第350話 プレゼン系S級チート『ささやき女将』
「というわけで。あと一歩のところでグレンを逃がしてしまいました。ごめんなさい」
グレンに逃げられてしまった後、俺はティモテ&精霊さんと連れ立ってサクライ家へと戻ってきていた。
そして居間にみんなに集まってもらって、グレンとの2度目の戦いについて報告をしていたのだった。
メンバーは俺、ティモテ、ウヅキ、《神焉竜》、シロガネ、精霊さん、巫女エルフちゃんの7人だ。
ちなみにナイアは――、
「ティモテのことを中途半端にほっぽり出すのは気が引けるんだけどさ。アタイもいい加減ディリンデンに戻らないといけないんだよね」
迎えに来た《聖処女騎士団》の騎士団員とともに、朝一でディリンデンへと戻っている。
サーシャとクリスさんも――、
「そろそろ仕事や環境に慣れてきて、緊張の糸が一度緩みだす時期ですわ。職人と言えど一人の人に変わりありません。安全確認がおろそかになりやすいタイミングですので、監督者は特に目を光らせ、安全を注意喚起する必要がありますの」
現場監督というプロフェッショナルとして不参加だった。
ハヅキ画伯は――、
「きょうは、たましい、こめる。まなしーは、みるの、めっ」
超一流のオーラをその身にまとい、俺の新しい肖像画の最後の仕上げに取りかかっていた。
ウヅキが言うには、お昼ご飯も食べずに朝からずっと没頭しているらしい。
そしてトワもそれにお付き合いをしていて、今も一緒に絵を描いているとのこと。
どちらかと言うと、ちびっこ組にはあまり聞かせたくない話だったので、ちょっとほっとしたところではあった。
――というわけで。
普段とはちょっと構成が異なる麻奈志漏ヒロインズに、俺は一連の流れを順を追って説明していった。
グレンと遭遇したことから始まって。
鬼門遁行という瞬間移動を使っていたこと。
ティモテの暗殺が目的だったこと(ただし理由は不明)。
精霊さんと協力して戦ったこと。
《精霊融合》によって圧倒し、あと一歩まで追い詰めたこと。
しかし最後に逃げられてしまったこと。
その時グレンは、先代魔王がどうのという謎の言葉を残して消えたこと。
いいことも悪いことも、俺は要点をまとめてテキパキと手短に伝えていった。
さすがは酸いも甘いも噛み分けた大人クールなできる男・麻奈志漏誠也であることよ。
……はい、嘘です。
それ用のチートを使いました。
プレゼン系S級チート『ささやき女将』というチートです。
俺だけにどこからか聞こえてくる謎のガイド音声に従ってしゃべるだけで、最高のプレゼンができるという超便利なチートなんだ!
全チートフル装備の俺の異世界転生が最強無双すぎてツラいわー、マジツラいわー。
そしてこの話を聞いて一番喜んだのが、
「つまり、我は悪くなかったのだ……?」
《シュプリームウルフ》のシロガネだった。
「そうだね。鬼門遁行――瞬間移動されたんなら、そりゃいくら厳重に警戒してても気付けないよな」
俺の言葉に、みんなもうんうんと頷いている。
昨日、グレンに速攻で警戒網を突破されてしまい、SS級のプライドをズタズタに粉砕されて寝込んでしまっていたシロガネ。
「我は、我は偉大なる天狼の末裔として、なんら恥じるところはなかったのだ……! 最近負けてばかりの、一族の面汚しではなかったのだ……!」
しかし瞬間移動だから察知できなくても仕方なかったと判明して、急激に元気を取り戻していた。
この分だと戦列復帰も近そうだ。
「――とまぁ以上で、俺からの報告は終わりなんだけど。それで、そっちはどんな感じだった? 瞬間移動なんてまさかの想定外が出てきたけど、上手くいったかな――?」