第49話 これはわらび餅ですか? いいえサツマイモ餅です。
「おー、ウヅキちゃん、久しぶりだな。あいかわらず美人だねぇ。ん、グンマからの手紙? 妖魔の群れを全滅させたって? それなら昨日、駐留騎士団の方から連絡が来たんだけどな?」
「あれ、そうなんですか?」
コション村に到着した俺たちは、手紙を渡すべく村長の元へと向かったのだが、
「どうやら行き違いでもあったみたいだな。まぁ二度手間になるほうが、連絡がないよりはいいってこった! えっと、なになに……ふむ、ふむ……ふーんそうかそうか」
手紙を読んだコション村の村長は、なにやらふむふむ一人で頷いていた。
一通り読み終わったのかこっちを向くと、
「ところで、隣のイケてるにーちゃんはあれか? 恋人かい? ウヅキちゃんにもやっと春が来たってことなのかな?」
ニヤニヤしながら聞いてきた。
「い、いえその、こちらはセーヤさん……マナシロ・セーヤさんと言いまして、いろいろ助けてもらった命の恩人なんです」
「へぇあんたが。手紙にも書いてあったよ。100を超える魔物の群れを、たった一人で一匹残らず返り討ちにしたんだって?」
「ああ、それなりに腕に覚えがあるんだ」
「はは、自信があるのはいいこった。若者ってのは、これくらい活力にあふれてねぇとな。腕っぷしが必要なときは、是非あんたのとこに相談にいかせてもらうから、その時はよろしく頼むよ」
「ウヅキが懇意にしている人だ。俺で良ければいつでも力を貸しますよ」
「ひゅーひゅー、まったくお二人さんお熱いねぇ」
「ち、違いますから! そういうんじゃないんですから! セーヤさんはほんと、すごい人なんですから!」
「ははは、こんな可愛い子に好いてもらえてアンタも幸せもんだねぇ。俺がいうことでもねぇが、これからしっかりウヅキちゃんのこと守ってやってくんな。俺らもアンタの味方だからよ」
「それはもちろん、誰が相手だろうとウヅキには不埒な真似はさせません」
「はわっ、セーヤさん……ふ、不束者ですがよろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げるウヅキ。
その姿はとても可愛かったんだけど……なんだろう、一連の会話の流れに微妙な違和感を覚えた。
今だけじゃない、昨日からちょくちょく感じているこれは、いったいなんだ?
ただの俺の気のせい――考え過ぎ、なのだろうか?
「見てください、セーヤさん。お土産にわらび餅を貰っちゃいました! ……って、どうしたんですかセーヤさん? とっても真剣な顔してますけど」
「……いや、なんでもないんだ」
にこっと笑って、何とも言えない居心地の悪さをごまかす。
考えても仕方のないことは、考えないに尽きる。
余計なストレスを抱えないための、俺の人生のプチ教訓だ。
それにまだまだ俺自身も異世界に適応してる途上だもんな。
就職で実家から出た時も、新しい生活に慣れるまでは違和感があったし……似たようなもんだろ、きっと。
「そうですか? ならいいんですけど」
「悪い悪い」
よし、気分一新だ!
頭を切り替えよう。
俺はこの世界でうだうだ悩むのではなく、楽しくモテモテに生きると決めているのだから!
「で、なにを貰ったんだって?」
「わらび餅ですよ、わらび餅! ハヅキもきっと喜びます」
言いながら竹皮を開いてウヅキが見せてきたのは――、
「へー……どれどれ……あの、なんか俺の知ってるわらび餅と違うんだけど……? わらび餅って透明だろ? これ、すごく黒いんだけど」
「……? わらび餅は黒いですよ?」
ウヅキが小首をかしげた。
「いやいや、わらび餅は透き通った涼しげなお菓子だろ?」
黄な粉をかけて食べる、日本の夏の定番だ。
「うーん、それってもしかしてサツマイモ餅じゃないですか? あれなら似た感じで綺麗な透明をしていますし」
「サツマイモ餅……?」
なんだそりゃ、初めて聞いたぞ?
「あ、そういえば帝都ではサツマイモ餅がわらび餅と称して売られてるって話を聞いたことがあります。もしかしたらそれじゃないですか?」
「そう、なのかな……?」
正直、良く分からん。
グルメ系S級チート『究極と至高』を使えば分かるかもしれないんだけど、まぁそこまでのもんでもないだろう……。
「確か、わらび粉は手に入りにくい食材なので、サツマイモ粉で代用している、みたいな話だったような。そうだ、ナイアさんからお砂糖もいただいたので、せっかくだから今度試しに作ってみますね」
「じゃあうん、お願いしようかな……でも、サツマイモ餅?」
もしかして基礎系S級チート『サイマルティニアスインタープリター』の翻訳がおかしいのかもしれないな……
「まぁいっか……グルメよりも、大事なのはモテモテハーレムだ……」
ってな感じで、特に何があるわけでもなく、無事にお使いを終えて、お土産のわらび餅も貰って。
そうしてコション村を後にして、ウヅキたちの家があるアウド村へと戻ってきたのは、既に日が暮れた後だった。
「もう少しして夏になれば、この時間でも明るいんですけどね」
ウヅキの説明を聞きながら、月明かりと、窓から漏れ出る灯り石の光だけが頼りの暗い夜道を、家の方へと歩いていく。
「その辺は転生前も異世界も同じか……にしても暗い……家の灯りを見るとすごく安心する」
実は、闇夜でもしっかりと見えるチートがあるんだけれど、暗がりをウヅキと一緒に肩を寄せ合って歩くという、素敵なシチュエーションを存分に味わっていたかったので、敢えて使用はしていなかった。
こういう雰囲気とか場の空気って、個人的にとっても大事だと思うので。
「ギリギリ間に合いましたね。道中で日が暮れちゃうと歩くだけでもけっこう大変ですから」
もう少しで家につくな――ハヅキはちゃんとお留守番できたかな。
そんなことを考えていると、ふと、戸口にハヅキが立っているのが目に入った。
向こうも俺たちに気付いたのか、すぐさま駆け寄ってくる。
そんなに寂しかったのか、まったく可愛い奴め……と思ったものの、駆け寄るハヅキの姿は、どこか様子がおかしい。
泣きそうな顔を――いやこれは泣いた後の顔だ。
目は真っ赤に腫れていて、頬には涙の痕が残っている――。
「どうした、ハヅキ。何かあったのか?」
安心させるようにと、俺はしゃがんでハヅキの目線に合わせてから問いかける。
しかし返ってきた答えは想像もしなかったもので――。
「まなしー、おねぇ……、じぃが、じぃが、つれてかれた――」
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