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俺は十年間後悔した  作者: 宮原叶映
10/11

子供なのに大人に

久しぶりの投稿です。

子供なのに大人に続く言葉はなんでしょうか?

 旅館の一室で、綾と孝太が寝ているのを満流が見守っていた。冷房の効いた部屋は快適で、日差しもいい感じに入り、満流もウトウト寝そうになった。

 しかし満流は寝てはいけなかった。綾がいつ起きても状況を説明できないと行けないからだ。

 

「……う、……」

 

「綾さん? 」

 

 満流に名前を呼ばれて、綾は目を擦り少しずつ意識が覚醒して来た。

 

「あれ?私、寝てたっけ? 」

 

「はい、そうですよ」

 

 綾は目の前にいる満流の後ろに広がる光景を見ていた。自分たちの家とは全く違う内装に困惑した。綾は家には畳の部屋なんて無いのに、今の現状についていけなかった。

 

「私、優太を公園に連れて行かないといけないの」

 

 綾は頭の片隅に、ずっとあるこの言葉を口にするしか無かった。 

    

「行かなくて大丈夫ですよ。お気づきかもしれませんが、ここは我が家ではありません。そこから離れたところにある旅館です」

 

「何で? 」

 

「みさき姉さんの知り合いの陸都というお兄さんがいます。陸都兄さんの知り合いの方がこちらの若旦那さんです。その方が、ここに招待してくれるたので、一緒に行くぞとみさき姉さんと陸都兄さんに強引に連れて行かれたのです。綾さんは出発前に寝てしまい、起こすのは可愛そうだからそのままになりました」

  

「……うん、なるほど? 」

 

 綾は寝起きの情報量に、なかなか処理が出来ない。それを察した満流は優しくほほえみ、一つ一つ丁寧に綾に説明をし直した。

 

「私たちは旅行に来ているってことでいいんだよね? 」

 

「はい。それでいいですよ」 

 

「満ちゃん、私に隠してることない? 」

 

「えっ!? 」

 

「満ちゃんって隠しごとするときは、右手をグーにして親指を前に出す癖があるの」

 

「流石ですね」

 

 綾は満流の癖はもう熟知している。彼は改めてそう認識をした。

 

「綾さんは記憶をするのが苦手になりました」

 

「えっ? 」

 

「綾さんは、優太くんと公園に行かないといけないまでの記憶しか出来ません」

 

「えっ? 」

 

「今日、ここに来たことも記憶は出来ないと思います」

 

 綾は下をうつむき、涙をポタポタと零した。満流は苦しくて、本当は言いたく無かったのに必死に堪えて我慢をした。いくら、綾の記憶に残らなくても、正直に言わないと嘘をついてしまう方が辛いから。

 

「本当? 」

 

 綾の小さな涙が混ざった声が満流の耳に届いた。

 

「本当です」

 

「もう嘘をついてないの? 」

 

「あと、一つだけ」

 

「それって? 」

 

「綾さんは起きるのが苦手になりました。自分で起きれなくて、僕たちがいつも起こしています。でも、時々それでも起きれなくて先程のように自分から起きるのを待つしかないのです」

 

 綾は寝起きに、自分にとっての重大事実を二つも知って、頭の中は混乱をしていた。     

 

「私は、寝てしまうと記憶がなくなるの? 」

 

「半分あっています。綾さんは寝てしまうと一日の記憶がリセットされます。あの日、優太くんを、公園に連れて行かないとまでの記億だけが残るのです」


「なんでなの? 」

 

「……それは……」         

 

 綾は言い淀どんでいる満流に、不安感を覚えた。原因を言いたくないってどういうことだろうと、何を兄にこんな辛そうで苦しそうな顔をさせるのだろうと。


「満ちゃん、言いたくないんやったら言わなくていいよ」

 

「えっ? 」

 

「だって、満ちゃんの顔を見ていたら分かるもん。言わないのは、言えないのは誰かを守るためなんでしょ」

 

「……」 

 

「満ちゃんが今の私に言っても、明日になれば忘れるんでしょ。言っても意味がないから。それを言ってしまえば、傷つく人がいるんだったら、言わなくていいよ。むしろ、言わないでよ」

