第341話 教会のおしごと
クリスさんとあんなことがあったにもかかわらず、その後のクリスさんはまったくもっていつも通り。
そのまま何事もなく、つつがなく食べ終えてしまった朝ごはん。
今日もウヅキの作った鶏料理は最高でした。
そして今。
俺は教会で、ティモテがてきぱきと今後の活動に必要な準備とか作業をしているのを、なんとはなしに見守っていた。
いやね?
最初は手伝おうと思ったんだよ?
朝ごはんに出た焼き鳥の薄塩ねぎまが美味しすぎて、思わず食べ過ぎちゃったから腹ごなしにもちょうどいいかなって思って。
でも、
「えっと、これは……」
「それはこれから作る予定の信徒台帳ですね。まだ信徒の方はいないので全部白紙ですけど。とりあえず奥の部屋の机の上にお願いします」
…………
……
「これって聖母マリアの絵本……?」
「聖典の読み聞かせが難しい小さな子供には、この絵本を使うんです。社会奉仕に生涯を捧げた聖母マリアの尊い行いは、道徳教育にはもってこいですから」
「ふんふん。あれ、でもなんかマリアがちょっと悪いこと考えているシーンがちらほら……」
「子供に興味をもってもらうということで、少し面白おかしく脚色されているんです。なので大人が読んでも結構面白いんですよ?」
「はぁ……いろいろと考えられてるんだなぁ……」
「とりあえずは、小さな子供でも手が届くよう、向こうの戸棚の一番下に置いておいてください」
…………
……
「なんか難しそうな本や書類がいっぱい出てきた……」
「農業や畜産業に関する最新の技術書や論文ですね」
「……なんでそんなものが? 神学じゃなくて? 教会は実は農協なの?」
「ノーキョー? という言葉はわかりませんが、様々な新しい知識や技術を広めることも、教会の大切な役目なんです。それによって生産性が向上すれば、信徒の皆さんの日々の生活も楽になりますから」
「知識の伝播か……教会は重要な社会インフラなんだな。てっきりお祈りとか炊き出しとかをする施設だとばかり思ってたよ」
日本人に多い、へっぽこ&がばがばな宗教観だった。
「俗な言い方になってしまいますが、信仰だけで運営していくのはなかなか難しいんです。マナシロさんが言った炊き出しをするにしても、まとまったお金が必要ですし」
「確かに……」
「現実問題として、教育や指導の対価として領主の方々から寄付を得る、というような状況がなくはないと言いますか。信仰を説いていくことで、いつの日か理想と現実の差を埋められたらいいんですけど」
「くぅ……っ!」
なんて、なんて健気なんだ……!
理想を抱きながらも、ままならない現実で最善を尽くそうとする。
その生きざまに俺は今、猛烈に感動している……っ!
「よし、分かった! 俺が東の辺境の大公になった暁には、まず教会の後ろ盾になることを約束するよ!」
――とまぁ一事が万事そういう調子で。
つまり何をどうすればいいか全くわかっていない俺が、あれこれ聞きながら効率悪くやっても、さっぱり労働力としてプラスにならなかったというか……。
むしろティモテ一人の方が、滞りなく作業が進んでいたような。
そしてそんな使えない俺だったっていうのに、ティモテってば、
「手伝っていただいてありがとうございます」
なんて言うんだもん。
ごめんねティモテ。
ふがいない&使えない《神滅覇王》で……。