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第92話 完全記憶能力

「街までかなり遠いだろ? 大変じゃないか?」

「大変でないとは言いませんが、学校に通えるだけでもありがたいお話ですので」

「奨学金が出てるんだっけか」


 とりとめもない会話をしながら、俺はウヅキと街までの街道を行き行きする。


 もちろん昨日の夜に走った道と同じなんだけれど、明るいところでゆっくり歩きながら見る景色は、かなり印象が違って見えた。

 ハヅキとお散歩した時にも感じたけれど、この異世界は空気が澄んでいて雄大な自然の息吹をいたるところで感じられるというか。


 加えて若干テンションが高めの俺だった。

 なんていうかさ、ただ二人で歩いてるだけなんだけど、ちょっとしたデートみたいですごくいい雰囲気なんだよね。

 何気ない日常の会話に、ふんわりとした優しい幸せを感じるのだ。


「ウヅキは普段は一人で通ってるんだよな? 通学中はすることないだろ? 何か考え事とかしてるのか?」


「そうですね、やっとここのお花が咲いたなって、そんな感じで景色を見たりしてます。あとはこの先1週間くらいの晩御飯の献立を考えたり、頭の中で学校の課題を解いたり予習・復習をしたり、とかでしょうか」


「えっと、それは頭の中で……? 何も見ずに問題を解いてくの……?」

「はい、実はこう見えてわたし、覚えることが大の得意でして。大概のことはパッと見て覚えられるので、覚えた問題を順番に頭の中で解いていくんです」


「問題を覚えて? しかもそれを頭の中で解くの?」

 当たり前のように言うウヅキだけど、


「地味に半端ない高スキルだな、おい……。あ、そうだ! さすがです、ウヅキさん!」

「えへへ、ありがとうございます――、って、それはわたしの真似、でしょうか?」


「いつも言われてるから、せっかくなので言ってみたんだ。実際ものすごいスキルだし。すごいぞ、ウヅキ」


「そんなに褒めてくれても何も出ませんよぉ……。えへへ、でもでも実はですね、入学してから1年ちょっと、学校の成績も学年で一番だったりするんです。運動は大の苦手なので座学だけですけど」


 ちょっとだけ得意そうに語ってみせるウヅキだけど、S級チートですらパッと見て何でも覚えられるなんてのはさすがに無かったぞ?

 そういや妖魔のことも、かなり詳しかったもんな……。


「もしかして完全記憶能力ってやつか……」

 行政とか法務とか、出るところにさえ出れば、間違いなく超が付くほど重用される能力だ。


 特にこの異世界には、パソコンもインターネットもないのだから。

 個人の大容量記憶スキルは、それだけで重宝されるはずだ。


「ん? あれ?」

 いやいや、ちょっと待って。

 ってことはつまりだ。


 俺の言動も、逐一ウヅキのメモリーに記憶されちゃってるってこと?

 例えば今朝の『カッコイイポーズ』とかも、ウヅキの中に未来永劫残り続けちゃうの!?

 なにそれ、超恥ずかしいんですけど!?


「ま、まぁあまり深くは考えないようにしよう……」

 少なくともウヅキが俺を陥れようとする、なんてことは間違ってもないだろうし、今朝のアレだってちゃんと二人だけの秘密だよって口止めしておいたからね。


「えへへ、おかげで学校にも通えますし、神様に感謝しないとですね」

 だがそんなスペシャルな能力を持ちながら、当のウヅキには誇るようなところは微塵も感じられなかった。


 まったくもう、そういう控えめなところがほんと守ってあげたくなるんだよ!


 ……

 …………


 なんて感じで、楽しくお話しながら歩くこと約2時間。

「話してるとあっという間だったな……」


 気が付いた時には、俺たちは城塞都市ディリンデンへと到着していた。

 昨日とは違って今度はちゃんと城門から壁内に入る。

 そのまま街の中を東に少し行くと、すぐに見慣れた感じの校門が見えてきた。


「あそこが正門です」

「みたいだな」


 高さ1メートルほどの石壁に挟まれた、いかにもって感じの校門は、大学を卒業してから学校という存在に全く縁がなかった俺には、なんかこう色々と懐かしかった。


 そんな、もう少しで校門ってところで、俺たちの傍を美しい白塗りの馬車が通り過ぎた――、と思ったら、進行方向やや前で停止した。


 すぐに御者(メイドさんだ!)が降りて扉を開くと、中から一人の女の子が下りてくる。

 そして開口一番、女の子はやたらと尊大な態度でのたまった。


「あらあら、そこをゆくは、塩おにぎりのサクライさんじゃありませんの。ごきげんよう。今日もまた遠路はるばる10キロの道のりを、わざわざ歩いてこられたのかしら?」

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