 

 俺がうんと大きくなってから、この時のことを満流に聞いたことがある。

 

「綾さんは忘れてしまいましたが、僕はずっと思えています。あのとき、綾さんは僕を気遣ってくれました。そして、僕は綾さんを一日だけでもまだ小学生を大人にしてしまったことが罪のように感じたのです」 

 

 罪だと感じたと言った彼は、当時中学生で子供だ。満流がそう感じる必要なんてない。

 なぜなら、全ての発端は俺だから。彼があの日の境に、さらに大人にさしてしまった。綾や満流を大人にさしたのは俺で、罪に感じ囚われるべきなのも俺だけでいいんだ。そう思う俺もまだ子供だ。


 

 

「分かりました」       

    

 満流の顔はまだ曇っていた。

 

「私って、記憶をするのと寝て起きてが苦手になっただけなんだよ。それはだれも悪くないからそんな顔をしないで」

 

 綾は、さっきまで自分にとっての重大事実をだけと言ってケラっと笑った。そして、満流の両頬を持つとグイッと縦に引っ張った。 

 

「あやさ……ん?! 」 

 

「満ちゃん、こうやって笑うの」

 

 綾は手を話すと、またケラっと笑った。ポカンとしていた満流は、少ししてから真っ赤になった頬を擦った。

 

「満ちゃんの顔、さっきこうなってたよ」

 

 綾は満流の顔真似をした。それはもう、ふざけが入っている感じに。

 

「ブッ、僕そんな顔してましたか? 」

 

「うん」

 

「じゃあ、今は? 」

 

「こんな顔! 」

 

 綾は思いっきりいい笑顔をした。それにつられ満流は、ニコッと笑った。

 

「あーちゃ! 」

 

「孝太、起きたの」

 

 孝太は満流以外にも懐くようになっていた。

 

「うん」

 

「孝太は、かわいいね! 」

 

 綾は孝太の頭を思いっきり撫でてやった。

 

 

 一方、太陽が照りつく砂浜や波を打つ海に、陸都、みさきねえ、政流、俺がいた。

 

「海だ!!陸都兄!泳ぐぞ! 」

 

「政流!脱ぎながら海に飛び込むな!てっいうか、家から水着を着てたのか? 」

 

「優太、二人は元気だな」   

 

 陸都が説明してくれた通り、政流は服を脱ぎながら砂浜を走り、最終的に海にダイブをした。政流が脱ぎ捨てた服を陸都は慌てて服を拾ってツッコミを入れた。その様子をパラソルの中で、ケラケラとみさきねえは笑った。

 

「優太、イカ焼き食べる? 」

 

「ううん」

 

「そっか。優太は綾ちゃんのこと心配なんでしょ? 」

 

「なんで、わかったの? 」

 

「優太は綾ちゃんのことが大好きなのは見たら分かるよ」

 

 俺はバッと顔をみさきねえからそむけた。恥ずかしかった。

 

「優太は綾ちゃんのことが大好きだけど、自分のせいで大変なことになったのが辛いんだろ」

 

「うん」      

 

「綾ちゃんは、気にしてないよ」

 

「なんでわかるの? 」

 

「綾ちゃんが言ってたんだ」

 

 俺はどういうことなのか分からなかった。綾は知らないのはずで、誰も俺のせいでこうなってしまったことを言わない約束をしているから。

 

「綾ちゃんは、なんとなく優太がなんか隠してんのが分かってるんよ。やから、言ってたんや」

 

『優太が私に隠しごとしてもバレバレ。私にどんなことをしたとしても、私は優太を赦すよ。だって、私は優太のことが大好きで家族やから』

 

「優太、泣いてんのか?! 」 

         

 いつの間にか、海で遊んでいた政流が戻ってきていた。俺は顔を上に向けることが出来なかった。

 

「みさき姉!なんか優太に変なことした? 」

 

「しでぇ……なぁ"……い」

 

「優太、本当? 」

 

 俺は必死に頷いた。みさき姉は俺のために話してくれたことで泣いたのに、このままだったら彼女が悪者になってしまう。そうガキの俺は思っていた。

 

