第288話 あんたの留学の夢、このわたしが叩きつぶしてあげるわ……!
「ここまでの定期考査、マリア様は全教科で1位ですわ!」
「なんてすごいのかしら!」
「さすがはマリア様、憧れずにはいられませんわ」
「あはは、みなさん買いかぶりすぎですよ。今回はちょっと試験のヤマがあたっただけですから」
――とかなんとか言いつつ、わたしは内心ちょお気持ちよくなっていた。
みんなから賞賛されているから?
ここまで全教科1位だから?
ううん、そんなことで喜ぶような器の小さいわたしじゃないわ!
気持ちよくなっている理由、それは――、
「でもこれだとここまで全教科2位のミーシャさんの留学は……」
「留学の条件は、総合で5位以内。さらにどれかの科目で1位を取ることですものね……」
「マリア様にグランドスラムを達成をしてもらいたい気もありますけれど、ミーシャさんにも留学はしていただきたいですし……」
今回の試験には、クラスメイトであるミーシャの留学がかかっていたのだった。
「それなら大丈夫ですよ。わたしが全教科1位のグランドスラムなんてそんな恐れ多いですもん。それに最後に一つ残った教科は、ミーシャさんの大得意な数学ですから。文系型のわたしなんかではとてもとても――」
なーんてね!
なーんてね!!
くっくっく。
この試験のために毎日睡眠時間を削りに削り、ちょお有名な家庭教師を教科ごとに雇って、それはもう死に物狂いで勉強したんだから……!
そのせいで、ここ一週間くらいはお肌のコンディションがズタボロのさいあくだったんだけど。
荒れたお肌や目の下の隈をメイクで隠すのがほんと大変だったよ……。
でもでも!
おかげでここまで全教科1位、アーンド数学も全て完璧に解いたもんね!
つまり数学は100点以外ありえないわ・け!
ミーシャ。
あんた天才だか何だか知らないけど、ちやほやされて調子にのってんじゃないわよ……!
あんたの留学の夢、このわたしが完膚なきまでに叩きつぶしてあげるんだから……ざまぁ!!w
~~後日。
「ミーシャさん、留学おめでとう!」
「あちらに行かれたら文通してくださいな」
「わたしもわたしも!」
「ありがとうみんな! ぜひ全員と文通させてもらいたいな!」
留学が決まったミーシャを中心に盛り上がっているクラスメイトを遠目に、
「くっ、なんでこんなことに……!!」
わたしは悔しさのあまり、返ってきたばかりの数学の解答用紙をぐしゃりと握りつぶした。
というのも――、
「0点……!!」
最後の数学の結果、わたしはまさかの0点だったのだ!
「まさか解答欄が全て1つずつずれていたなんて……!」
毎日明け方まで及んだ試験勉強。
そこからきた睡眠不足による痛恨のミス……!
最後の最後で、わたしとしたことがなんという失態……!
屈辱と自分への怒りに打ち震えていたわたしのところへ、
「マリア様」
当のミーシャがやってきた。
「……なにミーシャ、負け犬のわたしを笑いにきたの?」
あんたってば最後の最後まで、本当にイケ好かない女ね……!
「? マリア様のおかげで留学できるから、そのお礼に来たんだよ。本当にありがとう」
「お礼を言われるようなことをした覚えはないけれど? それとも嫌味かしら?」
勝ったからってこの女……!
上から目線で調子にのりやがって!
調子にのりやがって……くうっ、悔しい!
「もう、マリア様は本当に素直じゃないんだから。わざと0点をとってボクが留学できるように配慮してくれたんだろ? この恩は絶対に忘れない。将来何が何でも返してみせるから――」
ミーシャがなにごとか言っていたけど、心底イライラしまくり&奥歯をギリギリ言わせていたわたしは、もはやそんなもんぜんぜん聞いちゃあいなかった。
「はいはいそうですね、なんとでも言えばいいわ」
もはや友達ヅラするのも限界に近かったわたしは、だからちょお投げやりに返事をすると速足でその場を後にした。
ばか、ばか、ばか! わたしのばか!!
わたしの頭の中は、痛恨のミスを犯した自分の失態をののしる声、ひたすらそれだけでいっぱいだった。
「さすがマリア様、人としての器が違いますわ!」
「しかもそれを感謝されても、素知らぬ風を装って……」
「マリア様と同じクラスで私、本当に幸せですの!」
周囲がなんか言っていたけど、当然それもわたしの耳には届かなかった――。