第233話 ……それはひょっとしてギャグで言ってるのか?
とまぁ。
巫女エルフ村奪還を決めた俺たちだったんだけど。
「うにゅ、さむい……」
うー、さむいよーってしょんぼり困り顔のハヅキに、
「ぶるぶるです……」
わずかに表情を曇らせただけながら、しかしぶるぶると寒さに震えているトワ。
「でもモコモコのおかげで、どうにかしのげそうです……」
そうは言いながらも、ウヅキだって身体を縮こませていて寒そうなことこの上ない。
いつものようにがんばって我慢しているのだろう。
「正直言って俺もすっげー寒い。まずはこの寒さ対策をどうにかしないとな……って《神焉竜》? お前一人だけ平気そうだよな?」
みんなが寒さに身をすくめている中で、一人モコモコ厚着もなしで平然としてる《神焉竜》がいた。
「なに、妾は下は絶対零度、-273.15℃でも活動可能じゃからの。これくらいの温度変化はたいしたことはないのじゃ」
とのことらしい。
「最強のSS級を名乗るだけあって、お前ってほんとハイスペックだよな……」
「それほどでもあるのじゃ。ちなみに上は1200万℃くらいまでイケるのじゃ」
「えっと……1200℃じゃなくて、1200万℃?」
「そうなのじゃ?」
「……それはひょっとしてギャグで言ってるのか?」
「マジレスなのじゃ?」
っていうかそれだけ熱に耐性があるくせに、「南方大森林ミステリーツアー!!」は日差しが強いから一緒に行きたくないとかほざいてたわけ?
いやもちろん、不快なのと耐えられるのはあくまで別の話だってのは、分かるんだけどね?
「《神焉竜》、お前ってやつはほんとむらっ気いっぱいの気分屋だよね!」
「主様からお褒めに預かり光栄なのじゃ」
「いや褒めてないからね?」
「しかし、ふむ……さしもの奥方殿も寒そうじゃの……寒さは身体に障る一番の大敵、ではこうするのじゃ――」
最後のツッコミをガンスルーした《神焉竜》が、そう呟いた直後――、
「はぅ、寒いです……って、え、あれ? なんだか急に暖かくなってきたような……?」
「うにゅ、ぽかぽか?」
「気温がぐんぐん上がっていきます」
「――俺もだ、なんかポカポカしてきたぞ?」
急に暖かくなってきたのだ。
みんな暑くなってモコモコを脱ぎだして――つまり一時的にではあるものの、エルフ村に平和が戻ってきたのだ!
「ありがとう《神焉竜》! ――で、これはお前がなにかやったってことだよな?」
思わず口をついて出た俺の問いかけに、
「妾の切り札たる黒粒子を目には見えない程度に周囲に展開し、それを振動させることで物理的に熱を発しておるのじゃ」
特になんでもないことのようにさらっと答える《神焉竜》。
「なんかえらく現実的というか科学的な手法というか……あともうここまでくると反則レベルで有能だな、お前……」
「うむ、役に立ってなによりなのじゃ。では、対価としてなでなでするがよいのじゃ」
「えらいぞ、なでなでー」
あったかくしてもらった上に、色々度肝を抜かれた俺は、いつにもまして丁寧に心を込めてなでなでしてあげたのだった。
「うむうむ、とっても気持ちいいのじゃ。主様の優しい心が伝わってくるのじゃ」
しばらく《神焉竜》をなでなでしてあげてから、
「原因に心当たりはあるのかな?」
俺は頃合いを見て巫女エルフちゃんに話かけた。
「確か最初に言ってたよな、エルフ村は《精霊神竜》と精霊契約をしているから常夏なんだって。つまり――」
「たぶん、はおーさまの想像どーりだよー。詳しくはわからないけどー、《精霊神竜》がなにかしてるんじゃないかなーって」
「やっぱそうか……そうなのか……」
やれやれ……。
つまりこれってあれだよな?
「またSS級がらみの案件ってことだよな……」
異世界転生してまだ2週間も経ってないってのに、もうこれで4度目となるSS級との対決である。
人間どうしてもってこと以外は、あきらめが肝心だ。
これは何度も言っているけど、俺の唯一と言ってもいいポリシーでもある。
そして事ここに至ってはもう認めざるを得ないだろう。
「どうやら俺には、SS級と遭遇してしまう特異な才能があるらしい……!」
――と。