「分かった。みさき姉、怒ってごめ……アレ?いない」

 

 俺たちはこつ然と消えたみさき姉に驚いてポカンとしていた。

 

「くらえぇ! 」

 

「ふぇっ?! 」

 

 突然俺たちの顔に目がけて、水鉄砲から出る海水が勢いよく噴射された。俺たちはそれをもろに浴びてしまった。

 

「……ッ、みさき姉! 」

 

「ごめんごめんな」

 

「あと、陸都兄も」

 

「俺は付け合せのサラダか……」

 

「優太、大丈夫か? 」

 

 政流はそのへんに置いていたタオルで海水を拭ってくれた。

 

「うん、ちょっとびっくりした」

 

「そっか」

 

         

「スルーか? 」

 

「うるさい」

 

「ベェっ!? 」

 

 みさき姉は持っていた水鉄砲を陸都に向かって至近距離で発砲する。良い子は真似をしないようにね。

 

「政流、アタシのスマホがカバンの中にあるからそれごと取って」

 

「はい、どうぞ! 」

  

「ありがとう」

 

 みさき姉はカバンからスマホを取って、だいぶ前に届いた通知を確認した。

 

「陸都、ちょっとこれみて」

 

 陸都がタオルで自分の顔を拭いていると、ポンッとみさき姉はスマホを投げ渡す。彼はそういうのに慣れているのか、動じずに受けとった。        

    

「ナニナニ」

 

 陸都はスマホを見ると一時停止をしたかのように固まっていた。

 

「陸都兄、大丈夫か? 」

 

「あ、あぁ。何ていうか…… 」

 

「うん? 」

 

「綾ちゃんが、記憶のことを自覚した」

 

「……えっ? 」

 

「綾が……」

 

「おれのしたことも? 」

 

「優太は何もしてない!!」

 

「大丈夫。優太のことは何も言ってない」

 

「そうだよ。綾ちゃんは自分のために言えないのなら言わなくていい。たぶん、誰かが傷つくのが分かってるのかもね」

 

「うん」

 

 下を向く俺をみんながギュッと抱きしめた。

 

「政流、優太もこれ見な」

 

 陸都はスマホを差し出し、俺たちは覗き込んだ。そこには、あることを書いた一枚の紙を持って綾が笑っていた。              

   

『私は記憶するのと寝て起きてが苦手なだけ。生きているなら大したことない! 』

 

 当時の俺は、漢字なんて読めなかったけどなんで分かった気がして涙を流した。

 

「孝太も起きたから、こっちに来るってよ」

 

「うん、分かった」

 

「優太、泣いてもええけど。泣きすぎたらだめだぞ。綾が心配するぞ? 」

 

「ましゃるもないてる」

 

「……? 」

 

 政流のは自分の頬に流れている涙を触ると、パクッと食べた。   

 

「本当だ。海水じゃない!? 」

 

「政流、それには無理がある……ダメだ、ブラコンがツボにハマってるわ 」    

      

 みさき姉は静かにツボにハマり笑っていた。

 

「政流くん、これはどういう状況ですか? 」

 

「うはぁ! 」

 

「驚きすぎですよ」

 

「綾ちゃんは? 」

 

「何も食べてなかったので、朝ごはんを旅館の方が用意してくれてそれを食べてますよ」

 

「あれ?こうたもいないよ? 」

 

「綾さんのところから離れなくて…… 」

 

「満流、さびしいの? 」

 

「そうですね。いつも僕から離れないようにしていましたし、でも最近は綾さんにベッタリで」

 

 明らかに沈んでいる満流の頭を政流がワシャと撫でてやる。

 

「大丈夫!孝太は何かを綾から感じて守ってんの」

 

「はい、そうで……えっ? 」

 

「政流、いきなり爆弾発言するなよ! 」

 

「俺は、事実を言っただけだぞ? 」

 

 政流は自分の発言の何かおかしいのか分からず、むしろ俺たちが驚くのがおかしいと言いたげだった。


「俺もなんか感じるんだよ。感じるっていうか見えるっていうか? 」

 

「みさき、これって中二病? 」

 

