第310話 視察
朝ごはんの席で、サーシャとはただ裸で抱き合っていただけ(?)で何らやましいことはなかったということを、ウヅキに必死に、それはもう必死に説明して、誤解を解いたあと。
俺は衛星都市となった旧アウド村をプラプラとあてもなく歩いていた。
仕事熱心なサーシャは今日も朝から現場監督として都市開発にいそしんでいた。
なんでも建設現場監督の国家資格を持っているらしい。
「……なんていうかその、現場監督ってお嬢さまの取得する資格じゃなくない?」
「現場監督は辺境では当然のスキルですの。それに最前線で指揮をとるのは、誉れ高きトラヴィス家の伝統でもありますわ」
「うぐっ……あ、うん、そうだね……」
意識の高すぎる回答が返ってきて、返答に窮する俺だった。
こう見えて、サーシャは実戦経験豊富なマルチなお嬢様なのである。
ウヅキは家主として新サクライ家の仕様を細かくチェックするそうで、巫女エルフちゃんは「お手伝いしますー」とついていった。
二人ともご奉仕精神にあふれた万能型メロンぱいフレンズなので、通じるものがあるのかもしれないな。
《神焉竜》は朝ごはんを食べるとすぐに、
「少しばかり身体が重いのじゃ。部屋にこもって養生するのじゃ」
そう言って部屋に引っ込んでいた。
本人はかたくなに否定していたものの、どうも精霊さんとの戦いで受けたダメージのせいで本調子ではないらしい。
それが証拠に、
「ふーん、なんだかよくわからないけど、お大事にね!」
かけらも空気を読まずに声をかけた精霊さんが、
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁっっっ!! 心配してあげたのに、なんで!?」
ガチギレした《神焉竜》に激しく折檻されていましたので……。
シロガネは、
「今日は警備の拠点を作ってくるのだ! 大船に乗った気でいるのだ!」
そう言ってどこぞに行ってしまった。
なんだかんだでSS級、放っておいても大丈夫だろう。
ハヅキは俺の新しい肖像画を仕上げるべく画伯モードに入り、トワも一緒にお絵かきをしている。
ちなみにハヅキの頭の中には俺のすべてがインプットされていて、基本的にはもうモデルは必要ないらしい……。
まさかの用なしといわれてしまい、ちょっとしょんぼりな俺だった。
……はい、そうです。
俺だけすることがなかったので、大絶賛建設中の衛星都市アウドを当てもなく歩いていたんです!
「……いや違うな。これは《神滅覇王》としての視察任務なんだ。本拠地たる衛星都市アウド(現在建設中)を見て回るのはこれはもはや義務であるからして、決して、決してニートで暇しているわけではないんだ」
……だよね!?
「アンタさっきからなにうだうだアホなこと言ってんのよ? 自分の人生なんだからもっと胸張ってシャキッと生きなさいよね!」
俺が空に向かって言い訳していると、すぐ傍からそんな声が飛んできた。
一緒についてきていた精霊さんだ。
きっと精霊さんも暇なんだろうな、俺と一緒で。
普段は「なんじゃこいつ偉そうに!」って思うこともある精霊さんの上から目線な正論も、今は同じ昼間からふらふらするフレンズとして、すごく心地がいいよ……。
今日も今日とて浮いてるだけで何もしないニート精霊さんに、そこはかとなくシンパシーを感じる俺だった。
「ふむふむ、ディリンデンほどじゃないけどここも小さいけど朝市が立ってるな……ああそっか、建設作業員向けに食事を提供する必要があるからサーシャが呼んだんだな」
とまあ、ほらね?
ちゃんと視察っぽいことしてるでしょ?
「――そういや教会も建てたって言ってたっけ。せっかくだから見ていくか」
教会とはつまりマリア=セレシア教会のことだ。
アウド村から衛星都市アウドに昇格するにあたって、大陸中で信奉されているマリア=セレシア教会の支部ができるんだそうな。