第412話 13万5千のモテモテハーレムの主
「本当にごめんな、いたらないマスターで……」
「もうそれはいいよ、セーヤくんが楽しんでくれたこと自体は私たちも嬉しかったしね」
「どこまでも嬉しいことを言ってくれるじゃないか……」
ううっ、ほんとよくできたチートたちだなぁ……。
「セーヤくんはえっちでアホだけど、この異世界に来てから本当に頑張ってたもんね。チートたちはみんな、そんな頑張り屋さんのセーヤくんのことが大好きでたまらないの」
「そっか、うん、そう言ってもらえて俺も嬉しいよ」
一躍、13万5千のモテモテハーレムの主になってしまった俺だった。
もうこれ人類史上最高のモテモテハーレムじゃない?
「チートはみんな、セーヤくんのことを応援してるってこと覚えておいてね。これは私だけじゃなくて、チート全員の気持ちだから」
「みんなありがとうな……」
突然訪れた13万5千を代表する愛の告白に、俺は胸がじんわりと熱くなっているのを感じていた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
胸に温かいものを抱えながらケンセーとしばらくの間、見つめ合ってから――俺はそれでも言わなければならないことを切り出した。
「それでその、チートはもう全部回復したんだよな?」
「うん……」
「チート学園での生活は文句なしに楽しかった。みんなにちやほやされて本当に嬉しかった。でも、それでも俺はウヅキたちのところに戻らないといけないんだ」
ここでの生活は最高だった。
13万5千の愛情に包まれながらモテモテハーレムの主をさせてもらって、こうやってケンセーに言われるまで異世界を思い出せなくなるくらいに完膚なきまでに幸せだった。
だけど俺は、戻らなくちゃいけないんだ。
そしてそれはケンセーだってわかっているはず――
「……」
「ってどうしたんだ? 急に黙り込んで?」
――だっていうのに、なぜか急にケンセーが黙り込んだのだ。
「ケンセー?」
「――れないの」
何ごとかケンセーがつぶやいた。
「え? なんだって?」
小さな声でよく聞こえなかったので聞き返す。
もちろん今はチートがないのでディスペル系S級チート『え? なんだって?』は発動しない。
純粋に聞き取れなかったので尋ねただけだ。
すると、
「戻れないの」
ぽつりと小さな声で、でもさっきより少しだけはっきりとした声量でケンセーが言った。
「やっぱ決意はしても俺と離ればなれになるのが寂しいのか? ――はい? ごめん、今なんて?」
えっと、なにか尋常じゃなくヤバイことを言われてしまったような……??
「……戻れなくなっちゃったの」
「あの、戻れないって……だ、誰が……?」
恐るおそる聞き返す俺。
「だから、セーヤくんが現実世界に戻れなくなっちゃったの!」
「ふむふむ、俺が現実世界に戻れなくなってしまったのか……そうか……って、うええええぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!??」
現実世界に戻れない!?
俺が!?
いやでもちょっと待ってちょっと待って!?
だってここは俺の意識の中なんでしょ?
俺が戻りたいと思ったら当然戻れるんじゃないの!?
「俺が現実世界に戻れないだって!? ど、どどどどういうことだってばよ!?」
だってそんな、ええぇぇぇぇぇっっっっ!!??