第270話 案の定っていうか?
最初に《ゴルディオン・ランス》の直撃を受け。
その後も不可視の斬撃やドラゴン・ブレスを被弾して、ぼろぼろになりながら。
それでも、それでも《精霊神竜》は、ずっと反撃のチャンスをうかがっていたのだ――!
完全に不意を打った――かに見えたその速射攻撃は――、
「いい加減、貴様のそのやり口にも慣れてきたのじゃ、のう主様」
「案の定っていうか? ま、さすがに読めてきたかな」
「うぇっ!? めっちゃあっさりかわされた!?」
俺と《神焉竜》にとっては、ぶっちゃけ織り込み済みだった。
5本のイカヅチの柱がイバラのように絡み合いながら向かってくる、迫力満点の雷系最強精霊術『精霊滅殺雷振破』。
しかし《神焉竜》はそれを、
ひょい!
っとなんなくかわしてみせる。
「その技、既に3度目なのじゃ。竜の王たる妾に、同じ技が――しかも来ると予測できていたものが――3度も通じるなどと。よもやそのように思うておるわけではあるまいな?」
「く――っ! 偉そうに! なによ!」
得意の不意打ちが不発に終わって、《精霊神竜》がものごっつい悔しそうな表情を浮かべた――んだけれど。
それを見た俺の背中を、何とも言えないもやもやとした違和感が駆け抜けた。
「ん……?」
……なんだ?
確かに悔しそうな表情なんだけれど――、
「全体的に嘘くささが無きにしも非ずというか。どこか演技っぽいわざとらしさがするようなしないような――」
気のせいか……?
そんな俺の独り言を拾ったのは――、
「ふむ、これは……どうやら誘い込まれたようじゃの」
「え……?」
「いやはや、なかなかどうして。つまりはここまでの全てが伏線だったという訳か。あいかわらず欺くということにかけては、超一流じゃの。ほんに一筋縄ではいかん小精霊なのじゃ」
「ふっふーん、よく気付いたわね! でもでも、ちょーっとばかし、遅かったみたいね!」
なんとはなしに眼下を見下ろすと、ちょうど俺たちの真下あたりに巨大な神殿が立っていて――、
「アンタもようやっと気づいたみたいね! ここはね、精霊殿の最奥、精霊神殿よ!」
「精霊神殿……!」
だって!?
「ここはね、アストラル界でも精霊原子が最も濃い『精なる場所』! つまりは精霊が一番力を発揮できる場所だってことっ!!」
「精なる場所、ピクシー・ホロウだと!?」
「そしてここでなら! アタシは深淵なる究極潜在奥義を使うことができるのだ……!」
「なっ、深淵なる究極潜在奥義――だって!?」
まだそんな奥の手を隠していたのか……!
「アタシもいい加減バテてきたのよね! 封印されし《精霊神竜》が、まさかホームのアストラル界でここまで苦戦させられるなんて、思いもよらなかったし! アンタたちが無慈悲に攻撃してくるから身体中が痛いし!」
そう言う《精霊神竜》の身体は、煌めく虹色の身体はあちこちがすすけ、オーラのごとく立ち昇っていた極光も、今は力なく明滅していた。
「ってわけで! 今からここでガッツリと決着をつけてあげるから、覚悟することね!」