第286話 なんだかフレーバーが気に入らないわ、別のにして?
「ウェルシア、紅茶はまだかしら?」
「た、ただいまお持ちします!」
「この紅茶ぬるいんだけど?」
「お嬢さまは猫舌なのでぬるい方がお好きと――」
「今は熱いのが飲みたい気分なの!」
「申し訳ありません! すぐにお取替えいたします!」
パタパタと走り去っていくメイドのウェルシアを見て、わたしはにんまりといやらしい笑みを浮かべた。
先日辞めさせたナスターシャの代わりに、新たに雇ったうら若き美少女メイド。
超がつくほどの可愛いこの少女を、わたしは事あるごとにいびり倒していた。
今も紅茶の淹れ方で、正解のない難癖をつけてやったところである。
どんな淹れ方をしても、その逆を言って苛めるだけの簡単なお仕事(笑)。
美少女は嫌いだけど、美少女をいびって楽しむのは大好きなわたしだった。
みんなもこの遊び、好きだよね?(笑)
だってウェルシアときたら平民と大差ない下級貴族のうまれのくせに、ノーメイクでめちゃくちゃ可愛いくて、しかも性格もいいとかいう、ほんとムカつくムカつくムカつく×無限!な女なのだ。
だから――、
「なんだかフレーバーが気に入らないわ、別のにして?」
「も、申し訳ありません! すぐに淹れなおします!」
いっちょいびり倒してやるか、ってなもんで、こうやって事ある癖に難癖をつけているのだ。
今日も隣国の第3王子――優しいだけが取り柄の冴えないモヤシ陰キャが来るんだけど、そんなのの相手するのはかったるいから、合間合間にこの子をいびって暇つぶしする予定(笑)
「まったくウェルシア、いつまでかかってるの! ほんと使えないグズね」
「申し訳ありません! もう少々お待ちくださいませ!」
~~後日。
隣国の第3王子とウェルシアの婚約が発表された。
なんでも甲斐甲斐しく走り回るウェルシアの姿を見て、第3王子が母性を感じて一目惚れしたらしい。
「第3王子チョロすぎだろ、常識的に考えて……あとマザコンかよ……」
あんま好みのタイプじゃないから羨ましくはないけど、ウェルシアがいびれなくなるのは残念だなぁ……。
ま、ウェルシアからはなんかめっちゃ感謝されて、我がセレシア家はというと隣国の王家と深い縁を結ぶことになったみたいで?
ぶっちゃけその辺はちっともキョーミないんだけど、お父さまがとっても喜んでいたから、それはよかったかな。
「あ、でも王室が大々的に開く結婚式に、貴賓として呼んでくれるのだけは楽しみかしら?」
きっとセレブがいっぱいいるからね!
いい出会いとかあるかも?
「そうだ、新しいドレスも買ーおうっと♪ ウェルシアの元雇い主として、これは気合い入れないとだね!」
「それにしてもお付きメイドが隣国の王室入りとは。しかも性格が良いと評判の第3王子の正妻ですぞ。これはマリア様も実に鼻が高いことですな」
「……ほんとね」
「マリア様?」
「…………ほんとどうしてこうなった?」
ねぇねぇそこのあなた。
ちょうどいいわ。
参考程度にちょっとあなたの意見を聞かせてくれないかしら?