一度が何度でも
今年初のお話は、前回の続きで夏休みの旅行となっています。
新キャラ?も出ていますよ。
綾ちゃんは、努力家で自分の運命と、向き合っていきます。
綾は夏休みの旅行中に、記憶のことで混乱することもあったけど。また自分なりに工夫をこらしながら、自分と向き合っていた。
翌日のことだ。
「あれ、私寝てたっけ? 」
綾はいつもと同じ言葉を言って目をこすった。
「あれ、なんか手に付いてる」
綾の手には、髪ゴムから紐が繋がりその先には小さいメモ帳ほどの大きさのクリアケースに一枚の紙が入っていた。
『私は、記憶するのと、起きるのが苦手なだけ。何も気にすることない。大丈夫! 』
綾は自分の字で書かれた文章を何度も読んだ。いつやらの日記のようなことをしていても、綾にとっては初めてしてることと同じだ。
「綾ちゃん、おはよう」
みさき姉ちゃんは、綾のタイミングを見計らって声をかけた。最初から気付いてないと、装ってスマホを触っていたのをやめて、綾の方を見た。
「おはよう。みさきちゃん」
「うん! 」
「ここってどこ? 」
「ここはね、あたしのダチの陸都っていう金髪がいてね。その知り合いの旅館。その人が旅館を招待してくれたからって、無理やり連れてこられたんだ」
「そ、そうなんだね」
「うん。あっ、これ昨日撮った写真なんだけど見る? 」
「うん」
みさき姉は机の上に置いておいた日付け入りの写真を、布団のうえで座っている綾に渡した。
「私のと日付けが違うね」
「そうだね」
「海に行ってるってことは夏で、暑いから? 」
「そうだよ。ここからね、海が近いんだ。あとで、行ってみようか? 」
「うん。あっ、この人が陸都さん? 」
「そうそう。ガラ悪いでしょ」
「……」
「正直に言っていいよ。自他も認めてるから」
「そうなんだね」
「そうだよ」
「あれ? 」
「どうした? 」
「孝太が、満ちゃんじゃなくて私に引っ付いてる」
「あ〜、それね。最近は綾ちゃんにひっつき虫でしゃべるようにもなってきたの」
「そうなんだ」
「そうだよ」
「政ちゃんと満ちゃんと陸都さん、仲が良さそうだね」
「そうだね。二人は、何度か陸都に会ってるからね」
「そっか、そうだよね」
「責めてるわけじゃないからね」
「わかってるよ」
「うん」
「今日はこの日から次の日になってるってことだよね? 」
「そうだよ」
「私のせいで、たくさんみんなに迷惑をかけてるよね」
「そんなことないよ。確かに最初は戸惑うことや大変だったり辛かったりするけど。綾ちゃんが生きてて、元気にいてくれることがあたしたちは嬉しいんだ」
「本当? 」
「本当の本当」
「良かった。そう言ってくれると安心するよ」
「うん」
二人は俺たちが呼ぶまで何時間も話していた。綾は覚えていないけど、昨日自分から日付け入りの写真を起きたら見せてほしいと。そうしたら、少しずつ理解していけるはずだからと。
「陸都さん? 」
「はい」
「陸都さん? 」
「はい」
「みさき姉、これ何やってんだ? 」
「綾ちゃんは、元々人の顔と名前を一回しか会ったことある人でも覚えてるから、呼べば分かるかもって」
「綾さん、どうですか? 」
「陸都さん、ごめんなさい。分かりません」
「…フッ、そんなことだろうと分かってるから、そんな顔も謝るのもしなくていいからな」
「うん」
「だってさ、会うたびに初対面だったらどんなにイメージが悪いと思われても、次の日なればイメージがいいってなるかもだろう」
