第229話 ヨイショはいらないよ、素直に言いなさい
川遊びでウヅキにカッコいいところと見せた後。
俺たちは和気あいあいと楽しくおしゃべりしながら、村の中を見て回った。
エルフ村にしかないという『《神滅覇王》歴史資料館』では、
「『剣を振る《神滅覇王》(想像図)』……」
「これセーヤさんも使っていた黄金剣です!」
「……なんていうかその、この剣100メートルくらいない? っていうか絵のほぼ全てが黄金剣だよね? そしてこの隅っこに、おまけみたいにちっさく描いてあるのが《神滅覇王》……」
「それだけ黄金剣のインパクトがあったということですね」
想像図というか枠内ほぼ全部が金色でグワーッ!って描かれた絵を見たり。
「『《神滅覇王》直筆の少女の絵』……ウヅキ、素直な感想を」
「うっ、その……こ、個性的な絵ですね……?」
「ヨイショはいらないよ、素直に言いなさい」
「……ヘタだと思います、すごく……特に人物が……どう頑張っても女の子には見えません……」
「これを高そうな額縁に入れられて後世まで残された《神滅覇王》はツラいな……」
「えっと……あの……はい……」
《神滅覇王》が描いたという絵をみたりして、俺はその偉業(?)に初めて触れたのだった。
…………
……
そうしてエルフ村デートを満喫した俺たちは今――、
「わぁ! すごいです! 黄金色のじゅうたんです!」
一面ひまわりで覆われた一角を見下ろしながら、二人並んで御座の上に座っていた。
「最後に見てくださいと言うだけあって、確かにこれはなかなか壮観だな」
「はぅ……まるで物語の中にいるみたいです」
ウヅキがうっとりしながらつぶやく。
「物語って?」
「黄金色に力強く咲くひまわりは《神滅覇王》が特に好んだ花として有名なんです。一面のひまわり畑は、創世神話や後世のお話にも何度も登場するんですよ!」
「そうなのか……にしても嬉しそうだな」
こんなにはしゃぐウヅキは、あまり記憶になかった。
「だって多分ここがそのオリジナルのひまわり畑ですから! 南方大森林の奥に住まうエルフの村なんて普通は入れませんし、わたし感動です!」
「うん、なら来てよかったよ。俺もいいもの見れて&ウヅキの喜ぶ姿も見れてダブルでハッピーだしね」
「えへへ、ありがとうございます」
でもそっか。
《神滅覇王》の巫女たる巫女エルフちゃんたちは、昔から続く伝統をこうやって今に至るまで守り続けているんだな。
いやほんと、いい話じゃないか……。
ただその?
巫女エルフちゃんから最初に受けた案内でさ?
常夏なことを利用してひまわりの花を年中出荷するのがエルフ村の主力産業で、特に冬は高く売れる――とかなんとか言っていたのさえなければ、俺ももっと素直に感動できたと思うんだよな……。
太古のロマンにあふれた伝統の継承から一転、なんとも現実的なお話であることよ。
「ま、巫女エルフちゃんってばとっても素直で正直者だもんな……包みかくさず話してくれたことを、むしろ評価するべきだろう」
正直な女の子が馬鹿をみるような異世界転生にだけは、俺は絶対にしないのだから――。