第354話 待ち人来たらず
その日の夜。
明日の作戦決行を前に、俺は英気を養うべく――、
「昨日の夜はウヅキと巫女エルフちゃんが来て、3人で一緒に寝たもんな。2人とも楽しそうにしてたし、これは今晩も一緒に寝にくる可能性は高いのではないだろうか? いやむしろ今日も来るであろうことは、確定的に明らか!」
――自分の部屋でお布団の上に座りながら、女の子の来訪を待ちわびていたのだった。
「昨日はあまりに突然の夜這いだったから心の準備ができてなかったけど、今日はこうやって心身ともに準備万端、レディ・パーフェクトリー。ウヅキと巫女エルフちゃんと一緒に、大人の階段を俺は今日こそ上って見せる……!」
ちなみに一緒に寝るという約束はしていなかった。
だってほら、口でそういうこと言うのはさ?
なんか童貞がガッツいてるみたいで、大人で紳士な麻奈志漏誠也の美学に反するっていうか?
野暮なこと言わなくても、あうんの呼吸で通じ合ってる的な?
女の子に期待されて、そしてそれに応えてみせる。
ふぅ、やれやれ。
これがモテる男の在り方というものなのだよ、明智君。
…………
……
「わくわく、どきどき。まだかな、まだかな……」
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……
「2人とも遅いなぁ、どうしたのかなぁ……」
…………
……
「あ、気合い入れて勝負下着をつけてみたけど、やっぱり恥ずかしくて勇気が出ない……きゃっ、とかそういう状況かも。可愛い奴だなぁまったくぅ」
…………
……
「女の子は準備に時間がかかるっていうもんな。それを待ってあげるのが、いい男のいい男たる所以なんだよね」
…………
……
「でも、必ずしもウヅキと巫女エルフちゃんとは限らないよな。サーシャとクリスさんかもしれないし、《神焉竜》が来るかもしれない。ティモテは、さすがにないか」
今更だけどグンマさんが居ない今のサクライ家は、なんと俺以外の同居人はみんな女の子ばかりという夢のような状況なのだった。
控えめに言って最高です!
「おっと。そうすると、バッティングしちゃうとまずいな。どうしよう……」
早いもん勝ちってのはやっぱよくないよな。
曜日ごとに担当を決める、とか?
「本番の真っ最中に入ってこられたら、気まずいし……」
いずれにせよ、不満が出ないように調整しておかないとね。
…………
……
「まだ来ないみたいだし、軽くストレッチでもしておくか。未経験だからあくまで推測だけど、けっこう運動量があるみたいだし? つまり準備運動が大切に違いない」
…………
……
「だいぶ夜も更けてきたな……あ、遠くでなんか動物が鳴いてる……いやいや、まだあわてるような時間じゃないさ。夜は大人の時間だからね。あ、今の俺ちょっとカッコイイかも」
…………
……
「馬鹿な……まさかそんな、誰も来ないなんて……ど、どういうことだってばよ?」
俺はお布団の上で体育座りをしてうつむきながら、悲しみに暮れた――くれざるを得なかった。
「も、もしかしなくても俺は、調子に乗っていたのか……?」
身の程をいやってほどに知らされました、ぐすん。
「いいもん、おとなしく一人で寝るもん。明日は大仕事だからな、疲れるのは良くないし…………ぐすっ」