第271話 鋼メンタルの煽り人
「ふむ……確かにここは精霊原子が異様なほどに濃いのじゃ……どうやらあれの言っていることはハッタリでは無さそうじゃの」
「ってことは今度こそ、本気の本気で最終決戦だな」
巫女エルフちゃんの超絶転移術から始まった精霊さん――《精霊神竜》との戦い。
それもついにクライマックスを迎えたわけだ。
「それにじゃ。言動が綿あめのように軽すぎるせいで、ついつい見過ごしそうになるのじゃが――ああ見えて《精霊神竜》めも相当に疲弊しておるのじゃ。一番得意なフィールドで、ここらでいっちょ決めてやろうと考えるのは当然の判断じゃろうて」
「ああそうか。あの軽ーいノリには、相手に自分の状態を気取られないためのカムフラージュの意味もあったのか……」
言って見れば、ポーカーフェイスの逆バージョンだ。
常にハイテンションでいることで、それ以外の情報を見せないようにしていたってわけだ。
「やるな精霊さん、見直し――」
「――いやあれは完全に“素”なのじゃ。鋼メンタルの煽り人――いや煽り精霊なのじゃ」
「だよね……っ!」
よかった!
半信半疑ながらも、
「精霊さんの深謀遠慮すげー!」
って納得しかけちゃったよ!
よかった、ほんとよかった!!
そして。
俺たちが色々と納得したのを見届けた《精霊神竜》は――ちゃんと俺たちの会話が終わるの待ってくれるのが《精霊神竜》らしい――、
「はぁぁぁぁぁああああああああああああ―――――――――っっっっっ!!!!」
空中で完全静止すると、全身を震わせながら猛烈にパワーを溜めはじめた――!
水、火、風、闇、光――5大元素と言われる周囲の精霊原子が、それぞれ青、赤、緑、黒、白の輝きを激しくきらめかせながら、《精霊神竜》へ向かって次々と集まってゆく――!
そして《精霊神竜》によって精霊原子が急激に吸い寄せられたことで、
「くぅ――っ!」
大気が、空気が、ピシピシ、ビリビリと振動し始めていた――!
「まさかこれほどとはのぅ」
「ああ、やるな、《精霊神竜》――! 精霊の王たる神竜の、これが全力全開ってわけか――!」
最強の敵を前にして、
グォン!
《天照》が一際大きく、吠えるように黄金粒子を燃え上がらせた。
《精霊神竜》に収束する膨大な力を感じ取って、俺の中の《神滅覇王》が歓喜の声を上げたのだ。
《神滅覇王》はやっと出番が来たとばかりに、俺の心の中で急激にその存在の密度を増してゆく――!
――が、しかし。
「《天照》は現状6、7割がいいとこか……」
今の俺は――《神滅覇王》は全力には程遠かった。
物質世界でならまだしも、アストラル界で5倍ブーストされたうえに、ここはその中でも最も精霊原子が濃い『精なる場所』。
それこそ不利をあげればきりがない。
「でもま、四の五の泣き言を言っては、いられないよな――!」
言って、俺は右手に握った《ゴルディオン・ランス》を軽く一振り。
「俺の中の《神滅覇王》だって戦いたがってる――だけじゃなく、こうも言っている。これくらいのハンデがあった方が、むしろ興が乗るってな――!」
最強不敗の《神滅覇王》が勝負を挑まれたんだ。
たとえどんな状況にあろうとも――受けない理由は存在しない!