第346話 I’m here! アタシが来た!
グレンの先制攻撃に対して、俺はいまだ刀を抜いていない――いや、あえて抜いていなかった。
しかしそれは決して慢心ではない。
「その入り、前の時と全く同じだな――」
そっくりそのまま同じ初手で攻めてこられるなんて、俺もずいぶんと舐められたもんだ――!
すでに最強の戦闘系S級チート『剣聖』は、戦闘モードで発動していて。
『納刀』した日本刀は、膨大な剣気をため込んでいる――!
「世界よ、真白く瞬け――」
刀を収めた鞘の中で極限まで圧縮した剣気を、神速の抜刀とともに解放して叩きつける。
それは『剣聖』の最大火力にして最終奥義!
「剣気解放――」
抜刀とともに爆発的に解放された剣気が、光輝となって瞬いて――、
「《紫電一閃》!!」
「そういう貴様こそ、その技はこの前の戦いで防がれたものだろうに――!」
そう。
前回の戦いでは簡単に防がれてしまった『剣聖』の最終奥義は――しかし、
「なに――っ?」
刹那の抜刀から放たれた奥義は、グレンの鋭い踏み込みなんてものともせずに、軽々とその身体を弾き飛ばした――!
しかしさすがは《剣の魔将》と呼ばれる老鬼。
狙いすました《紫電一閃》を瞬時に飛びのくことで威力を軽減して防いでみせたグレンは、下がった勢いを利用してすぐに大きく距離をとった。
「うーん。できれば今の一撃であっさりカタをつけたかったんだけどな。さすがはSS級、そうは問屋が卸さないか」
「……どういうことだ? 昨日より威力が大幅に増している……? まるで何かの力を上乗せしたかのような――」
訝るグレンの呟きにかぶせるようにして、
「ふっふーん、呼ばれて飛び出てアタシ参上!」
精霊さんがぴょこんと俺の背中から顔を出してどや顔った。
「ああもう勝手に出てくんなって。タネがばれるだろ」
「いい加減いいじゃないの! だいたい戦ったらすぐにアタシが手を貸してることなんてばれるわよ! あいつ気配察知もうまいから、隠れるの大変だったんだかんね!」
「それはまぁ、そうだろうけど」
だからと言っていちいち自分からばらす必要もないわけで。
「それにほら、さっきアンタがティモテにエロいことしたときも、出てこなかったでしょ。だから差し引きゼロでオッケー!」
「ちょ、エロちゃうわ! 人聞き悪いこと言ってんじゃねーよ。あれは子猫が出てきて流れでたまたまそうなってしまっただけで――」
「スカートをめくりあげていやらしくお尻を掴んどいて、よくそんなことが言えるわね! はいはいわろすわろす」
「くっ、こいつめ……」
「精霊……? それも最上位の……?」
突然の闖入者に、グレンが驚いたような顔を見せた。
「《剣の魔将》すら驚かせてしまうアタシのスゴさ……ってなわけで、アタシ参上!」
「それはさっきもう聞いたっつーの」
「何度でもやってくる、それがアタシ! I’m here! アタシが来た!」
精霊さんはどや顔でそう言った。
ずっと黙って隠れていたせいか、今日の精霊さんはいつにもましてテンションアゲアゲでウザい――あ、いや、うるさいなぁ……。
なんてことをちょこっとだけ思ってしまった俺を、しかしいったい誰が責められようか……。