「……違うと思う。政流は昔にも似たようなことを内緒ねって言ってたんだよ」

 

 俺たちに分からないように、みさき姉と陸都が耳打ちで会話をしていた。

 

「孝太は、なんかそれと会話みたいなのしていて、バイバイって追い払ってたんだよ。あとはニコッて笑うと何もしてこないし、悪いのから守ってくれるんだ」

 

「まさかの孝太、最強じゃない? 」

 

「そそうだな」

 

「政流くん、すごいですね」                   

    

「そうか? 」

 

「僕は目が悪く見えないので」

 

「満流、そういうことじゃないぞ」

 

「時々出る満流の天然発言、たまらんじゃなくていいな」

 

「みさきそれ、言ってるからな。ゴファ」

 

 みさき姉の肘鉄が陸都にクリンヒットする。その目は「だ・ま・れ」と顔は笑顔なのに目の奥底では言ってるようだ。

      

「はい、すみません」

 

「よろしい」

 

「満流、さっきみさき姉に一緒に来るって書いてたろ」

 

「はい。綾さんも行く気でした。部屋を出て受け付けの方に行くと、陸都兄さんの……」    

   

「保か? 」

 

「はい。保さんが、おにぎりとお味噌汁とか他にも簡単なものはすぐに用意出来るから食べなさいと言ってくれたんですよ」

 

「保はいいやつだから。あと言い出したら聞かないし、満足させるには言いなりになるしかないな」

 

「ひどい言われようだな」

 

「アイツはその人のためになることしか言わないやつなんだよ。あの時もそうだった」

 

「回想入ろうとするところ悪いけど、政流が満流と優太を連れて海に行った」

 

「はい? 」

 

「で、アタシも行く。ん、じゃ! 」  

 

 みさき姉は、ビューンと海へと走っていった。一人ポツンと陸都は残されたが、荷物を見ないと行けないから動くことができない。

 

 

「陸ちゃん、一人ボッチじゃない」

 

「その声は咲春(さきはる)

 

「咲ちゃんって呼んでよん! 」 

 

「咲ちゃんは、オネエでないんだよな? 」

 

「そうよ?私の家は女の子が多くてね、お父さんは空の上だし……。影響されまくりで、私は女の子が好きなの。まぁ〜ね、この見た目だから騙される子たちはいるわね」

 

「だよな。あといきなり重いのを軽く入れるなって」

 

「前にもこのこと言ったじゃない。どうしたの? 」

 

「子供たちがいるから、教育上のこともあるから一応聞いておこうかなってな」

 

「陸ちゃんの子供と奥さんでは無いわよね? 」 

 

「……そうだ。近所の子どもたちと腐れ縁のダチだな。ワケあり旅行に来てんだ。そこんとこヨロな」

 

「了解! 」

 

 咲春は、陸都がこっちでさ迷っ……仕事をしていた時に知り合ったらしい。彼は中性的な見た目で、喋りも女の人の言葉を使っているが、恋愛対象は女性で自分の性別は男だと全員集合したときに、説明された。それと、咲ちゃんと呼んでと強制もされた。

  

「綾ちゃん、女の子の敵の紫外線からお肌を守らなきゃ。この日焼け止め使ってね」

 

「咲ちゃん、アタシも女の子なんだけどね? 」

 

「そうね。あなたにはこの特製ジュースがいいわね。海だからってはしゃいで水分とってないじゃない。これは美肌効果もあるし、水分補給や鉄分もあるわ」


「ありがとう! 」

 

 咲ちゃんからの謎の液体をみさきは、美味しそうにゴクゴクと飲んでいた。

 

 

 しばらくしてから、保さんに連れられ綾と孝太が俺たちと合流した。綾は俺にこう話した。

 

「優太は、私のかわいい弟だからね。何があってもそれは変わらないからね」 

 

 俺は綾のその言葉を今でもずっと覚えている。この時の俺はなんて綾に返したのだろうか。残念ながら覚えていない。俺の綾に対する罪悪感を、彼女は知らないし言ってほしくないという。

 これも子供なのに大人になってしまった行動によるものなのかもしれない。

また、読んでいただけたら嬉しいです。

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