第293話 こいつモノホンのキチ○イじゃん!!
「こうなったら最後の手段よ……!」
わたしのいびりに不屈の闘志でもって、謎の異常耐性を見せるメイドのアイリーンにしびれを切らしたわたしは、最終手段にうってでることにした。
「お呼びでしょうかお嬢さま」
いきなり呼びつけたアイリーンに、
「アイリーン。あなたはクビよ。荷物をまとめて今すぐ出ていきなさい」
ふふん、と。
勝ち誇った顔でわたしは言ってやった。
さすがのオリハルコンメンタルのこの子も、いきなりのこれには心が折れるでしょ(笑)
必死に泣いてわたしにすがってくるはず。
今までの分を全部乗っけて徹底的にいたぶってやるんだから!
「承知しました」
「あら? わたしがあなたを解雇するのに理由なんていらないの。知らなかった? ――って、ええっ!? 『承知しました』!?」
「はい、承知しました」
「え、あの、今なんて?」
「承知しましたと申し上げました」
「あ、そう……」
え、えらく素直に聞きいれたわね……。
まぁ仕事はできるけど、いびり甲斐ゼロでちっとも楽しめないから、辞めてくれるならそれはそれでいいんだけど……。
「それでは最後のお勤めとして腹を切ります」
「…………はい?」
言うが早いかアイリーンはメイド服のブラウスと肌着を巻き上げると、どこからか刃渡り30センチの短刀をとり出した。
「あなた今それどこから出したの? そもそもメイドが何でそんなもの持ってるの? っていうか腹を切るって――」
「それでは御免――」
両手で逆手に持った短刀を自分の腹に思いっきり突き刺そうとしたしたアイリーンを、わたしは必死に止めた。
ちょお必死に止めた。
まじのまじのマジ卍で止めた。
「ちょ、ちょっといきなり何してんのよ!!??」
焦りまくるわたしに、
「お嬢さま、なぜお止めになるのですか?」
心底分からないって顔して首をかしげるアイリーン。
「いや止めるでしょ!? これが普通でしょ!?」
わたし全然おかしくないよね!?
「分かりました」
「わかってくれた? あなたのそういう物わかりがいいところ、わたしは悪くないとおもう――」
でもほっとしたのも束の間だった。
「では裏庭で腹を切ります」
「…………はい?」
「ここで腹を切ってはお嬢さまのお部屋が血で汚れてしまいます。専属メイドとしてあまりに浅慮でありました。ですので人知れず裏庭で腹を切ります」
「全然わかってないわ! あなた全然わかってないわ!?」
「ご安心くださいませ。お嬢さまのお役に立てない無能はいさぎよく腹を切りますので、お嬢さまには露ほどもご迷惑はおかけいたしません」
「だからなんで腹を切るの!? その時点でわたしちょお迷惑なんだけど!? さすがのわたしもそこまでいくと寝覚め悪すぎなんですけど!? まずは切腹から離れてちょうだい!?」
「??」
あなたはなんでそこで不思議そうな顔をするの?
本気で意味わかんないんだけど!?
っていうかやばいよ、やばすぎるよ。
だってだって、
「こいつ超鋼メンタルなんじゃくて、モノホンのキチ○イじゃん!!」
~~後日。
わたしは雇止めを撤回したアイリーンの、それはもう見事に完璧な仕事っぷりを何をするでもなく眺めていた。
気分屋全開で少々いびったところで、アイリーンには暖簾に腕押しできれいさっぱり効果はないからだ。
「むしろなんか喜んでるような? わたしの気のせいかしら……」
かといって強引に辞めさせようとすると間違いなくこいつは腹を切る、なんの躊躇いもなくやりやがる。
「はぁ……」
完全に手詰まりだよ……。
「…………どうしてこうなった?」
ねぇねぇそこのあなた。
ちょうどいいわ。
参考程度にちょっとあなたの意見を聞かせてくれないかしら?