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第53話 月下のナイア 2

 ナイアの放つ斬りつけるような殺気と、凄味を増しながら高まってゆく俺の剣気が真正面からぶつかり合う。


 木の葉が一枚、舞った――。

 そんな、ほんのわずかなきっかけですら爆発しそうな、ジリジリとしたひりつくような緊張感。


 慎重に間合いを測り、呼吸を肌で感じ、筋肉のわずかな動きすらも見逃さんと、全身全霊を傾けて仕掛けるタイミングを見極めてゆく――


 わずかの呼吸の乱れ、何気ないまばたきすら許されない静寂(しじま)の死闘は――しかし、


「おいおい、セーヤ。さっきからなにを勘違いしてるんだい?」

 俺が踏み込まんとする、まさにギリギリ寸前のタイミングでナイアが放ったその言葉によって、あっけなく終わりを告げたのだった。


 いまだ殺気こそ漂わせたままではあるものの、槍を収めて力を抜き、ニカっと笑ってみせるナイア。


「……勘違い?」

 決して隙を見せないように細心の注意を払いながら、オウム返しに聞き返す。


「ふふっ、この前のちょっとした意趣返しさ。今度はアタイの勝ちだね」

 初めて会った時の、槍を避けなかったやりとりのことを言っているのだろう。


「意外と子供っぽいんだな……っていうかなにが勘違いなんだ? 相変わらず殺気がバシバシ飛んできてるんだけど?」

「ま、その話は後でいいだろう? ほらセーヤ、ついてきな。すぐ先、ちょっと行ったところに、駐留騎士団専用の通用口があるんだ」


 言ってナイアは俺に背を向けると、少し離れたところにある小さな門扉に向かって足早に歩き始めた。


「……一体どういうつもりだ」

 その無防備で隙だらけの背中を追うように、小走りについていきつつ問いかける。


「どういうつもりもないさ。いちいち門を破壊しなくとも、そこを通ればすぐに壁の内に入れるって寸法だよ」

 まだ警戒を解いていない俺に対して、ナイアの態度はそれはもう、あっけらかんとしたものだ。


「確か、今日は人っ子一人通せないんじゃなかったのか……?」

「全ての門は通すなとは言われたけどね。でもここだけは治外法権、例外なのさ。聡明で偉大なる皇帝陛下の(つるぎ)たる駐留騎士団の出入りを、一介の地方領主が止めることはできないからね」


 コンコンとナイアが鉄の扉を叩く。

「アタイだ、ナイア・ドラクロワだ」

 直後、ガラガラっと門の内側にある鉄柵が上がる音がして、少し遅れて鉄の門扉(もんぴ)が開かれた。


「ナイア様、お勤めご苦労様です!」

 駐留騎士団の騎士だろう、2名の歩哨(ほしょう)が美しい敬礼を見せる。


「えっと、ナイア様、その、そちらのお方は……」

 だが二人ともが、俺を見た瞬間にいぶかしげな視線を向けてきた。


「ん、ああ、マナシロ・セーヤって言って、《聖処女騎士団(ジャンヌ・ダルク)》の新しい騎士候補でね。ついさっきスカウトしてきたんだ。なんせアタイが手玉に取られるほどの、超が付く凄腕なんだぜ?」


「そ、それは大変失礼いたしました! どうぞお通り下さい!」

「いやいやいいってこった。二人とも、お勤めご苦労さん」


「ありがたいお言葉、恐縮であります!」「全力で任務に励みます!」

 

 そうして。

 ナイアに続いて小さな門を通り抜けると――、


「まさかこんなに簡単に中に入れるとはな……」


 ――そこは既に城塞都市の内側だった。

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