第240話 進撃の幼女
「動物掛け言葉?」
「動物の名前を使った軽妙なギャグで、このガッテンガーゴイル君を納得させてみなさいってこと!」
言って、粉砕されたのとは別の新たなガーゴイルを指差す精霊さん。
塵となった10年物ガーゴイルと比べると、色々と雑というか、細かいところがガクッとディティールダウンしていた……。
「つまりダジャレか……なんつーか子供の遊びみたいだな。あれだろ……猫が寝ころんだ、みたいな感じだろ?」
俺が何気なく言った瞬間――、
ブブー!
ブブー! ブブー! ブブブブブブー!!
俺のダジャレを聞いたガッテンガーゴイル君が、バッテンの書かれたパネルを掲げながらブーブーブーブー激しく鳴りはじめた。
「はい0点、出直しなさい」
ということらしい。
「くっ、この……!」
べ、別に今のは本気で勝ちにいったわけじゃないし?
ちょっと試しに例えで言ってみただけなんだからねっ!
そこんとこ勘違いしないでよねっ!
「じゃあ誰からやる? 別に誰が何回やったってかまわないからね? 好きなだけ挑戦するがいいわ!」
「いいのか、そんなこっちに有利な条件で?」
「ふっふーん、構わないわ! なんせガッテンガーゴイル君はちょっとやそっとのダジャレじゃ納得しないからね! 己の無力さに絶望して自ら敗北を認め、泣いて許しを乞いなさい!」
よほど自信があるのか、またもや精霊さんが調子にのっていた。
「しかし単に負けるところを見たいんじゃなくて、自分から負けを認める姿が見たいとか、ひねくれてんなぁ……」
「で、誰からやるの!」
調子に絶賛ライド中の精霊さんに、
「すみません、僭越ながら次はトワがやってみても宜しいでしょうか?」
トワがおずおずと手を挙げながら答えた。
「って、今度はそっちの幼女? よーじょ戦記なの? 言っとくけどこれは高尚な言語センスを用いた知恵比べだかんね! おままごとの延長の子供の遊びと一緒にしないでもらいたいわね!」
「どうやら問題ないようなので、いきます――」
トワが軽く息を吸って、異議がないことを確認するように周りを見渡した。
そして――、
「哺乳類ギャグ10連――! イルカはいるか?、パンダの朝ごはんはパンだ、牛が笑うウッシッシ、イタチの生い立ち、ハイエナは言えない、シロサイにはむしろ災難、キリンの食べた焼きリンゴ、シマウマのおもちゃを仕舞うママ、コウモリと行こう森へ、コイワシクジラの恋はしくじらない!」
「なっ!?」
物静かなトワからはとても想像できないダジャ連打(ダジャレの連打ね)に、
ピンポン!
ピンポンピンポンピンポーン!!
「ガッテン」と書かれたパネルが高々と掲げられるとともに、軽快な音が鳴りひびいた。
「はいぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!??」
そして精霊さんが目を見開いて固まっていた。
正直俺も驚いた。
って言うか最後のなに?
ひぃ、ふぅ、みぃ、よ……7文字の掛け言葉なんだけど??
「こういうのは得意なのです」
割と無表情なことが多いトワが、珍しく鼻息も荒く自慢げだった。
かわいいな、うん。
「でもこれはもう、得意とかそう言う次元を超えている気がする」
苦笑交じりの俺と同様、
「なんで!? なんでなんで!? なんで幼女相手に立て続けに瞬殺されるかなっ!?」
精霊さんも混乱の極みにあるようだった。
「いいえ、それは違います」
「えっ?」
そこに入ったのはトワの冷静な指摘。
「幼女と思って慢心したのがあなたの敗因ですよ。子供の遊び心はそれこそ、無限大の可能性なのですから」
「くっふぅぅぅっっっっっっ!! この幼女、マジ正論!」
完膚なきまでに追い打ちを受けた精霊さんは、がっくりと肩を落としていた。
しかもあっさり勝利したトワはというと、精霊さんに速攻で背を向けると、
「それで《神滅覇王》。トワには、なでなではしないのですか?」
なんて聞いてくるのだ。
「あ、うん、そうだな。偉いな、なでなでー」
「ふぁ、気持ちいいです……」
ハヅキ同様に頑張ったトワに対して、俺は心を込めてなでなでしてあげたのだった。
「くっ、なんなの! なんなのこいつら!? ほんとなんなの!?」