第392話 -インタールード- クレアノーラ
「クレアさん、クレアさん」
はおー様と《魔神》の戦いが佳境を迎えようとしていた、ちょうど同じころ。
「はい、なんでしょーか?」
私クレアノーラ――はおー様からは親しみを込めて巫女エルフちゃんという愛称で呼ばれている――は唐突にウヅキさんから声をかけられた。
「あのですね、クレアさんに折り入ってお願いがあるのですが」
「えーっと、なんでしょーか?」
私は《最終融合-ファイナル・フュージョン》を維持するためにスタイリッシュにろくろを回すポーズを続けながら、意識をすこしだけウヅキさんの方へと向ける。
「お願いというのはですね、他でもありません。《魔神》の転生をクレアさんに妨害して欲しいんです。あれは《魔神》の『固有神聖』です。ここであの個体を倒したとしても、再びさらなる力をもって生まれ変わってしまいます。なのでここでその輪を断ち切ってしまいたいんです」
「それは、はい、そうですねー」
ウヅキさんのいう事はもっともだ。
このまま勝ったとしても、それは私たちから遠く先の時代に、《魔神》という難問を送り付けて先延ばしにするだけに過ぎないのだから。
「――ですがウヅキさん、妨害と言われましてもー、《リインカーネーション・システム》がどういった術式で行われているのかがわからなければ、やりよーが――」
「あ、それなら大丈夫です」
ウヅキさんが胸の前でぱちん可愛く手の平を叩き合わせた。
それは同性の私から見ても可愛らしいことこの上ない姿だったけれど、なんとなく普段のウヅキさんとは違っているような、ちょっとだけ不自然なようにも見えた――ような気がした。
「あれは《鬼門遁行》と同じ原理ですから。いえ同じというか、《鬼門遁行》が《リインカーネーション・システム》を劣化コピーしたものなのでしょうね」
「わかるんですかー?」
「それはもちろん、わたし程になれば見ればわかります、えっへん」
素直に驚きだった。
いったい、いつどうやって、そんなことを見抜いたというのだろうか。
知識と知性にあふれた方だとは思っていましたが、さすがはおー様が正妻に選んだだけのことはありますね……。
「ともあれ《鬼門遁行》を妨害してみせたクレアさんなら、その応用で《リインカーネーション・システム》も封じることができるはずです。なんとか、やってみてはもらえませんでしょうか?」
「そー……ですねー……」
私は《最終融合-ファイナル・フュージョン》を維持しながら、同時並行で《リインカーネーション・システム》の妨害ができるかどうか少し考えてみる。
現状、《最終融合-ファイナル・フュージョン》は極めて安定している。
SS級の仲間たちが、はおー様を信頼して進んで力を貸しているからだ。
助け合う力が、信じあう心が寄り添いあい一つになって――それで安定しないわけがない。
その後にはおー様が発動させた新しい『固有神聖』も――こんな奥の手を用意していたなんてさすがははおー様です――特に問題はないようだった。
これなら――、