第73話 《神滅覇王》
「『その名、尊き、《神滅覇王》――!』」
S級チート『剣聖』に、一部上書きされるようにして顕現したそれは――、
「これは、すごいな……!」
一言で表すならば。
それは絶大なる「力そのもの」だった。
際限なくあふれ出る黄金の力の源泉は、《神滅覇王》の持つ『固有神聖』――《天照》。
超ド級の攻撃力の源になるだけでなく、吹き上がる黄金の粒子はS級程度の攻撃ならば触れた傍から無効化してしまう、超出力のエネルギー炉だ。
神に比肩するSS級だけが備える特殊能力――『固有神聖』。
その中でも《天照》は、群を抜いた力を持つ攻防一体のユニークスキルなのだ――!
さらに心が研ぎ澄まされた『剣聖』とは正反対の、唯々、未来だけを見据えて燃え盛る焦熱紅蓮の激しい情動。
「これが神話級・戦闘系SS級チート《神滅覇王》――!」
けた違いなほどに圧倒的な力の暴流は、しかし、
「まるでずっと使ってたお気に入りの枕って感じで、すっげーしっくりくる……」
《愚者の聖句》の完成によって、今や完全に俺の制御下へと置かれていたのだった。
心に宿った黄金の焔に突き動かされるように、俺は何気なく一歩を踏み出した。
――すると《神焉竜》が怯えたように一歩を後ずさる。
「おいおいどうした? でかい図体のくせして、まさかびびってるのか?」
言った直後、俺は前方上方へと大きく跳躍した。
黄金の粒子を残滓と残し、目にもとまらぬ速さで中空へと、《神焉竜》あごの下にある逆鱗の真下まで飛び上がると、
「おらぁぁぁ――っ!」
逆鱗にヤクザキックを――ただの前蹴りをぶち当てた。
たったそれだけで二階建て家屋のごとき《神焉竜》の巨体が浮き上がり、10メートルの距離を吹き飛んでゆく。
さっきの背負い投げに続いて、またもや背中から地面に落ちた《神焉竜》は、よたよたと身体を起こしながら、両手で逆鱗を抑えて苦悶の表情を浮かべていた。
「うん、軽く蹴っただけでこれとか馬力は文句なしに凄いな……今のですら『剣聖』最強奥義の《紫電一閃》の数十倍は威力があるぞ……」
ほんと、今までの必死の戦いは何だったんだ?
もちろんその戦いの末に《神滅覇王》があったと考えれば、結果的に意味はあったわけだけれども。
「それと逆鱗ってのは、やっぱ弱点で間違いないみたいだな」
初めて見せたあの痛がりようだけで、論拠を示すには十分だった。
ただ、一つだけ言わせてもらうならば、
「このレベルで攻撃してやっと痛がってくれるとか、もうそれ弱点って言わないだろ、常識的に考えて……」
弱点(ただしS級以下に対しては無敵)である。
もはやなにを言ってるか分からない。
「でもこれだけじゃあ、ちょっと決定力に欠けるか」
《神焉竜》の防御力と耐久力も、これまたSS級に相応しいものだった。
このままでも多分やってやれないことはない。
だけどSS級同士が悠長に戦うともなれば、周囲が焦土と化すのは間違いない。
このままちんたら街中で戦ってしまえば、被害が大きくなりすぎる。
であれば――、
「ちょうど手元にいいものがあるわけだしな。使わない手はないか。おい、いつまでそのままでいるつもりだ? いい加減仕事をしろ、この不良神剣が」
言って、俺は手近な瓦礫に、折れた日本刀の腹の部分をガツンとぶつけた。
すると、
ブォン――!
ぶつけられたことに抗議するように――しかしどこか嬉しそうに――日本刀がブルッと震えたのだ。
そう、日本刀は今、喜んでいるのだ。
SS級の神剣たる己に相応しい使い手と巡り合えた望外の喜びに、うち震えているのだ――!
《神滅覇王》の持つ武器理解効果が、この神なる剣にまつわる全てを教えてくれる――!
「お前の力が必要だ、力を貸せ。竜より生まれし神なる剣、SS級神剣! 《草薙の剣》よ――!」
第一部もクライマックス、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました!
創世神話最強《神滅覇王》がついに降臨です!
楽しんでいただければ幸いです。
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