第409話 あ、ついに俺にもモテ期がきたのかな、なんて……
「……あの、なんでそんながっくりしてるんだ?」
俺はケンセーが無害なことをほぼ確信しつつも、一応は最低限の警戒を維持しながら、その理由を問いかけた。
すると――、
「なんでもなにも、本当ならセーヤくんが『この世界なんかおかしいな?』って気づくはずだったんだよ……それなのに気づいたり不思議に思うどころか、完全にこの世界を満喫しちゃってるんだもん……」
「う、うぐ……」
ケンセーの答えに対して、まったくもって返す言葉がない俺だった。
「ある意味、純粋ってことだよね……自分に正直と言うか。っていうか『チート学園』とか名前からしておかしいと思わない?」
ケンセーが呆れたように、上目づかいのジト目 (これはこれで可愛い)で俺を見つめてくる。
「そ、それはほんと面目ない……あまりに理想のモテモテ世界すぎて、疑うなんて思いもよらなかったというか……あ、ついに俺にもモテ期がきたのかな、なんて……」
「セーヤくんの脳みそはプリンでできてるの?」
「うぐ……。ん? いやでもちょっと待て? それ以前にお前、最初に俺に何かしただろ? 催眠術みたいなので俺にこの世界を信じ込ませたじゃないか」
始業式の前日。
ケンセーの目を見た瞬間に俺は魔法でも使われたみたいにこの世界が正しい世界だと信じてしまったのだ。
「ってことは、俺のせいじゃなくない?」
「アレはそんなすごいもんじゃないよ。ほんのちょっとだけ認識に干渉して誘導しただけ。その気になればすぐにでもおかしいって気づけたはずなのに、セーヤくんってばいつまでたっても気づく素振りすらないんだもの……」
「あ、はい……すんません」
「しかも最後には俺のこと好きなんだろ? とか言い出すし……ほんとなんなのセーヤくん……」
「……ほんますんません」
いやでも、えっ?
――ってことはまさか、全部俺の勘違いだったの?
ケンセーは俺のこと好きだけど、なかなか言い出せなかったんだろ? ふふっ、とかどや顔で言ったのが、全部間違っていたってこと!?
なにそれ超恥ずかしいんですけど!?
小さいころ学校の老先生を「おばあちゃん」って呼んじゃったくらいに恥ずかしいんですけど!? (俺はおばあちゃん子だったので、間違ってもお母さんと呼ぶことはないのだ)
「ま、まぁ俺のことはいいじゃないか!」
俺は恥ずかしさのあまり悶絶死しそうだったので、強引にこの話題を打ち切った。
冷や汗を必死にごまかしながら話題を変えにかかる。
「それよりここはいったいどこなんだ? 確か俺、《魔神》を倒した後に倒れて――あれからこっちの世界で2か月くらい過ごしちゃったけど大丈夫なのか? あともしかしなくても、お前ってチートだよな? ケンセーってことは『剣聖』? 擬人化ってやつか?」
矢継ぎ早に質問を繰り出した俺に、
「うんと、順番に答えるね。まずここはセーヤくんの意識の中。それで、そうだね感覚としてはアストラル界に近いと思う」
「アストラル界って……精霊さんの住処……精神とかエネルギーの世界だよな?」
「そ。だから時間も全然経ってないよ。今回のことは全部セーヤくんの中での話だからね。《魔神》を倒してセーヤくんが倒れちゃってから、せいぜい2、3日ってとこかな?」
「ほっ、それはよかった……」
俺は安堵で胸をなでおろした。
学園生活があまりにモテモテで楽しかったので気づいたら数か月たっちゃってました、とかウヅキたちに説明する勇気がないです、はい……。