第380話 『やられる相手の名前だ、しっかりと心に刻んでおけよ?』
「なんでそこで疑問形なんだよ?」
「……じゃあ世界を滅ぼす」
「じゃあってなんだ、じゃあって。別に断定しろって言ったわけでもないんだけどな? でもそれだと結局、俺がやられてもお前が世界を滅ぼすんじゃねーか?」
「……じゃあ……なら一緒に滅ぼしちゃおう?」
「滅ぼさねーよ!?」
あと「じゃあ」を「なら」って言い換えても、完全に一緒の意味だっつーの。
「うーんと、《神滅覇王》と何かを、何か大事なものを、あわせて滅ぼすはずだったけど……忘れてしまった」
忘れてしまったじゃねーから。
「そんな大事なこと忘れんなや……」
戦闘中なのに思わずツッコんじまっただろ。
俺を脱力させて油断させる作戦か?
「転生のシステムに問題あり? 記憶の欠落かも? どう思う《神滅覇王》?」
「だから俺が知るかよ!? つーか忘れるなら《神滅覇王》のことを忘れろよな!」
「それは無理! 《神滅覇王》は殺す! でももう一つ何か……確か大事なものだった……大事なもの……。世界誕生……特異点……破滅が繰り返される……新世界……つまり世界。よって世界を滅ぼす。間違っていない、いヒっ」
その言葉で再び戦闘に強い意識が向いたのか、《魔神》の攻撃がひと際、鋭さを増しはじめた。
攻撃のギヤを上げてきたか……!
「つーか、途中で意味不明な論理飛躍した上に、自分だけで勝手に納得してんじゃねぇ!」
「殺す♪ 殺す♪ 《神滅覇王》を殺す♪ 世界も滅ぼす♪」
だめだこいつ、支離滅裂で話にならん。
「とりあえず《魔王》が転生を続けて最強の《魔神》になる、それはわかった――ハァッ!!」
色々分かった、だから《魔神》はさっさと倒そう!
俺の渾身の一撃が、攻勢に出て防御がわずかにヌルくなった《魔神》をとらえかけ――しかし《絶望ニ染メヌカレシ闇紅ノ魔神剣》によってあっさりガードされてしまう。
――なにせこんなアンポンタンのくせして、その戦闘能力は規格外のSS級すら凌駕するSSS級なんだ。
対して俺は、
「オーバーリミット稼働の《天照》の負荷と、斬り合うたびに返ってくる衝撃が、どんどん溜まってきてる――」
まだ直接的な戦闘ダメージはゼロなのに、身体がどんどんと重くなってきているのだ。
「はぁ……はぁ……」
「息が上がってきたね、いヒッ。それはスゴいパワーだけど、明らかに無理してるもんね。そろそろ限界かな? キひヒヒッ」
「うるせー! てめぇこそ、おしゃべりで俺に色々情報を教えちまって、後で後悔しても知らねーからな!」
こうして罵りあいながら戦闘を続けている間にも、俺の方は色々かなりきつくなってきている――。
「知らないまま死ぬのは可哀そうだからね。ヒっ、ヒヒッ、殺される相手の事を教えてあげたの。『やられる相手の名前だ、しっかりと心に刻んでおけよ?』 ――だっけ? そっくり返してあげる、キヒっ、いヒッ、ギヒヒヒヒヒヒっ!」
清楚なティモテの顔と声で、癇に障る気持ち悪い笑いかたをしやがって……!
けど、《魔神》の言う通り、このままだとジリ貧だ。
次の手を考えないと。
もう一度勝負をかけないと、本当にマズい――