第273話 愛の証
次々と俺の中へと流れ込んでくる《神焉竜》の黒粒子。
黒粒子は俺にとって本来は異物だ。
けれど、今の俺には全くと言っていいほどに違和感が存在しなかった――!
「まるで《天照》がそっくりそのまま2つになったみたいだ……! 黒粒子を思うとおりに、自由自在にコントロールできる……! 力がみなぎってくる……!」
単に2つのエンジンがあるというわけではない。
《神焉竜》によって、完全に俺専用へとカスタマイズされた黒粒子。
それは《神滅覇王》本来の力である《天照》が生み出す黄金の粒子と結びつき、重なり合い、溶け合い、混ざり合ってゆくのだ――!
1+1が2ではなく、3にも4にも5にもなっていく果てしない高揚感。
膨大な黒粒子と張り合うようにして、《天照》も唸りを上げながら黄金の粒子を吹きだしてゆく――!
「そんなっ!? 黄金と漆黒、2つの相反する正反対の粒子が、全く干渉せずに合力されるなんて!? 信じらんない、そんなのあり!?」
それを見て、《精霊神竜》が今までで一番の驚きを見せ――、
「ありもあり、大ありなのじゃよ――なぜならば、これこそが“愛の証”なのじゃからの!」
「…………あ…………い?」
それを聞いて、《精霊神竜》が今までで一番ぽかーんとした。
「ふん、独り身の子供部屋精霊には到底分からんじゃろうの。妾と主様の愛が、この奇跡のシナジーを起こしたということを――」
「えっと……?」
突拍子もない発言に戸惑った《精霊神竜》が、救いを求めるように俺へと視線を向けてきた。
でもごめん。
正直言って、俺もこの展開にはちょっとついていけてないですね……。
「分からんじゃろうの……一人ぼっちの貴様には――哀れで惨めで孤独な便所飯で社会の屑な弱っちぃミジンコにはの……」
「あの、そこまで悪しざまに言わなくてもよいのでは……?」
弱っちぃミジンコって……強いミジンコがいんのかよ?
そしてこの怒気をはらんだ言いよう。
「さっき一度負かされたのを、間違いなく根に持っているな……」
っていうか技術的にどうとかじゃなくて、ぜんぶ愛の奇跡で押し通しちゃうの?
《天照》の波長に合わせるようにかなり細かく調整してくれてるのを、全部「愛」の一言で済ませちゃうの……?
愛ってすげーな。
まぁそれはそれでいいんだけれど、
「うん、終わった後の関係性とかちょっとだけ不安かな……!」
一抹の不安を抱えた俺をよそに、《神焉竜》と《精霊神竜》。
2体のドラゴンのやり取りは続いていく。
「あ、アタシだって好きでぼっちなんじゃないもん! 出会いさえあれば、出会いさえあれば……自由さえ、あれば――」
「やれやれ、ぼっちはたいていそう言うのじゃ。自分は悪くない、社会のせいだのなんだのぴーちくぱーちく喚くのじゃ。ん……? 時に主様、どうしたのじゃ? さっきからやけに納得顔でうんうんとうなずいておるようじゃが」
「――はっ!?」
……し、しまった。
これまで長きにわたってずっと童貞を守り通してきた、専守で防衛&絶対の防御を誇る難攻不落の麻奈志漏・ぼっち・誠也としては、《精霊神竜》に120%共感してしまったよ!?
「主様は時おり妾の想像もつかぬ心の境地におるのじゃ……まぁそれは良い、つまり何が言いたいかと言えば――」
《神焉竜》はそこでいったん言葉を切ると、その凶悪な眼でもってぎろりと《精霊神竜》を睥睨して、言った――。
「ぼっち小精霊めが、主様の前で妾に大恥をかかせおってからに……とっとと死ぬがよいのじゃ! 今から主様が妾の力を使って、貴様を塵と残さず消してくれるからのぅ!!」