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第41話 ハヅキとお散歩

 ってなわけで、この世界にも少しずつ慣れてきた俺は、今日は村の近くを探索してみることにした。


 隣には手をつないで歩くハヅキ。

 あちこち周りを見回しながら、二人並んで街道沿いを歩いていく。


「この辺はほとんど全部が農地なんだな」

 森以外の平地には見渡す限り、一面ずっと畑や田んぼが広がっている。


「ウヅキがこの地域は養鶏が盛んって言ってたんだけど、この辺りではやってないのかな?」

 ところどころに卵をとるための雌鳥(めんどり)が、個人レベルで飼育されているくらいだ。


「よーけー、さいしょに、おかねかかる」

「初期投資ってやつか……まぁいくら名産だって言っても、その地域すべてが養鶏をやるわけないしな……」


「ちょっと、ちがう、ぜーきん」

「税金? 始めるのに税金がかかるのか?」


「りょーしゅの、きょかが、いる」

「養鶏をするのに領主の許可が必要で、それにお金を払う必要があるってことか?」

「うにゅ」

「なんだその、いかにもな既得権益は……」


「だから、おかねないと、できない」

「そっか……」

 ナイアみたいないい奴もいるのに、お金に関しては異世界も割と世知辛いなぁ……


 そんな感じで、異世界のあれやこれやを分かる範囲でハヅキに教えてもらいながら、特に目的もなくぶらぶらと歩いていく。

 ハヅキがちょうちょを追いかけたり、川面に見える魚に興味津々だったりするのを、ほっこり見守るのはまさに癒しの時間だった。


「時間がゆったり流れてるっていうか、うん、いいなぁこういうの……スローライフ異世界転生に憧れる人の気持ちが、ちょっと分かった気がする」

 都会育ちの俺にとって、田舎風情を色濃く見せる牧歌的な景色はとても新鮮なのだった。


 ま、それでも俺は異世界にはモテモテハーレムを求めるわけなのだが。

 その目的を達するために、これから何をすべきか。

 差し当たっての問題はというと――、


「よく考えたら今の俺って無職なんだよな……いや、よく考えなくても無職なんだけど……」

 衣食住を全部まとめて面倒見てもらっている上に、日本刀(クサナギ)もタダで貰ってしまった。

 現状、完全なヒモ状態である。


「ここまで世話になってる以上、せめて少しでも金は入れたいよな……働くにしてもできればチートを使って一気に稼ぎたいところだけど……」


 ぶっちゃけ俺は異世界転生してまで、あくせく働きたくはない。

 そういう社会の歯車的なめんどくさいものは、現実世界に全部まとめて置いてきたんだ。


 労働に費やす時間は、本来の崇高な目的たるモテモテハーレム異世界転生のために費やすべきだろう。

 考えることは山積みだけど、現状は情報が不足しすぎていた。


「まぁナイアからもらった保存食も結構あるみたいだし、もうしばらくはゆっくりしてても問題ないか」

 一応あれは、俺が妖魔の群れを全滅させた謝礼みたいなもんだし?

 つまり俺が稼いだと言えなくもないよな?


 そんなことを考えつつ、ハヅキと楽しくおしゃべりしながら散策していると、

「あ、まなしー、あれ、たべれる」


 ふと立ち止まったハヅキが、街道のわきに生えている低木を指差した。

 小さな赤い木の実が鈴なりになっている。


「ゆすらうめ」

「っていうのか。へー、いっぱいなってるな」


 小さなサクランボみたいな果実が、枝という枝にいっぱいついていた。


「あまずっぱい」

「そうなんだ。ハヅキは詳しいんだな」


「……たぶん」

「えっと……多分?」

 なぜに多分。


「おねぇ、よく、とってきて、くれた。でも、はえてるとこ、みたことない」

「ああそっか、ずっと病気であまり外にはいけなかったんだもんな……」


 ……しまった、今のは完全に失言だった。

 回復系S級チート『天使の施し』で劇的に回復した後の姿しかほとんど見てないから、ついつい忘れそうになるけど、ハヅキはずっと病床の身だったのだ。


 だからハヅキもまだ知識に実体験が追いついてなくて、実際に外の世界を見聞きして自分の知識と照らし合わせている最中なんだ……。

 ちょうちょを追いかけたり、泳ぐ魚を見るのも、ハヅキはほとんど経験が無かったのだ――。


 だったら、

「よし!」

 俺はユスラウメを数個まとめてもぐと、一息に口に入れた。


「あ……だいじょぶ?」

 もぐもぐする俺を見上げながら、ハヅキが不安そうに聞いてくる。


「これは――甘い中に微妙な酸味があって、うん、美味しいぞ」

「あ……うん!」

 ぱぁっとハヅキの顔がほころんだ。


「ハヅキも、たべる」

「よーし、俺いっぱいとっちゃうからなー」


「うにゅ、いっぱいは、だめ、たべるだけ」

「おっと、そうか、そうだな。よしよし、ハヅキは偉いなぁ」


「ぁ――」

 頭をなでなでしてあげると、ハヅキは嬉しそうに目を細めた。

 可愛いじゃないか、うん、めっちゃ可愛いじゃないか。


 そのまま二人でユスラウメをもぐもぐする。

 昨日のアレ以来、ハヅキのことを女の子として意識しつつある気がしないでもないような気がするようなしないような?


 とりあえず言えるのは、だ。


「まったくもって可愛いは正義だな」


 俺は至極の結論を、改めて実感したのだった。

本作をお読みいただきありがとうございました。

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