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第69.5話 大大大大――

「ウヅキが知ってる俺は本当の俺じゃない。借り物と偽物(チート)で塗りたくった、見せかけの俺なんだよ……」


 ……言った。

 言ってしまった。


 チートのことを、弱い俺の心を――何もかも全てをウヅキにぶちまけてしまった。


 そして全てをさらけ出した俺は、うつむいたままでウヅキの顔を見ることができないでいた。

 ウヅキの失望した顔を見るのが怖かった。


 でもいいんだ、これでいいんだ。

 全てを知りさえすれば、ウヅキだって俺に愛想を尽かすだろう。


 それに安心してくれ。

 最後にウヅキが《神焉竜(しんえんりゅう)》から逃げる時間くらいは、何がなんでも命を()してでも稼いでみせるから――。


 それがニセモノの力で英雄の振りをした俺にできる、たった一つの贖罪(しょくざい)なのだから――。


 だからこれでいいんだ――、


「借り物じゃ――、ニセモノじゃダメなんですか?」


「――――え?」


 だからその問いかけは思いもよらないものだった。


「ニセモノじゃダメなんですか? ニセモノだったら、セーヤさんがやってきたことは全部嘘になっちゃうんですか?」

「それ、は――」


「わたしはセーヤさんの過去を知りません。だから借り物とかニセモノって言われても、実のところさっぱりです。こんなにすごいセーヤさんがいったい何に悩んでいるのか、今だってよく分かっていません。だけど――」


 そこでウヅキは一旦、言葉を切ると、


「だけど出会ってからのセーヤさんのことならいっぱい知っています! いっぱいいっぱい知っています!」


 ニコッと特上の笑みを浮かべて言った。


 向日葵(ひまわり)のようなその笑顔が。

 泣きたくて苦しくて、色んなマイナス思考でぐちゃぐちゃになった俺の心を、そっと優しく包み込んでくる。


「セーヤさんは何度もわたしを助けてくれました。ハヅキを助けてくれました。村のみんなを救ってくれました。そして今、こんな傷だらけになっても、戦ってくれています!」


「だからそれは、全部ニセモノの力なんだよ――」


「ねぇ、セーヤさん。セーヤさんがやってきたことは、それがニセモノの力でやったらダメなことだったんですか? 誰かを幸せにすることが、それを借り物の力でしたとして、それはダメなんことなんですか?」


 それはいつも誰かのためを思い、自分のできることを一生懸命やってきたウヅキらしい言葉で。

 だからこそ不意打ちのように俺の心に突き刺さったのだった。


「わたしはセーヤさんがやってきたことが、とても素晴らしいことだと思います! この際、セーヤさんの気持ちなんて関係ありません。だってわたしがそう思うんですから!」


 その言い方は。

 グンマさんが連れて行かれて涙にくれるウヅキに向かって、俺が言ったセリフをそっくりそのままマネたもので――。


「ニセモノの力だからなんなんですか! 例えニセモノだったとしても、ずっと頑張ってたセーヤさんが、わたしは好きなんです! 大好きです! 大大大大――大好きなんです!!」


 ぐっと両手を握ってあごの隣に寄せ、鼻息荒くふんすと宣言するウヅキを見て、


「まったく、ウヅキは変なところで強引なんだからさ」

 俺はすぅっと肩の力が抜けたのを感じていた。


「えへへ、お相子ですもん。セーヤさんはいつも、心配するわたしの気持ちを無視して頑張っちゃいます。だからたまにはわたしも、セーヤさんの気持ちを無視して言っちゃうんですから」


「そうだな――はっ、あははは」


 気持ちが楽になったせいか、なんかもう色々悩むのが馬鹿らしくなった俺は、思わず大きな声で笑ってしまっていた。


「な、なな、なんで今笑ったんですか!? っていうかですね、最後はわたし、かなり勇気的なものをふりしぼって言ったんですけど! むしろ言っちゃったんですけど!? まさかのスルーなんですか!?」


「いや、ごめん。うん――俺もウヅキのことが大好きだ。大大大大――大好きだぞ!」

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