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第52話 月下のナイア

「すっすっ、はっはっ、すっすっ、はっはっ――」


 息を切らして街道を走り続ける。


 月明かりだけが頼りの暗い夜道。

 しかし猫の目のように闇夜を見渡せる知覚系A級チート『キャッツアイ』のおかげで、何の問題もなく全力で走ることができていた。


 そうして夜道を駆け続けること20分ほどで――、

「見えた――」

 街をぐるりと囲む堅牢な石壁を備えた巨大な城塞都市が見えてくる。


 もう少しで到着と言うところで、


「やぁ、セーヤ」

 一つの影が俺の行く手を阻んだのだった。


 見目麗しい白と銀のビキニアーマーに、同じく白と銀の美しい長槍。

 月明かりの光を受けて俺の前に立ちふさがったのは――


「……ナイア」

 《聖処女騎士団(ジャンヌ・ダルク)》団長ことナイア・ドラクロワだった。


「今日は月が綺麗ないい夜だね。セーヤも、月見がてらの散歩かい?」

 急ぎたい俺の心中を知ってか知らずか、ナイアは犬の散歩中に出会ったみたいに、気軽に声をかけてくる。


 だが軽すぎる言葉とは裏腹に、その身体からは強烈な殺気と闘気が絶えることなく発せられていて。

 俺はそっと左手を日本刀(クサナギ)の鞘に添えた。


「悪いな、ナイア。今ちょっとばかし急いでるんだ。終わったらいくらでも話を聞くから、だから今は道を開けてくれないか」

 俺の言葉を聞いたナイアはしかし、


「残念ながら、今日はここから先は通行止めさ」

 俺の行く手を遮るように街道のど真ん中に佇んだままで、動こうとはしない。


「今晩は全ての門を締めきって、人っ子一人通さないようにってお達しが出ていてね」

「ああ、それなら問題ない。壊して突破する」


「あはは、そいつはとっても困るね。このディリンデンの街は、東の辺境の防衛を一手に担う堅牢な城塞都市だ。地域の政治や文化、商業や交易の中心でもある。帝国の守護者たる《聖処女騎士団(ジャンヌ・ダルク)》団長としては、破壊活動を予告されたら100歩譲っても見逃すことはできないかな」


「悠長に話してる暇はないんだ。頼むナイア、道を開けてほしい」

 俺は一歩前に出た。


「何度でも言うけど、ここは通すわけにはいかないんだ」

 同じようにナイアも一歩前に出る。


 これで、ナイアの間合いのギリギリ外。

 既に待機状態にある戦闘系S級チート『剣聖』が、もう半歩でも踏み込むと、ナイアの持つ長槍の長いリーチが一方的に猛威を振るうデンジャラスゾーンにこんにちは、してしまうことを教えてくれる。


「……こういうのは好きじゃないんだけどさ、確か俺は、ナイアには一つ貸しがあったはずだよな?」

 妖魔の群れを倒した時にナイアの方から言ってきたものだ。

 だがしかし、


「こいつは個人的な貸し借りの範囲外さ。悪いね、セーヤ。借りはまた別のところで返させてもらうよ」

 すげなく却下されてしまった。


「だろうな、俺も一応言ってみただけだ」

 ナイアは豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格ではあるけれど、決して私情でルールを曲げるようなタイプじゃないからな。


「なぁ、ナイア。俺はできればナイアとは戦いたくないんだ」

 言いつつ、俺は左手で鞘の根元を持つと、親指で日本刀(クサナギ)(つば)を押し上げ鯉口(こいくち)を切った。


 戦いたくはないものの、しかし、強烈な殺気を漂わせるナイアを前にして、これ以上無防備のままでいることは、さすがに無理だったからだ。


 臨戦態勢――。

 待機状態にあった戦闘系S級チート『剣聖』が開放され、まるで自分を外から見ているように、思考がクリアになっていく。


「アタイだってそうさ。できることなら、セーヤとだけは戦いたくはないね」

 たとえナイアが相手であっても、S級チート『剣聖』なら負けはしない。


 だが怪我をさせずに勝つ自信は――ない。

 それほどまでにナイアの実力は群を抜いているのだ。


「ナイアとは戦いたくはない――でも邪魔をするというのなら、悪いが骨折の一つや二つくらいは覚悟してもらうぞ――」


 日本刀(クサナギ)(つか)に右手をかける。

 集中力が極限まで研ぎ澄まされると同時に、剣気が急激に高まっていく――


 ほんのわずか、()り足で踏み出したものの、ギリギリ長槍の間合いの外だからか、ナイアはまだ微動だにしようとしない。

 これだけの剣気をぶつけても意にも介さないとは、ほんと半端ない胆力だな。


 でも――、

「今はとにかく時間が惜しいんだ。少々強引にでも、俺の方から仕掛けさせてもらうぞ――」

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