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第24話 『え? なんだって?』 (2回目)

「それでその、わたし、考えたんですけど」

「うんうん、なにをかな?」


「今のわたしじゃ、セーヤさんには釣り合わないって。だからもっといろんなことをがんばって、セーヤさんの隣に――は無理でも、半歩後ろくらいにはいられるようにならなくちゃって。だから――」

 そこでウヅキは少し溜めを作ると、意を決したように宣言した。


「――だから昨日のことは忘れてください」


「え? なんだって?」


「――だから昨日のことは忘れてください」


 即座にディスペル系S級チート『え? なんだって?』が発動し、またもや2度目の死刑宣告を受けてしまう俺。


 あのさ、この『え? なんだって?』ってチートなんだけどさ。

 瞬間的に因果を断絶して結果をなかったことにするっていう、時間を巻き戻すレベルの、ほんとにすごい効果なんだろうけどさ。

 ナチュラルに暴発するリスクがあって、精神的にかなり(こた)えるですけど……。

 っていうか、


「はい……?」

 なん……だと?

「今、なんて……?」


「だからですね! いつかわたしが素敵な女の子になれたら、その時には胸を張って……えへへ、セーヤさんに大人の女にしてもらいますので!」

「えっと? え?」


 照れ照れしながら、頑張って言っちゃった!って感じのウヅキは、それはもうこいつマジ天使かよってくらいに可愛いかったんだけどさ。


「いや、ごめん、いったいなにがどうなって――」

 こんなことに――?

 そんな俺の言葉は最後まで発せられることなく、きゃーきゃー盛り上がっちゃってるウヅキの言葉にかき消されてしまう。


「あの時強引にセーヤさんに抱きしめられたら、多分わたしそのまま抱かれちゃってたと思うんです。でもセーヤさんは、そうしませんでした。わたしのことを何より大切に考えてくれて……わたしすごく嬉しかったんです。こんな素敵な男の人が世の中にはいるんだって!」


「あ、ありがとう、うれしいよ……でさ――」

 昨日のことなんだけど――と続けようとした言葉はしかし、またもや興奮覚めやらぬままのウヅキの声によって(つゆ)と消える。


「同時にこんなことしてる自分が情けなくなっちゃったんです。もっと自分を磨かないとって。こんな素敵な人が気にかけてくれて、わたしのダメダメさに気付かせてくれて。ほんとに、セーヤさんはさすがです、さすがすぎます!」

 心の底から俺のことを信じ切った、すっごくキラキラした目でそんなことを言うんだぜ……


「えへへ、言っちゃった……きゃっ」

 なんて可愛くはにかむんだぜ……

 そんなもん、


「言ったろ、俺はウヅキの笑顔が一番大好きなんだって……ははは、はははは……」

 って言うしかないじゃないか!

 言わざるを得ないじゃないか!


 俺は、俺は! 女の子のこんな信頼でいっぱいの純真無垢(むく)な想いを裏切れるほど、図太い神経はしていないんだっ……!


 ……え? アリッサのことは裏切ったって?

 実のところさ、正直あれは悪かったと思ってるんだよな。


 あの時の俺はただただ最高の異世界転生がしたくて、結果的に悪魔に魂を売っちゃったんだよね……アリッサが歴史編纂(へんさん)室電子入力係に飛ばされてないといいんだけれど……


「って、そうでした。ごめんなさい、わたしばっかり話しちゃって。次はセーヤさんがお話する番ですよね」

「えっ……ぅえっ!?」


「? えっと、セーヤさんもお話があったんですよね?」

 ぽてんと首をかしげるウヅキ。


「あ、ああ。いや、うん、そうだね、その……な、なんの話をするんだっけかな、忘れちゃったよ……はははは」

 俺は歯を食いしばって笑顔を作った、作り続けた。

 心の中をさめざめと流れる血の涙をおおい隠すように、表情筋という表情筋を総動員して――。


「? へんなセーヤさん。ふふっ、でも思い出したらいつでも言ってくださいね」

「うん、思い出したらね……」


 オッケー、この話は墓場まで持っていこう。

 ことここに至っては、俺は最後までええかっこし続けるんだ……武士は食わねど高楊枝(たかようじ)だ……!

 ウヅキの信頼に応えるために、俺はそう固く心に誓ったのだった。


「セーヤさんの話したいことなら、なんでも聞いちゃいますから。むしろセーヤさんのお話をいっぱい聞かせてもらいたいですし、えへへ」

 そう言って、ひじを曲げて「がんばる」ポーズを見せるウヅキは、それはもう可愛くて。


 だからいいんだ、これでいいんだ。

 何も間違っちゃいない、これで良かったんだ。


 ははは、はははは…………ははっ……はぁ……

この度は本作をお読みいただき誠にありがとうございました。

よろしければブックマークと評価をいただければとても嬉しく思います。

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