第27話 最強S級チート『剣聖』
「命の恩人であるセーヤさんを置いて、わたしだけ逃げるなんてできません!」
そう言ってテコでも動かない決意を示すウヅキと連れ立って、俺は村の入り口へとやってきていた。
眼前には既に妖魔の大群がひしめいている。
「おーおー、確かに100体以上いるみたいだな」
「本当にこんな数の妖魔が……これ、多分群れごと来てます……こんなの、いくらセーヤさんでも、やっぱり勝てっこありません!」
「それはやってみなくちゃ分からないだろ? それに群れごとってんなら話は早い。これを全滅させたら一件落着ってことだ……ってなんか、やたらでかいのが1体いるな」
妖魔の群れの中で一際目を引いたのが、身の丈3メートルはあろう巨漢の妖魔だった。
「そんな……あれはA級妖魔のヤツザキトロールです!」
「A級……ってことはつまりあいつがボス猿ってことか」
「猿なんて可愛いものじゃありませんよ……ヤツザキトロールは非常に高い回復力をもっていて、少しくらいの傷ならその場ですぐに治ってしまう、持久力に優れたやっかいな妖魔なんです」
「つまり倒すなら即死させないといけないってことか。にしてもウヅキは妖魔に詳しいんだな」
「このあたり東の辺境は。魔物の住処である南方の暗黒大陸に比較的近いので、妖魔に対する教育と備えを怠ることはありませんから」
「魔物の住処、暗黒大陸か……」
なんか一気に異世界バトル物って感じがしてきたな。
俺はモテモテハーレムをやりたいだけなので、個人的にあんまりその要素はいらないんだけども。
「でも下位のはぐれ妖魔ならまだしも、上位種のA級妖魔が暗黒大陸から出てくるなんて、普通はないことなんです」
「それは、なんでなんだ?」
「帝国の誇る騎士団はA級妖魔相手でも引けを取りませんから。妖魔だって死にたくはありません。人間と妖魔はある程度住み分けをすることで、ずっと不干渉のままやってきたんです」
「それなのに、出てきたってことは、何か理由があるのかもな」
「そこまではわかりませんが……」
「うーん、でもせめて1ケタ違えば、なんとかなったかもしれないのにな」
「10体だって普通の人は倒せませんよ。セーヤさんは特別なんです――だから今からでも遅くありません、逃げてください。セーヤさんはこんなところで死んじゃダメな人です」
凛とした表情で俺を見上げるウヅキ。
いつもの可愛い笑顔も素敵だけど、こういうきりっとした顔も実に絵になるな。
だが、ま、
「ああ、違う違う。逆だよ、ウヅキ」
ちょっと認識に齟齬があるみたいだ。
「……逆、ですか?」
こてんと可愛く首をかしげるウヅキ。
「1ケタ違えばなんとかなるって言ったのはさ、せめて1000体でもいれば俺といい勝負できたかもしれないのにな、ってそういう意味だ」
「……ふぇ?」
ぽかんとしながら目をぱちぱちと瞬かせるウヅキは、それはもう可愛かった。
だが今言ったことは誇張でもなんでもない、ただの事実確認だ。
今の俺ならこの程度の相手、戦わずとも結果は見えている。
なぜなら日本刀を手にしたことで、戦闘系S級チート『剣聖』が発動したからだ――!
そして発動した瞬間にこうも理解した。
『剣聖』は同じS級チートの中でも、断トツで最強クラスの強チートだということを。
今までのチートとは全く違う威圧感や凄みといったものを、使っている俺自身ですらひしひしと感じるのだ。
「同じS級でも、その中で差はあるってことか……」
戦闘系S級チート『剣聖』はいわばチート・オブ・チート。
であれば、だ。
「A級ごときがいようがいまいが、今の俺がたった100体の妖魔に遅れなどとるものか――!」
加えて、手にしたものがこれまた半端なかった。
『剣聖』の持つ武器理解効果によって、抜かなくても分かる。
この日本刀は超がつくほどのモノホンの大業物だ――!
「くっ、はっはははは!」
突如、大音声の笑い声が辺り一帯に鳴り響いた。
「いや、愉快愉快! 小僧、脆弱な人族の分際で、えらく威勢がいいじゃないか!」
遠くからでもよく通る大声を響かせながら、巨漢ヤツザキトロールが群れの最後尾から、のしのしと一体だけで前へと出てきたのだ……!
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