第352話 褒められウヅキ
そんな俺が社会的に抹殺されそうな絶体絶命の大ピンチを救ってくれたのは――、
「それと、はおー様がぎりぎりまで追いこんでくれたおかげですねー」
巫女エルフちゃんの一言だった。
偶然なのか、はたまた色々と分かった上でこっそり助け舟を出してくれたのかはわからないけれど。
少なくとも巫女エルフちゃんが、ちょうどいいタイミングで話題を提供してくれたことは間違いないわけで。
となれば――乗るしかない、このビッグウェーブに!
「いやーほんと惜しかったんだよ、あと一歩だったからさ。な、精霊さん」
俺はともに戦った精霊さんに声をかけながら、腰のあたりを優しくぐりぐりしてくるイケナイお尻から、意識を強引に切り替えた。
キリッ!
「――って、あれ? 精霊さん……?」
しかし精霊さんから返事はなかった。
ふよふよ浮いているだけで、全くの無反応である。
「おーい、精霊さーん?」
「――ハっ!? 寝てないわよ!? アタシ寝てないんだからね!?」
「いや別にそんなことは一言も言ってないんだけど……」
「そもそも精霊はエネルギー体だから、寝る必要は特にないんだし!?」
「ああうん、そうなんだ……?」
これはあれだな。
真面目な話を聞いているのが面倒くさかったから端から寝ていたな。
ふよふよと浮いたままで、器用に立ち寝ならぬ浮き寝をしていた精霊さん。
どうりでずっと静かなままだと思ったよ……。
「でも瞬間移動まで追えるのは、さすがは『真なる龍眼』だな」
「なに、あれだけ強引に術を使えば、ほころびも出てくるというものじゃ。それもこれも主様が追い込んでくれたおかげじゃよ。ふむ、つまりこれは妾と主様の共同作業だったというわけなのじゃ。むふふ、むふ、むふむふ……」
「ほんと改めて思うんだけど、戦うと鬼畜無理ゲーだった《神焉竜》だけど、味方になったらほんと反則級に頼りになるなぁ……」
しかもこうやって平和に過ごしていれば、甘え上手で綺麗なお姉さんなんだし。
そして《神焉竜》が完全に無害化されている最大の要因として――、
「ウヅキもありがとな。俺のいない間、いろいろと面倒を見てくれて」
ウヅキが美味しいご飯とおやつを作って、完全に餌付けして飼いならしてくれていることがあげられるだろう。
「そんな、全然です! それにわたしは、戦いの方はさっぱりですから」
「常に一歩引いて主様を立てる……奥方殿はほんに奥ゆかしいのぅ」
「えへへ、ありがとうございます。でもいきなり急にあっちこっちから褒められちゃうと、なんだか照れちゃいますね」
楽しそうに会話しているウヅキと《神焉竜》。
ウヅキは多分俺と同じか、いや、それ以上の関係を《神焉竜》と築いている。
「それにの。戦う力はなくとも、しゃもじとおたまだけで妾の前に立ってみせたその気概は、誰にも真似はできぬのじゃ」
「そんなこともありましたねぇ、あはは……」
そうだよな。
あれがあったから。
ウヅキが俺の前に立ってくれたから。
俺はもう一度戦えると、そう思えたんだから――。
「本当にウヅキはスゴい女の子だよ。俺の――《神滅覇王》のお墨付きだ。遠慮なく誇ってくれ」
「もう、セーヤさんも持ち上げすぎですよ……」
俺と《神焉竜》から急に褒め褒めアタックをされ、ちょっと困ったような仕草とともに「えへへ」と照れるウヅキは、それだけでご飯三杯はいけそうなくらいに可愛いかったのだった。