陸都は嬉しそうに話した。彼はいつもポジティブに物事を考えている。
「お気楽な奴だな。金髪」
「みさきは黙ってろよ」
「綾ちゃん、こっちにおいで。金髪になんかされるよ」
「えっ? 」
「何もしねぇよ。飯はおごってやるよ。みさき以外のな」
「ほらっやっぱりやるじゃん」
「面倒くさい」
陸都は「コイツはあぁ言えばこういうんだよな」とボソッと言っていた。
「お前ら、何食べたい? 」
「イカ焼き? 」
「政流、何で疑問系なん? 」
「イカ焼きってどんなの? 」
「イカを焼いたやつだ。食べれなかったら俺が食ってやるからな」
「ありがとう!陸都兄! 」
「政流くんは、お寿司のイカは食べれましたよね? 」
「うん! 」
「だったら、大丈夫かもな」
「イカ焼き食いたい人手を上げて!陸都が買ってきてくれるって! 」
「「「「はーい!」」」」
「ちょっと、待てや!みさきのは買わねえから、お前は手を下げろって」
「あっ、陸ちゃん私もいいかしら」
「えっ? 」
「咲春、突然現れて「私もいいかしら」じゃないからな。みんなびっくりしてるだろ」
「あら、ごめんなさいね。陸ちゃん、私もイカ焼きいいかしら? 」
「だめだ。まず、綾ちゃんに自己紹介しろよな」
「あっそうだったわね。綾ちゃん、私は咲春よ。咲ちゃんって呼んでくれたら嬉しいわ」
「咲ちゃん」
「はーい♡ 」
「怖くて、かっこいい人じゃないよね? 」
「えっ? 」
「咲ちゃん、ごめん。それ私のせいやわ」
みさき姉は二枚の写真を咲春に見せた。それは、マジモードでビーチポールをして男を見せてる姿と、お酒を飲んで赤い顔をして卓球をしているところだ。
「ちょっと、みさきちゃん何見せてくれてるのよ? 」
「ごめんなさい。ちゃんとした性別を教えてるためと、つい見せたくなってしまった……」
「最後のが本音の気がするけど。まぁ、いいわ。挽回のチャンスがいくらでもあるからね」
「咲ちゃん、ごめんね」
「綾ちゃんが謝ることなんてないのよ」
「うん」
「じゃあ、イカ焼き買ってくるからな」
「いってらぁ」
俺たちは、パラソルの下でのんびりと過ごしていた。少しすると、ナンパの男たちがやって来た。
「ねぇねぇお姉さんたち、俺らと海で遊ばない? 」
「結構です」
「そう言わずにさぁ」
「お前らの目は節穴か?子どもたちの目の前で何ぶちかましてんだ?アン? 」
「「す、すいませんでした」」
咲ちゃんは、俺たちに見えないようにナンパ男たちにガツンと言った。彼らか素早くその場をあとしても、俺たちは突然のことで少しぼう然としていた。
「はっ!咲ちゃん、ナイス! 」
「あら、今男出てた? 」
「うん、出たぞ! 」
「お前ら、どうした? 」
そこにイカ焼きを結局人数分を買って陸都が戻ってきた。
「さっき、ちょっとナンパされた」
「なるほど。俺、たぶんソイツらを……な」
「なって、何怖いんだけど」
「心配するな。足ひっかけて転ばしてただけ! 」
「陸都、笑顔で怖いこと言わないで」
「そうよ、陸ちゃん見た目も相まって怖いからね」
「大丈夫だ。背中に落書きしてないから」
「いや、そういことじゃなくて」
「陸都兄、イカ焼き食べたい! 」
「政流、そうだな。食べようか」
「おう! 」
政流は、テンションを上げてイカ焼きを食べていた。よほど美味しかったのか、うまいことを言って俺のイカ焼きを半分食べられた。
「綾、イカ焼き美味しい? 」
「うん!美味しいよ。政ちゃん、口にソースがついてるよ」
「本当か?こっち? 」
「反対、拭いてあげるね」
