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第295話 雨は嫌い、だいっきらい!

 話は少し戻って。


 仔猫を引き取ったミナトと別れたわたしは、


「やっと来たわね……」

 遅れに遅れてやっとこさ到着した馬車にむかって、肩を怒らせて歩いていった。


 するとなぜか御者の隣にアイリーンの姿が見えた。


「? なんであの子、馬車の中じゃなくて、わざわざ雨が降ってるのに外に出てるわけ?」


 本降りの雨のなか、外にいたんだからアイリーンはずぶ濡れだ。


「ま、あの子がおかしいのはいつものことか……」

 わたしは深く考えるのをやめた。


 そんなことより、これからするオシオキのことを考える方がよっぽど楽しいもんね。


「うふふ、どうやって詫びを入れさせようかしら……ま、なにしても許さないんだけど(笑) 久しぶりにいびり倒してやるんだから……」


「遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした!」

 わたしは、大きく頭を下げるアイリーンにまずは一言ガツンと言ってやろうとして、


「なんでそんなに泥だらけなの?」

 思わず聞いてしまった。


 だってセレシア家のメイドである証、由緒正しきミニスカメイド服がそれはもう泥にまみれて汚れていたんだもん。


 よく見ると御者の着ている雨よけコートも、泥を落とした跡があるみたいだし。


「実は、かくかくしかじかでして――」


 …………

 ……


「……つまり名もなき旅人が倒木に挟まれてしまっていて、それを助けていたせいで遅れたと」

「左様でございます」


「びっしょり濡れて泥まみれなのもそれが原因と」

「左様でございます」


 むかーー!!(怒)


「あのね、わたしが待たされた時間とその旅人の命と、どっちが大事なわけ? 旅人の一生、わたしの2秒なのよ! よく覚えときなさい!」


「申し訳ありませんでした……」


 アイリーンがこれでもかと深々と頭を下げた。

 当然だ。

 勝手な判断をした結果、(あるじ)を不快にさせたのだから。


「……で、そいつは助かったんでしょうね?」

「はい、骨折だけで命に別状はありませんでした」

「ならいいわ」


「……お嬢さまはやっぱりお優しいです」

「ん? なにか言った?」


「いいえ、なんでもありません♪」


 アイリーンがなにを言いたいかよくわかんないんだけど、わたしの時間を奪ったんだもの、せめて生きてくれてないと、わたしの時間が無駄になっただけになるじゃん!

 そんなの本気で許せない!


「ああそれと、なんで外に立ってたのよ? あんた泥と雨で酷いことになってるじゃない」


「それはもちろん、お嬢さまの過ごされる馬車の中を、私が入ったせいで雨水や泥で汚すわけにはまいりませんので」


 ……なんなのこいつ。

 ……本物の馬鹿でしょ。


「……来なさい、遅れたオシオキよ」

 しかし理由はどうあれミスをしたのだから、わたしが怒るのは当然なのだ。


 わたしはすぐ目の前まで来たアイリーンに、


 ぴこん。

 と、軽くおでにこデコピンしてやった。


「お嬢さま、これは……」

「ふん、今回だけは特別にこれで不問に付してあげるわ。でも2度目はないからね」


「ですが……」

「わたしに同じことを2度言わせないで?」


「失礼いたしました。お心(づか)い、感謝いたします」


「じゃあ帰るわよ。ほら、つっ立ってないでさっさと中に乗りなさい。風邪を引くでしょう。専属メイドに風邪を引かれてうつされでもしたら、わ・た・し・が困るんだから」


 あーもう!

 調子狂うな!


 だから雨は嫌いなんだ。


 お気に入りの靴は汚れちゃうし、せっかくセットしたゆるふわの髪がぺたんと寝ちゃうし、柄にもないこと言っちゃうし。


 ほんとさいあく、雨なんてだいっきらい!

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