目が覚める
机の揺れる音、次いで名前を呼ぶ声、それらに反応するように目を開く。開眼して1番最初に認識したのは愛用のシャープペンシルだった。視線を斜め上にずらすとカバーの破れた消しゴムが目に入った。そしてそれらが乗っかているノート、それから机の木目、床の木目と徐々に視界が開け、意識が覚醒した。
横を向くと友人が教師から注意を受けている姿が映る。教室の窓側1番後方の席とその隣の席で僕と友人は並んでいる。彼がより窓際の席だ。どうよら友人は授業中に眠っていたようで、それが教師に見つかってしまったようだ。僕はその友人に対しての叱咤が聞こえたため目が覚めた。
教師が友人の方を向いている間に欠伸を済ませ、最小限の動きで伸びをする。教師が友人の元を離れ黒板のあるほうに歩いていくのを確認してから彼に声をかけた。カメラのフラッシュをたいたように眩い日の光が差していて、カーテン越しだというのに外の天気がはっきり伝わってくるようだった。
「原田君、寝てたの」僕は友人である原田に聞こえるであろう最低限の声で話しかけた。彼はゆっくりと顔をこちらに向けて口を開く。
「いや、起きてた」原田は寝起きだと言わんばかりに欠伸をしながら言った。僕と彼は互いの目を見つめたまま黙る。どちらも話し出さずに静寂のまま時間が流れる。流れるといっても数えてみればほんの1秒か2秒でしかないのだけれど。
「嘘だ」原田が言う。だろうね。僕は心の中でそう呟いた。原田は唇を大きく横に広げて笑い、僕もそれに呼応するように笑った。
「そっちもだろ、圭介」原田が訊いていた。それは質問というより確認に近い問いただし方だった。僕が今起きたことに気づいたのか、それとも彼が眠りに落ちる前すでに僕が寝ていたのだろうか、どちらが正しいかはわからないが少なくとも彼は僕が寝ていたことには確信があるようだった。
「起きてたよ」僕は間を置かずに答える。二人の間には再び静寂が流れた。
「嘘だな」原田が言った。そうだよ。心の中で言う。僕は発言しない代わりに大きく笑って見せた。寝不足なんでね、と心の中で付け加えた。
ふと視線を教室前方へ向けると教師がこちらを見ているのに気付いた。僕は原田に、珍しいこともあるね、と言い顔を伏せ自分のノートへ視線をやる。
そう、珍しいこともがあるものだ。原田は僕が中学生になってから初めてできた友達であり、僕の数少ない友達3人の内のひとりだ。彼は中々にまじめな人間で、聞けばテストの順位は学年五本指に入るという。よく僕ともう一人の友達とよくオンラインゲームをするけれど、彼は11時頃にはゲームを抜けている。そんな彼が授業中に睡魔に負けるなんてことは本当に珍しことだと思う。中学生になってからもう1年もたつというのに、実際に彼のそんな姿を見たのは今のが初めてだった。
奇妙だろうか。自身に問う。そんなことはない。自身が答える。少しでも違和感を感じると変に勘ぐってしまうのが僕のくせだ。別に何かに気づいたって行動なんてしないのに考え込んでしまう。「触らぬ神に祟りなし」だとか「知らぬが仏」だとかは、まさにその通りだと自分に言い聞かせてきている。そう、考えないのが吉、どう考えても善だ。しかし、それでも気になってしまうのだから好奇心なんて言葉があるんだろうな。なぜだか妙に納得できてしまい、僕は心の中で頷いた。
友達に感じた大したことないこの疑問は忘れて、他のことを考えることにしよう。とはいっても授業に集中せず考えることなんてどれも大したことはないのだが。しかし、勉強にこの若い脳を割くのも嫌なので、今日は誰の夢に入ろうか考えよう。ちなみに僕が寝不足の原因は十中八九これだろう。体が寝ていても意識が覚醒していてはあまり寝た気がしないのだ