第302話 衛星都市アウド
「そうですわね、では順を追って説明いたしますの。まずこのあたり一帯を指す『東の辺境』が近年成長著しいことは、前にもご説明したかと思いますけれど――」
「ああうん、聞いたよ。それが理由で、東の辺境の経済を一手に握っているトラヴィス商会が、帝都三大商会の一つスコット=マシソン商会に目をつけられたんだよな」
「セーヤ様、その節はご助力ありがとうございましたの」
サーシャがぺこりと頭を下げた。
「気にすんなって。なにせ俺たちは仲間だからな!」
「はい、婚約者ですの!」
言って、サーシャは満面の笑みを見せた。
おう、この笑顔ってば可愛すぎてやばいな……。
サーシャは仲間って言葉を使うとき、それはもう嬉しそうな顔をするんだよな。
ほんと仲間思いのいい子なんだな、サーシャは。
「少し話がそれてしまいました、ごめんなさいですの。しかしながら経済成長に伴って、ディリンデンの人口増加は大きな都市問題になっていましたの」
「あー、まぁそういう問題も出てくるよな、当然……」
経済が活性化するに比例して人口が増える。
そして古今東西、人が増えると問題になるのがその人たちが住む家の確保なのだ。
これに失敗するとスラム街や路上生活者が生まれてしまい、治安悪化に直結してしまうからだ。
「そこでかねてより、ディリンデンからあまり離れていない郊外に衛星都市を建設するという計画が持ち上がっていたのですが――」
そこでちらっとサーシャが《神焉竜》を見た。
「先日、ディリンデンが大きな被害を受けた一件で――」
「のぅ小娘。なぜ今、妾を見たのじゃ?」
《神焉竜》の目が威嚇するようにすっと細くなった――!
「だからそうすぐキレるなって!?」
そんな《神焉竜》を慌ててぎゅっと後ろから抱きしめて押しとどめた俺だった。
なんかもう既にキレるタイミングを察して、即反応できるようになってる感ありますね!
もはやこれに関しては知覚系S級チート『龍眼』が反応するより先に動く自信があるよ。
日々の成長を実感する今日この頃です。
「おおっ、期せずして主様にぎゅーされたのじゃ……むふふ……」
そしてここぞとばかりに、甘えたような体重を預けてくる《神焉竜》。
《神焉竜》もまんざらじゃないみたいだし、うんまぁとりあえずはこれでオッケーだ。
俺は《神焉竜》を捕獲したままで、ニコッと笑って話の続きを促した。
「こほん。一時避難している住人の家屋再建にはまず、前段階として大量のがれきを片付けなければなりませんの」
「あ、はい。そうですね……まったくもっておっしゃる通りです……」
今の今まですっかり忘れちゃってたんだけど、その大量のがれきの山を作った責任の一端は街中でガチバトルを繰り広げた俺にもあるわけで、正直耳が痛いです……。
「ならばいっそのこと、前倒しで衛星都市計画をスタートさせて、避難民を新たな都市に移住させては、ということになりましたの」
「ああ……そういうことね。うん、確かにそれなら一石二鳥だ」
「そしてこのアウド村は街道沿い&ディリンデンから約10キロと立地条件が非常に優れていることから、かねてより調査が進んでおりましたの。というわけでこれを機に『衛星都市アウド』として開発することになったわけですの」
――とまぁ、こういうことのようだった。
「あ、もしかしてお祖父ちゃんが呼ばれたのって――」
合点がいきました! って感じでウヅキがポンと手を打った。
いちいち動作がかわいらしいウヅキに、俺もちょっとほっこりである。
「あーそういや、ミステリーツアーに行く前にグンマさんがディリンデンに呼ばれたから家を空けるって言ってたっけ。この話をしに行ってたんだな」
「そういうことですわ。こたびの一件に関して村長の許可もとれたことで、善は急げでトラヴィス商会と行政府が大々的にタッグを組んで、復興の象徴として衛星都市アウドの開発をスタートさせたというわけですの。もちろん既存の住民の方には格別な配慮をいたしますので、その点はご安心くださいませ――」
「はぁ……そっか……俺の知らないところで、そんなことになってたんだな……」
テレビの国会のニュースとかで「総合的に勘案する」って答弁を時々聞くけどさ。
ああいうのって中身のない答えで質問をかわすための方便だと思ってたんだけれど、
「なんだかんだで為政者=統治する側は、色んなことを考えてるんだよな……」
今更ながらにしみじみ納得した一般庶民の俺だった。
とまぁそういうわけでだ。
アウド村という名前は地図から消え――これよりここは『衛星都市アウド』とあいなったのだった。