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第337話 それはもちろん、朝のお祈りをしていたからです

 ドアを開けると、そこにはティモテがいたんだけど――、


「ぜ、全裸……だと……!? ご、ごくりーヌ……」


 なぜか一糸まとわぬ姿だったのだ!


 もう一度言うよ!?

 ドアを開けたら、裸のティモテがいたんだ!


 当然のようにラブコメ系S級チート『ラッキースケベ』が発動していた。

 昨日久しぶりに発動したと思ったら立て続けに今日も発動、まるで作者がその存在をずっと忘れていたのを急に思い出したかのような連発っぷりである。


 そんな全裸ティモテがいったい何をしていたかというと――、


「慈悲深き聖母マリア。今日もまた、明るく健康な朝を迎えられたことを、新たなる一歩を踏み出せることを、感謝いたします。あなたの歩みにわずかでも寄り添えるように、また喜びと平安を持って歩んでいけますように、どうか迷える私のことをお見守りください――」


 片膝立ちでしゃがみながら、両手を胸の前に組んで目をつぶり。

 ピンと背筋を伸ばして、美しい声色を奏でながら、聖母マリアに敬虔な祈りを捧げていたのだった。


 新しい一日が始まることを、聖母マリアに報告するって感じの内容だ。


 すらすらとよどみなく紡がれる祈りの言葉が、とても耳に心地よい――全裸だけど。


 いやほんと、なぜに全裸??


 もちろん両手を胸の前で組んでいるから胸は隠れているし、片膝立ちだから股間の大切なところも見えなくて、まったくもって全年齢対象なんだけれど、誰がどう見ても全裸は全裸なわけで。


 そしてどうやら。

 一心不乱に祈りを捧げるティモテは、集中していて俺の存在には気づいていないようだった。


 いまならまだ全部、無かったことにできる。

 ドアを閉めれば平穏無事な世界に回帰できる――、


「あ、マナシロさん、おはようございます」


 タイミング良く(悪く?)お祈りを終えたティモテの目が、パチっと開いたかとおもうと、軽快な朝の挨拶が飛んできたのだった。 


「お、おはよう」


 えっと……あれ?

 なんかいたって普通の挨拶をされちゃったんだけど?


 一瞬、おかしいのは俺の方なのかな?とも思ったんだけれど、


「いやいや、さすがにそれはない」


 異世界で半月ほど生活したから、もう理解はできている。

 この世界の価値観が転生前の日本に近いものであることが、疑いようのない事実だってことは。


「?」


 首をかしげるティモテ(全裸)だけれど。


 そんな常識と照らし合わせれば、全裸でお祈りしていたことにツッコまないというのは、逆に不自然にすぎるというものだろう。


「あの、ティモテ? 単刀直入に聞くんだけどさ? なんで裸なの?」


「それはもちろん、朝のお祈りをしていたからです」


「もちろん!?」

 裸でお祈りするのが『もちろん』!?


「だから裸で――」


 そこまで言ったティモテはしかし。

 何かに気付いたように言葉を切ると、下を向いた。


 下を向いて自分の姿を確認している。

 当然そこにあるのはティモテの一糸まとわぬ姿だ。


 そして顔をあげて俺の顔を見ると、また再び下を向いて自分の裸体を確かめた。

 もちろん何度見たって、ティモテが全裸であることは変わらない。


「……」

「…………」


「…………」

「……………………」


 やっとこさ状況 (アイ・アム・ゼンラ)を把握したティモテの顔が、見る見るうちに真っ赤っ赤に瞬間沸騰した。

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