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第314話 これは……いわゆるナンパというものでしょうか?

「それにしても熱心に祈っていたみたいだけどさ。やっぱ世界が平和でありますように、みたいなことを祈ってたのか?」


 思わず見とれてしまうくらいに、あれだけ一心不乱に祈っていたんだもんな。

 それはもう滅私奉公の精神で世界規模のピースフルなお祈りでもしてるんだろうな、なんて思っていたんだけど、


「ごめんなさい。私の祈りはそんな大それたものじゃないんです」

「あ、そうなんだ」


 ティモテから返ってきたのは意外な言葉だった。


「私の祈りはただ、聖母マリアの前で邪念を捨てて自分の心と向き合うためのもの。穢れた心が少しでも清らかになるように――そんな自分勝手なものですから……」


「そうなのか……なんか意外だな」


「失望させてしまって申し訳ありません」


 失望というか、それ以前にそもそも論として、ピュアすぎるティモテが穢れた心を持っているようには到底見えないんだけどな……?


 まぁでも、初対面の俺があまり立ち入ったことを言ったり訊いたりするのは、筋違いというものだろう。

 ずけずけと何も考えずに踏み込んでは、痛い目を見てる精霊さん(ただし反省はしない)じゃあるまいし。


 ――だけど。


 申し訳ありません――そう寂しそうに微笑んだティモテは、触れたら壊れる砂の城のように儚く感じられて。


「ティモテはこの後、暇だったりする?」

 俺は思わず、そう聞いてしまったのだった。


 聞いてしまってから――、


「これは……いわゆるナンパというものでしょうか?」


「だよね! どこからどう見てもナンパだよね! 出会って速攻でナンパしちゃってるよね!」

 ――ということに気付いてしまう。


 ヤバい、今のはさすがにチャラすぎてヤバい。

 自分ですらそう思うんだ。


 聖母マリアに仕える敬虔なシスターのティモテにしてみれば「なんじゃこの浮ついた軽薄なオスは」ってなもんだろう。


 ティモテは少し考えるように黙り込んでしまい、会話もピタッと止まってしまう。


 気が付くとチャラ男系S級チート『出会って4秒でナンパ』が発動していた。

 好みの女の子を見ると速攻で口説いちゃうチートである。


 ……そういうことするのやめてくれない?

 俺の評価が下がっちゃうでしょ!?


「今のはその、なんていうか――気分を悪くしたらごめん」


 俺は最速で謝ることにした。

 こんなエッチなシスターさんに悪印象を持たれるとか、そんなの人生大損だもの!


「ごめんなさい、そういうつもりではなかったのですが……そうですね。この後は時間がありますので、良ければご一緒させてください」


「ほんと!?」

 まさかのナンパ成功しちゃった!?

 チャラ男系チートのおかげ?


 あ、いやナンパするつもりではなかったんだけどね?

 ……ほんとだよ?


「実はここに着いてすぐに教会でお祈りを始めたので、今ちょっとおなかが減っているんです」


 その言葉と同時に、


 グーー。

 おなかが可愛らしく鳴ってしまい、


「というような感じでして……ごにょごにょ」

 見る見るうちに、顔を真っ赤にしちゃったティモテだった。

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