第351話 反攻作戦
「ほんに主様は心配性なのじゃ」
俺の質問を引き取ったのは、自信満々・泰然自若の《神焉竜》だった。
「妾をいったい誰と心得ておる。最強のSS級たる《神焉竜》なのじゃぞ? 案ずるでないのじゃ。やつが拠点にしておる場所は、もうばっちり見つけておるのじゃ」
「おおっ! さすが《神焉竜》、仕事が早い!」
「周りに他の妖魔はおらぬ。どうやら共も連れずに単独行動しているようじゃ」
「それはさすがに意外だな……こんな敵陣奥深くに、たった一人で乗り込んできたってことか?」
「まったく、随分と舐められたものじゃの」
そう。
今回、俺は精霊さんには戦闘サポートを頼んでいた。
そして《神焉竜》には、『真なる龍眼』によるグレンの追跡と戦力分析をお願いしていたのだった。
「ま、妾の『真なる龍眼』の前には、これくらい朝飯前なのじゃ。じゃがしかし! 結果を出したこと、これは純然たる事実なのじゃ。よって、主様には妾をなでなですることを許すのじゃ」
そう言いつつ、あぐらをかいていた俺の足の上にずいっと乗ってきた《神焉竜》。
「さすがにちょっと重いんだけど――」
――言いかけて、言わずにすんでのところでギリギリ踏みとどまった俺。
なぜなら女の子に『重い』は、殺されても仕方ないSS級のデスワードであるからして。
しかも《神焉竜》が相手だ、下手をうつとマジで死ぬまである(体験談)。
転生した当初と比べて、俺も女の子とのコミュニケーションに少しだけ慣れてきた感じがしなくもない今日この頃。
ねぇ神様。
そろそろ準備運動は終わりにして、童貞を卒業させてくれても、罰は当たらないのではないでしょうか?
閑話休題。
「むふ、むふふふ……今日は妹御がおらぬゆえ、特等席で堪能できるのじゃ……」
そう言って俺の膝の上――普段はハヅキがベストポジションにしている――へと収まった《神焉竜》。
俺がいつものように《神焉竜》の頭をなでてあげると、むふむふ言いながら、嬉しそうに目を細めていた。
――そしてそれだけでなく、甘えたように身体をすりすり擦り付けてくる《神焉竜》。
しかもその時にね?
《神焉竜》のお尻と、俺の腰のあたりがですね?
イケない感じですりすりしちゃうんですよ!
本人は甘えて身体を擦り付けているだけで、えっちな意図はまったくないに違いない。
猫が飼い主やお気に入りの場所に身体をこすりつけることで、匂いをつけてマーキングするのと同じような感じなんだろう。
だがしかし!
こんな綺麗なお姉さんに無防備にすりすりされてしまうと、男は清く平常なる心のままではいられないんだよ……!
「むふ、むふ……」
すりすりー。
「むふ、むふふふ……」
すりすりー、すりすりー。
くっ、だめだ……!
このままでは真面目なお話の最中だっていうのに、《神焉竜》のえっちなお尻のプレッシャーを受けて、俺のリトルまなしーがSS級として覚醒してしまう……!
だけど、これだけはわかってほしい。
これはあくまで子孫を残すために男の遺伝子に刻み込まれた生物としての悲しい本能であって、決して俺という人間個人のエロ問題ではないということを――。
綺麗なお姉さんモードの《神焉竜》に好き好き甘えたをされちゃって、
「はぁ、はぁ……鎮まれ、鎮まるんだ俺の《神滅覇王》……!!」
だめだ、このままでは完全フルパワーにてスタンダップしてしまう。
ここまで苦労に苦労を重ねて築き上げてきた男の中の男、紳士・麻奈志漏誠也の立場が崩れ去ってしまう……!
意識を、意識をそらさなくては……!
なにか、なにか気を紛らわせるための話題はないのか……!?