第362話 三度目の正直 vs《剣の魔将》グレン
「まぁなんだ。これでアンタとも3戦目だろ? そろそろいい加減、どっちが上か白黒つけようぜ――ッ!」
完敗した初戦。
あと一歩で逃げられた2戦目。
そしてこれが三度めの正直だ――!
「しかしまさか空からの攻撃とはの――ハッ!」
精霊剣クサナギと魔剣グリムヴェルを激しく打ち合いながら、
「なかなかいい作戦だっただろ? アンタだって危険を承知で単独行動しているんだ。当然、拠点の周りには罠くらい用意してるだろうと思ってさ。不意打ちも兼ねて一石二鳥ってわけだ――ッッ!!」
合間合間に俺とグレンは言葉を交わしてゆく。
「なるほど、こちらが単独行動していることまでも、全て把握されていたというわけか――チィッ」
突如、グレンがその場を飛びのいた。
その直後。
一条の黒い光線――黒粒子砲=漆黒のドラゴン・ブレスがグレンの立っていたあたりを文字通り薙ぎ払ってゆく。
放ったのはもちろん――、
「む……外してしまったのじゃ」
切り結んでいた俺とグレンからは少し離れた位置へと降りてきた、SS級にして伝説の暴竜、《神焉竜》だった。
「なんとすさまじい威力か……」
さしものグレンも、その破壊力を前に驚きを隠せないでいる。
「援護サンキュー、《神焉竜》! にしても相変わらず半端ない威力だな。これでも発動を早めるために、力を抑えてるんだろ?」
漆黒のドラゴン・ブレスが通った跡は、まるでスプーンでゼリーをすくったあとみたいに、綺麗に地面がえぐれてしまっている。
鬼族の防御力がどれほどのものかはわからないけど、さすがにこれが当たったらグレンも死ぬんじゃないかな?
「ふふん、妾を誰だと思うておるのじゃ! かつて暴虐の王竜と呼ばれ、神の時代を――神話を終焉わらせた《神焉竜》アレキサンドライトぞ! これくらいお茶の子さいさいなのじゃ――ハァッッッ!!!」
再び放たれた漆黒のドラゴン・ブレスを――、
「ちっ、ほんに猪口才な鬼なのじゃ」
「さすがにこの距離では当たらんよ」
――しかしまたもやグレンはかわしてみせた。
でもまぁ、こればっかりは仕方ない。
《神焉竜》の背中にはウヅキと巫女エルフちゃん、そしてティモテが乗っている。
みんなの安全のために敢えて大きく距離をとっている分だけ、どうしてもかわされてしまうのだった。
「しかし《神滅覇王》だけでなく、創世神話の《神焉竜》までいるとなると……そうか、人族は竜族と手を結んだのか」
そんなグレンの推理は、
「老鬼よ、愚かな考え違いをするでないのじゃ。妾は神をも喰らいし竜の王。頭を垂れるのは、主様と奥方殿だけじゃ――!」
若干キレ気味の《神焉竜》が、ドラゴン・ブレスをぶっぱなしながら一刀両断に否定した。
しかしこのドラゴン・ブレスも、グレンはしっかりと見定めて回避してのける。
「さすがだな、《剣の魔将》って呼ばれるだけはある――」
「なに、こうやってただ外から撃たれるだけならば、まだ対処の仕様もあるというもの。それよりも、警護対象たる少女を連れてきたのは愚策が過ぎるぞ? これはこちらから向かう手間が省けたというもの。血迷ったかマナシロ・セーヤ」
グレンの目が視線だけで射殺せるような、強烈な殺気を帯びはじめる。
「あんたこそ俺たちに勝つ気でいるのかよ? この前やって俺の方が上だってわかったはずだぜ? しかも今回は《神焉竜》までいるんだ。このまま押していけば、この決戦、最後に勝つのは俺たちだ――!」
この状況で勝てるもんなら勝ってみやがれ――!
「いい機会だ。《神滅覇王》マナシロ・セーヤ、なぜ鬼族が妖魔で最強と言われるか、今から貴様に教えてやろう――」