「ありがとう」
「政流くん、良かったですね」
「おう! 」
「旅行って、楽しいね」
綾のこの一言がなんだか救われる気持ちに俺以外にもなったに違いない。俺たちにはとっては長くて苦労をしても、綾にとっては一瞬の出来事にしかならない。旅行って思ってくれるのか不安だったのに、それがブァッと飛んで行った。
「だろ! 」
政流は嬉しそうに言っている後ろで、背中を向けて涙をそっと流す人が何人もいた。
「明日の昼ぐらいにこっちを出発するからな。寝坊するやつは置いていくぞ。綾ちゃん以外はな」
「陸都、延長するぶんの金を置いてってくれるなら残る」
「みさき、アホなことを言うなよ。寝坊する気満々だな」
「あぁ! 」
「曇りなき瞳をするなよ」
「フンッ」
「陸ちゃんとみさきちゃんは仲が良いわね」
「まぁ、昔からの腐れ縁だからね。陸都、そうでしょ」
「そそうだな」
「怪しいわね」
「咲春、黙んねぇっとどうなるか分かってんのか? 」
「どうなるの? 」
咲ちゃんは顔色を変えることなく、平然と言ってのけた。
「お前の黒歴史の写真をバラまくぞ」
「ごめんなさい」
「分かればいいんだよ」
「陸都兄!黒のれ……」
「政流くん、静かにしてください」
政流は、満流にそれ以上言うのを止められて渋々諦めた。咲ちゃんの黒歴史は、本人が触れてほしくないことである。
「あっそうだ!みんな、ちょっと待ってて」
「えっ、綾ちゃん! 」
「すみません」
「お嬢ちゃん、どうした? 」
綾は、近くを通っていたおじさんに話しかけていた。
「家族と一緒に海に来てて」
「あぁ!写真を撮って欲しいのか。いいぞ!早く、いこいこ。案内してくれやぃ! 」
「みんな、この人に写真を撮ってくれるって」
「あっ!!熊蔵! 」
「陸都に、咲ちゃんじゃねぇーか! 」
「熊ちゃんは何でここにいるのよ」
「俺の従兄弟が、海の家をしてるから見に来たんだよ。そうしたらよぉ、このお嬢ちゃんに家族写真を撮ってくれって頼まれてな」
「なるほどな。あぁ、コイツは保の従兄弟で、さっき買ったイカ焼きを買ったところの従兄弟でもあってな。ここらは、俺たちが泊まってる旅館の一族がちらほらいるからな」
「世間は狭いね」
「そうだな」
「陸都、カメラよこせ!さっさと撮ってやるから」
「ハイハイ」
「海をバックにしてと、ちょうど逆光になってねぇーから。ほら取るぞ、一+一は」
「二! 」
「ホラッ撮ったぞ」
「熊蔵は相変わらずに、せっかちだな」
「すごい!きれいに撮れてるね!おじさん、ありがとうございます」
「良いってことよ」
熊蔵はそういうと、早々と去っていた。彼はせっかちでも写真を撮る腕はピカイチでもあった。
「熊ちゃん、腕衰えてないわね」
「どういうこと? 」
「彼はね、元々趣味で写真を撮ってて。結構すごい賞とかも貰ったって聞いたわ」
「綾、すごい人に頼んだな。ありがとう! 」
綾は嬉しそうに写真を見ていた。いや、忘れないように目にだけでも焼きつけようとしていたのかもしれない。
一度が何度も起こっても、綾にとっては一瞬の出来事でしかない。自分の記憶に残らないのなら紙に書いた文字じゃない、その日の自分が残る写真を頼りに生きようと思ったに違いない。
この次の日は、綾は行きと変わらず眠ったまま旅館を後にして家に帰ったのだった。
読んで下さりありがとうございます。
誤字や感想などがありましたら、遠慮はいりません。
次回はいつ更新出来るか分かりませんが、また読んで頂けると嬉しく思います。




