんたちの家でご飯と綾の話を終えて、何度目かの帰宅をした。


「優太くん、おじさんたちが綾さんのことを理解してくれました。自分ばかりを責めずに、周りに思ってることを話したり助けてもらいながら頑張りましょう」

 

「うん、分かった」

 

 満流は、俺だけじゃなくて自分自身にも言い聞かしているようだった。

 

 翌日も綾は同じ日に取り残されて、その日を繰り返しながら生きていくのだ。

読んでいただき、ありがとうございます。

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