第252話 ……なーんてね! うそぴょん!!
「それにしてもアタシの必殺奥義、水・風・火の最強精霊術をここまで完璧に無効化してみせるなんてね……」
いとも簡単に攻撃を封じられた精霊さん( 《精霊神竜》)が、がっくりとうなだれた。
心なしか背中がすすけている。
なんだかんだいいながら、精霊さん(《精霊神竜》)も負けを認めていたんだな――、
「……なーんてね! うそぴょん!! 雷系最強精霊術! 『精霊滅殺雷振破』! うぉりゃぁーーっ!!」
突如として。
戦意喪失と見せかけて油断させておいてからの、不意を突いた直射攻撃が放たれた。
それが無防備な《神焉竜》の顔に直撃する――!
「アハハハハハ! どうだみたかーー!!」
「おい! 精霊さん(《精霊神竜》)! だまし討ちとかせこすぎるぞ!」
「ふっふーん、これがアタシの勝利の方程式、ウイニングスタイルよ!」
「いや自分で言うなよ……」
すがすがしいまでのセコさだった。
「なんていうの? 今までしてやられたのは全て油断させるため、っていうか? そりゃもちろん、あわよくばそれで勝てたらってのはあったけどね!」
「くっ――! まさかの計画的犯行だと!」
「そして絶好のチャンスを窺って、アタシの最強精霊術でも最速を誇る雷系最強精霊術『精霊滅殺雷振破』でピンポイントアタック! ふっふーん! これがグローバル戦略というものよ!」
「なにがどうグローバルかさっぱりわかんないけど……それでも、ここまである程度撃ち負けるのも実は想定内だったってことか」
さすが、セコい作戦にかけては精霊さん(《精霊神竜》)の右に出る者はいない……!
「へっへーんだ、戦場ではね、気を抜く方が悪いんだもんねー! 悲しいけどこれって戦闘なのよね! I Win! アタシの勝ち! これがアタシの真の実力! ひゃっはー! ざまーみろ!」
「……なにを見ろと言っておるのじゃ?」
『精霊滅殺雷振破』の直撃によって巻き起こった蒸気のような煙の向こうから、そんな声がした。
――《神焉竜》の声だ。
「……え?」
精霊さん(《精霊神竜》)が間抜けな声を上げた。
煙が晴れた向こうにいたのは、翼を大きく広げうーんとひと伸びする《神焉竜》。
無傷の《神焉竜》を見て、
「はぇ……? 雷系最強精霊術『精霊滅殺雷振破』がまったく効いていない……?」
精霊さん(《精霊神竜》)がぽかーんとした。
「確かに戦場では気を抜いたほうが悪いのぅ。それはまったくじゃな、間違いない」
「そんな!? 今のは完全に不意を突いたはずなのに……!」
「ふむ、一つ言っておこうかの。どうもさっきからなにやら勘違いしておるようじゃからのぅ」
「勘……違い……?」
「確か、ここアストラル界では精霊は5倍の力を得る――そう言っておったの?」
「言ったわ! 正確には平均4.79583倍なんだけど、まぁ5倍よね!」
当たり前のようにちょっと盛ってる精霊さん(《精霊神竜》)。
これくらいなら、もうツッコむ気もないです。
「じゃがの。もともと10倍以上の戦闘力の差があったとして、弱い方が5倍になって勝てるようになると、なぜ思ったのじゃ?」
「え……? じゅ、10倍……!?」
「『以上』と言ったのじゃが? 大切なことじゃ、間違えるなよ小精霊」
「いや、いいだろそれくらい……」
こっちはこっちで細かいところにやたらとこだわる、最強のSS級ドラゴンさんだった。